九州壇氏のレビューコレクション
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僕らの一歩ノベルゲームをしている学生の物語。僕は15分ほどで読了できました。 自分もノベルゲーム制作をしていることもあって、終始親近感を持って読むことが出来ました。描写は端的で淡々としていますが、主人公の内面には多分もえたぎるものもあったんじゃないかなと思いながら読ませて頂きました。 @ネタバレ開始 日常を不器用に生きる様子と、チャットの中では好きなことを率直に語り合う様子が対比的に書かれている点が印象的でした。 三田君も木山も、普段の生活では欲求不満を抱えていたのだと思います。三田君は本当の思いを言えずに周りに合わせてしまう一方、木山は正直に思っていることを言って浮いています。日常生活でうまく立ち振る舞えないからこそ、彼らは創作に向かうのかもなあ、なんて思いました。「この後、2人はどうしたのだろう」と、その先を想像せずにはいられませんでした。
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Paint Over納得のいく絵が描けなくなった相沢君を主人公とした物語。僕は30分ほどで読了できました。シナリオやイラスト、演出いずれも完成度が高く、短編ながら大きな満足感を得られる作品だったと思います。 @ネタバレ開始 シナリオについては、相沢君と牧野さんの高校生らしいやり取りが特に良かったと感じました。美術を愛する者同士である2人の、程よい距離感の描写が印象的でした。こういう青春を過ごしてみたかったなあ……(笑) また、主人公の悩みの描き方も巧みであったと感じます。かくいう僕は、絵が全く描けません(笑) しかしそんな僕でも、漠然としたものに悩んでしまう相沢君の心境には共感できました。新しい刺激を受けることで吹っ切れるという展開も、すごく納得がいきました。 それにしても。好きなものに一生懸命な人ってまぶしいですね……。彼らの姿には勇気をもらいました。 イラストと演出については、特に2人で紅葉を見に行くシーンが印象的でした。まさにノベルゲームだからこそできる表現だったのではないかと思います。
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名もない吐息1時間ほどで読了できました。 自分も“青春後“を生きていることもあってか、大変興味深く読ませて頂きました。人によっては「子供っぽい」、「甘えている」と評価するかもしれない、でも、誰かにとっては切実な「生きづらさ」を大切に扱った作品だと感じました。 @ネタバレ開始 読んでいて最初に面白いと感じたのは、2人の距離感の描き方でした。2人が、腹のうちを探り合いつつも少しずつ近づいていく感じがよく伝わってきました。こうしたリアルな雰囲気を丁寧に描写していたからこそ、彼らが時折見せる大胆な行動が特別なものに見えたのだと思います。 2人の心理が変化していく様子は、大変興味深く読ませて頂きました。 個人的には、直井の心理に共感を覚えることが多かったです。彼には理想の大人像があったこと、そして、それに比べて自分は平凡だと思い知らされてきたことが、文章の端々から伝わってきました。当初の彼の中には、「このままで生きていくのは嫌だ」という思いがあったのではないかと思います。鴨野さんに対する、随分と思い切った行動がそれを示しているように感じられました。 また、鴨野さんの中にも、「平凡な自分を認めたくない」という思いが多少なりともあったんじゃないかな、と感じます。 鴨野さんは、「溜息に名前を付ける」という言葉をかなり気に入ります。ここからは個人的な解釈ですが、「溜息に名前を付ける」とは、自分の今の苦悩を特別なものとして扱うことを意味しているのかなと思いました。終盤の彼らは、「自分の切実な悩みも実はありふれたもので、自分は平凡なことで悩む平凡な存在なのだ」と思い知らされたのではないかと思います。いよいよそれを受け入れるしかなくなって出てきた言葉が、「溜息に名前があればいいんですけどね」というセリフだったのかもなあ、なんて思いました。 個人的には、彼らが時折見せてくれるユーモアに救われる心地がしました。「ため息に名前を付ける」なんて考えたことなかったですね(笑) 直井も作中で同じようなことを言っていましたが、こういうささやかな彩りが“青春後”を生きる上で大切なんだろうなと思います。 『自分は平凡である。それこそ、名もない吐息みたいに、特別でも何でもない存在である。それを受け入れて、生きていかねばならない』 僕は、本作品からそんなメッセージを受け取りました。 “青春後”の悲しみにそっと寄り添ってくれるような、素敵な作品だったと思います。ありがとうございました。
