九州壇氏のレビューコレクション
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too late but創作活動を細々と続ける男性の物語。僕は30分ほどで読み終えました。読了したのは少し前になるのですが、ちょっと思うところが多く、感想を書くまでに時間を要してしまいました。今でも深く心に残っている作品です。 @ネタバレ開始 本作品の魅力として、まずは文章表現の巧みさがあげられると思います。「限られた文字数の中に様々な思いが込められている」と感じることが何度もありました。特に印象的なものを挙げてみますと……。 「すり減って文字の消えかかったキートップを、愛しそうに撫でるようにタイプしていく」 「彼から発せられる光が、己の影を浮かび上がらせていた」 等ですね。こうした味のある表現は、とても自分からは出てきそうにありません。これはそれこそ、「鍛えに鍛えた、しかし自分の子のように大切に育てた文章」なのかもしれない、なんてことも考えました。1つ1つのエピソードの魅せ方も巧みで、短時間でどんどん物語にのめりこんでいきました。 また、人生のままならなさをリアルに描いている点も大変良かったと思います。良い作品が売れるとは限らないこと。古いものは地層に埋もれていく運命にあること、等々……。エピソードはいずれも長くはないのですが、そのどれもが心にしみました。 また、そうしたリアルさがあるからこそ、終盤で提示されるものがひときわ美しく輝いて見えたのだと思います。たった1つの感想を書いた人物は誰だったかが判明するところは、特に好きなシーンです。この伏線回収も含めて、物語の構成は素晴らしかったと思います。 主人公の生き様については、深く考えさせられました。自分も、「創作を趣味として続けていきたい」と考えている人間なので、主人公に自分を重ねずにはいられませんでした。彼は、何を思いながら物語を紡ぎ続けていたのでしょうね……。それを想像すると、今でもジーンときてしまいます。 特に心に響いたのは、「作者は読み手の心の中で生き続けられる」というラストの言葉でした。僕は以前、「作者が死んだとしても、表現は生き残る」という言葉に出会い、それを今でも大切にしています。この物語は、そんな自分を肯定してくれたような気がして、とても嬉しくなりました。「よくぞこういう作品を生み出してくださった……!」という思いです。 @ネタバレ終了 この作品と出会えたことを幸せに思います。ありがとうございました。 -
指先で世界を見るテニス部員に対する「噂」をめぐる物語。僕は25分ほどで読了できました。 短編ながら、心にずっしりとしたものを残してくれる作品でした。本作品は学校を舞台にしていますが、「こういう問題って、大人になってもずっと付きまとうよなあ……」なんて思いながら読ませて頂きました。 @ネタバレ開始 自分で確認したわけでもない噂を信じてしまう理由って、色々あると思います。真偽を確かめるのが面倒くさいとか。その話は自分にとって都合が良くて、信じたい内容であるとか。噂を共有することで、他者と親密な関係を作れるとか……。 集団で生活することで生き残ってきたヒトにとって、「噂を信じる」という性質は本能的なものなのかもしれないと個人的に思います。ただ、この物語が示してくれた通り、噂によって理不尽に傷つけられている人はいるわけで。根も葉もない噂に対しては、意識して戦わなければならないな、と思わされました。簡潔ながら心に残る物語で、素晴らしかったです。 なお、僕は中学、高校、大学のいずれもテニス部に入部していた人間ですので、本作品の部活の描写には終始共感していました。確かに、1年がいきなり練習に参加できちゃうとものすごく嫉妬されるんですよねえ……。「球拾いにも意味がある!」という言葉も、聞き覚えがありすぎます(笑) 「作者様もテニス部に所属されていたのかな?」なんてことが少し気になりました。 @ネタバレ終了 大変良い読書体験ができました。素敵な作品をありがとうございました。 -
君と二人で歩くことが過去に傷を負った2人の交流の物語。僕は30分ほどで読了することが出来ました。優しい気持ちを思い出させてくれる温かな物語だったと思います。 @ネタバレ開始 本作品の大きな魅力として、主要キャラである2人に好感が持てる点があげられると思います。不器用ながらも相手を思いやる優しさを持っている2人のことが、プレイするほどに好きになっていきました。なお、2人がこれほど優しくできるのは自分たちがつらい思いをしてきたからなのかなあ、なんてことも思いました。2人には心底幸せになってほしいです……! ビジュアル面も大変良かったです。優しい雰囲気のイラストは、本作品によく合っていたと思います。また、それを生かした演出も印象的でした。タイトル画面が変わるたびに2人の距離が縮まっていく点は、素晴らしいの一言しかありません……! 過去のショッキングな映像が一瞬流れるという演出も、強烈な印象を残してくれました。 本作品に込められたであろうテーマも良かったです。本作品にとっては「心的現実」が1つのキーワードになるのかもな、なんて思いながら読ませて頂きました。 後半は特に、優介が凛の気持ちについて思いこんでしまっている姿が印象的でした。彼がそうしてしまうのは、きっと優しいからだとも思うんですよね。相手の気持ちを色々と想像するからこそ、悪い方向にも想像してしまう。でもそれって、必ずしも良いことではないのでしょうね……。 優介と凛は、自分の本当の思いを語り合うことで新たな関係になれたのだと思います。 「相手の心的現実を尊重することが大切であり、そのためには相手とよく話すことが必要なのだ」 そんなメッセージを、僕は本作品から受け取りました。 @ネタバレ終了 総じて、優しい2人をずっと応援していたくなる、素敵な作品でした。ありがとうございました。 -
始めるよ!のこのこ:ぷろじぇくと作者さんが企画した「のこのこ:ぷろじぇくと」について教えてもらえるゲーム。僕は10分ほどで読了できました。 「十三階段の花子さん」をプレイしている者としては、彼女らの描写のテキストが変わるだけでイラストの表情まで変わって見える点が面白いと感じました。特に、音色なのはなちゃんは全然受ける印象が変わりますね……! 企画自体も大変興味深く、彼女らの違う役も見てみたいと思います。かくいう自分も、彼女らに依頼しようかと少し考えたことはあるのですが……。具体的なアイデアが固まれば是非お願いしたいと思います。 素敵な企画をありがとうございます。 -
復活のアーチスト夢に向かって挑む男たちの物語。15分ほどで読了できました。 個人的に、テレビ番組「プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男達」が結構好きなのですが、それを思いださせてくれるようなストーリー展開でした。配球を予測する選択肢はなかなか面白い試みだと思います。もっと続きを見たいなと思うお話でした。 -
夏の思い出高校2年生である主人公たちの恋模様を描いた夏の物語。僕は20分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 本作品の魅力として、等身大の人物描写があげられると思います。「高校時代は確かにこういう感じの人いたなあ……!」と何度も頷きながら読ませて頂きました。 恋模様の描写もリアルでした。蒼汰のように自分の「好き」がよく分からない人って結構いると思うし。「相手の気持ちを試してみる」なんてことをしている人も、いましたねえ……(笑) 良くも悪くも、無邪気に色々なことを試してみたくなる時期なんだと思います。 シナリオも読みごたえがありました。蒼汰が本当の気持ちに気が付いていく展開は、かなり納得できました。 キャラクターの絵も大変綺麗で、特にラストのイラストが印象的でした。素敵な作品をありがとうございました。 -
ヤドカリ僕は50分ほどで読了できました。シナリオの出来が特に素晴らしい作品で、読後の満足感も大きかったです。 @ネタバレ開始 本作品の大きな魅力は、読み応えのあるシナリオだと思いました。 序盤は、王道ともいえるような展開から始まります。美優とえみはどちらも嫌味がないヒロインで、好感が持てました。キャラクター達のやり取りはいずれも生き生きとしていて、立ち絵がなくてもその挙動が見えるようでした。この辺は「やっぱり王道って良いよなあ……!」なんて思いながらスイスイと読んでいたのですが……。ここですでにいくつもの伏線が張られていたとは思いませんでした(笑) 「ヤドカリ」は実在するのかという疑問が出てきてからは、ものすごく面白かったです。本作品は疑念を抱かせる描写が巧みで、その点が特に素晴らしかったと思います。僕は主人公同様、「あの人」にあらぬ嫌疑をかけてしまっていました(笑) ラストも素晴らしかったです。いくつもの伏線が綺麗に回収されていく様は爽快でしたし、何より、彼女らが幸せそうな様子で終わるのが良かったです。3人がその後どんな関係性になったのかはとても気になるところですね(笑) @ネタバレ終了 素敵な物語をありがとうございました! -