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死ぬよりもつらいこと1時間ほどで読了できました。 この作者様のゲームは、ほぼ全てプレイしています。 自分でも不思議に思っていることとして、「なぜ自分は浦田さんのゲームにこんなにも惹かれるのだろう」というのがあります。浦田さんが描くテーマは毎回かなり重たくて、けっこうドロドロとしたものを見せられます。楽しい気分で読めるシーンより、暗い気分になるシーンが多いかもしれません(笑) それなのに、どうして好き好んでこの方の作品を読んでしまうのか。 それは多分、「浦田さんは全力でテーマに取り組み、嘘偽りなく描く」ことを知っているからだと思います。自分ならつい「うまくかわす」ことを考えてしまいそうな事柄でも、この方は決して逃げず、真摯に取り組みます。だから毎回、「このテーマを浦田さんはどう描くんだろう」と気になってしまうんだと思います。 そんな浦田さんの作品で僕が1番好きなのが、この「死ぬよりもつらいこと」です。浦田さんの並々ならぬ思いを感じることのできる傑作だと思います。 @ネタバレ開始 本作品では描写の解像度が高まったと感じるシーンがいくつかあって、そこに作者様の個性を強く感じました。そのうちの1つが、誰かの死で苦しんでいる人の描写です。この部分は、作者様自身が深く考えなければ書けないものだという気がしました。 例えば、海翔の場合。 兄が自殺した後、海翔の母は激しく感情を表出します。が、時がたつにつれて、彼女は少しずつ前に進み始めました。一方、海翔は全く泣けませんでした。その後も、「兄が急にいなくなった」という現実としっかり向き合えないままに、時間がどんどん流れてしまいます。海翔の苦しみは、もちろんうつ病のせいでもあるのでしょう。しかし本質的には、兄の自殺に向き合えず「取り残されてしまった」という感覚があるからこそ生じたんじゃないかな、と思いました。このあたりの海翔の心理描写は非常にリアルで、夢中になって読んでしまいました。 また、杏の心理描写も、真に迫るものがありました。 父の死があまりにもつらかった彼女は、自分の心を守るために父を憎みます。が、その一方で、「父が死んだのは自分のせいだ」ともずっと考えていました。父を完全に嫌いになってしまえればもっと楽になれるのでしょうけど、彼女はそれを選ばなかった。というか、選べなかったんでしょうね。表面では父に怒りを覚えつつも、深いところでは父を愛していたからなのだと思います。こうした複雑な思いが同時に存在するという描写には、深く共感できました。また、杏が本当の自分の気持ちに気が付くシーンには、目頭が熱くなるほどに感動しました。 目を覆いたくなるくらいにつらいものを描いた本作品ですが、登場人物たちは最後に「それでも生きる」と決意します。個人的には、この作者様がこのような形で物語をしめたところにも、深く感動させて頂きました。 技術的な部分に言及いたしますと、本作品は特に構成が素晴らしかったと思います。真一郎と栄一が創作に向かうシーンはかなりテンポも良いし、楽しく読めます。これが序盤にあったからこそ、自分は物語に深く入り込めたのだと感じます。 キャラクターとしては栄一が好きで、創作にストイックなところが良いと思いました。「物語の解釈を制作者がべらべら語りたくない」という言葉は、少し耳が痛かったです(笑) 立ち絵も曲もすべて自作されたとのことで、その努力に脱帽です。ED曲は特に歌詞が印象的でした。クリア後も何度か歌詞を見ながら聞き入ってしまいました。 @ネタバレ終了 本作品を読むことが出来て、本当に良かったです。素晴らしい作品をありがとうございました。
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忍者爆発20分ほどでクリアできました。はじめはバッドエンドばかりでしたが、2、3回くらいプレイすると何をすれば良いかがだいたい見えてきました。 @ネタバレ開始 ものすごくエネルギッシュな作品で、ぐいぐいと引っ張られていきました。 自分の心の動きとしては、「何が始まったのか全然分からん……」に始まり、「おお、そうだったのか!」となり、最後で「いや、やっぱりよく分からん!」となりました(笑) 個人的には、概要欄にあるエンディング到達条件が「心の忍者がある」となっているのがツボ。初めから終わりまでめちゃくちゃ面白かったです。 「ぶちこんでいくぜ!」は流行語大賞が狙えるレベルだと思います。
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ツンデレ幼馴染を幸せにしたいツンデレも幼馴染みも好きなのでプレイさせて頂きました(笑) プレイ時間は10分足らずでした。 @ネタバレ開始 ふみちゃんがとにかく可愛かったです。短編ではありますが、ツンもデレも程よく味わえて、最高でした(笑) バッドエンドは、そこに至る選択肢を選ぶのもつらかったです……。全てのエンドを回収した後はもう一度いちゃラブENDを見て、心を洗いました。