みちそう!社会人であるジンさんに恋した少女の物語。10分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 予想していたよりもずっとほんわかした雰囲気の作品で、温かい気持ちになれました。ジンさんは良い人オーラが出ていて、良いですね。個人的には、部長さんも好きです。ちょっとおどろおどろしい見た目ですが、ラストは普通に出てきて笑ってしまいました。 ごちそう様でした。 -
夢の狭間で記憶の一部を失った主人公が、アカネちゃんと共に学校をまわるお話。僕は10分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 気軽にプレイしていたのですが、ラストの展開にはちょっとじーんとしてしまいました。 「アカネちゃんはどんな気持ちで主人公が目覚めるのを待っていたのだろう」 等、色々と想像せずにはいられませんでした。 -
風待ち人 夢追い人(iPhone・iPad対応版)3人の若者が、自分の本当にやりたいことを探していく物語。僕は40分ほどで読了できました。自分の趣向に合う部分が多かったこともあってか、大変印象深い作品となりました。 @ネタバレ開始 本作品の大きな魅力の1つとして、リアリティのある描写があげられると思います。キャラクターはみな等身大で親近感が持てましたし、展開も「新入社員あるある」が満載です。先輩の悪口に神山が同意してしまうシーンなんかは、身に覚えがありすぎてちょっと苦しくなりましたし。金田のネクタイが微妙に曲がっているのを見た時は、芸の細かさにちょっと感動してしまいました(笑) なお、写真画像を背景として使った点も良かったと思います。 特に素晴らしいと思ったのは、本作品のテーマでもあろう「夢」についての描写です。理想と現実のギャップに悩む彼らの描写は圧巻で、何度も心揺さぶられました。例えば、 「安心しているんだな、僕は。彼女のようにならなくてよかった、と。履歴書に空白を作らなくてよかった、と。」 という神山の独白には、魂を感じました。個人的に、この発言には神山の色々な思いが込められているように感じるので、額面通りにとるのもちょっと違う気がします。が、それでもこれは彼の本心の1つであると思うし、実際、夢にはこうした側面もあると思います。ここらあたりから「彼らは一体どんな答えに辿り着くのだろう……」と気になって仕方がなくなり、夢中になってプレイしていました。 その後の展開も、素晴らしかったと思います。思い切って夢の舞台へ身を投じる者。やり方を変えながら夢を追いかける者。そして、明確な夢がなくても、今いる場所で頑張って喜びを見出していく者。どのあり方も、きっと正解なのだと思います。彼らの頑張る姿は最後までリアルに描かれていますが、そこには作者様の温かいまなざしが注がれているようにも感じられました。同じような経験で悩んだことのある、というか、現在進行形で悩んでいる僕としては、大変励まされる思いでした。 主要キャラクターは3人ともとても魅力的ですが、1番好きなのは金田です。彼が祖父との思い出を話すシーンは、ちょっとウルっときてしまいました。また、彼が酔っぱらった岬さんの言いなりになってしまうシーンも大好きです。英語で歌うシーンは、カオス過ぎて吹き出してしまいました(笑) なお、1番自分に似ていると思ったのは神山です。彼の行く末は特に気になっていたので、彼が見せてくれた最後の笑顔はとても印象に残りました。 演出は総じてハイセンスで、フリーゲームとは思えない出来栄えだったと感じます。挿入歌「よわむしスクートニプ」が流れるシーンは特に印象的で、まるで映画のワンシーンを見ているかのような心地でした。ラストシーンも、めちゃくちゃお洒落ですよね……! 「風待ち人 夢追い人」というタイトルもぴったりとハマっていて、制作者様のセンスの高さを至るところで感じました。 イラストは、岬さんの立ち絵が特に好きです。彼女がタバコを吸っている立ち絵は、とても素敵でした。余談ですが、最初は年下にしか見えなかったはずの彼女が、後半はちゃんと年上に見えてきて、その点にもちょっと感動してしまいました(笑) @ネタバレ終了 総じて、全ての面でハイレベルの作品であり、特にシナリオは心に深く残りました。素晴らしい作品をありがとうございました。