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リベリオン・ヒーローズヒーローごっこを通じて仲良くなった2人の交流を描いた物語。僕は2時間ほどで3ルートとも見ることが出来ました。終始あたたかな気持ちで読むことが出来る、素敵な作品でした。 @ネタバレ開始 本作品をプレイして、なんだかものすごく癒されてしまいました。個人的には、良い意味でとても「かわいい」作品だったと感じます。 立ち絵やイベントスチルが可愛らしいことは、言うまでもありません。が、本作品はそれに加えて、ほのかとヤマトというキャラクターの可愛らしさが印象的でした。 クリアしてしみじみと思うのですが、ほのかもヤマトも本当に「いいやつ」なんですよね……! 外見的特徴や所属等だけで相手を判断する人も多い中、2人はちゃんと相手の内面を見て判断しようとします。そんな、他者に対して誠実であろうとする態度にとても好感が持てました。「自分も見習わなければ」と何度思ったか分かりません(笑) 2人がこんなに「いいやつ」になったのは、過去の経験も影響している気がします。2人は周りとは違う特徴を持っていて、そのせいでつらい思いをしてきました。だからこそ、1つの特徴、属性だけでレッテルを貼るような真似を嫌うのかなと思いました。なお、つらい思いによってひねくれてしまう人もいますけど、2人はとても素直です。それは、彼らの家族もまた「いいやつ」だったからかもなあ、なんてことも思いました。 2人が結ばれるED1とED2が特に好きです。とてもお似合いだと思います。 ビジュアル面については、ほのかが特に可愛いと感じました。が、もっとも印象に残ったのはヤマト君です。自分はもともと犬好きなので、そのせいかもしれませんが……。ゲームをしていてこんなに「モフりたい!」と思ったのは初めてという気がします。こんなこと言ったら、ヤマト君には嫌がられそうですけどね(笑)
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テニスのポンチ様ユニークな題名に惹かれてプレイしました。プレイ時間は15分ほどでした。九州で生きている自分としては、キャラクター達の言葉遣いに親近感を覚えながら読ませて頂きました。 @ネタバレ開始 高校生らしいやり取りにニヤニヤできてしまう作品でした。ポンチも主人公も、かわいらしいですね……! ささやかに思える出来事を大切に描いている点も好きです。自身の学生時代を懐かしい気持ちで思い出しました。
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でじゃびびっど!精度の悪い予知夢を見るようになった主人公と、その幼馴染との物語。僕は50分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 本作品最大の盛り上がりポイントは、ラストの選択肢だと思います。 「世界を救うか、彼女を救うか」 そんな究極の選択を前にして、自分も文吾と共に悩みました……。作者様の「描きたかったものはこれだった」というお言葉も納得です。これは確かに感情を揺さぶられますね。 個人的には、HAPPY ENDが1番好きです。プレイヤーにもその先の「夢」を見させてくれるラストに心打たれました。 また、そのシーンに至るまでの過程の描き方も実に見事だったと思います。序盤、中盤は2人が思い出を積み重ねていくシーンが続きますが、大変楽しく読むことが出来ました。特に、夢パートの愛里と現実パートの彼女が違い過ぎる点が面白くて、毎回笑ってしまいました。この対比では、BGMも良い仕事をしていたと思います。 ヒロインである愛里はめちゃくちゃ可愛かったです。ツンデレな幼馴染、個人的に大好きなんですよね(笑) 彼女は敵に回すと怖いんでしょうねぇ……! でも、そんなところも魅力的だと思います。 イラスト面も良かったです。1番印象的だったのは、愛里が最後に振り返るあのイベントスチルです。プレイヤーの要求レベルも高くなってしまうシーンだったと思いますが、そこであれだけのものを描いてみせた絵師様は素晴らしいと思います。 @ネタバレ終了 作者様方の思いがこもった素晴らしい作品だったと思います。ありがとうございました。
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きみとほしをみる。記憶がない里香が、年下の男の子であるハルタと星を見に行く物語。僕は20分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 短いながら、印象深い物語でした。異なる境遇にある2人の交流を見て、感じるものが多々ありました。 「ひとは、与えられた環境で自分自身を生きるしかない。ただ、誰かに寄り添うことはできる。誰かの幸せを願うことはできる」 僕は、本作品からそんなメッセージを受け取りました。2人の未来に幸福が訪れることを願ってやみません……。 なお、本作品は我々が生きている時とは違う時代を舞台としています。が、自分がその設定をあまり違和感なく受け入れられた点も印象的でした。なぜだろうと自分なりに考えてみたのですが……。おそらく、設定の説明が展開的に無理のない範囲でなされていたこと、そして、異なる環境で生きるキャラクター達が実に人間らしく描かれていたことが理由だと思います。「確かに、未来の人間はこんな風に生きていそうだな」と思うことはしばしばあり、作者様の技量の高さを感じました。余談ですが、医療についての描写も適度にリアリティがあって印象的でした。「ひょっとして、作者様は医療関係に詳しい方かな?」なんてことも思いました(全然違っていたらすみません(笑))。 @ネタバレ終了 短編ながらも心に残る物語でした。ありがとうございました。