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九州壇氏のレビューコレクション

  • 自分よりも大切な存在完全版
    自分よりも大切な存在完全版
    僕は2時間ほどで2つのルートをクリアすることが出来ました。子供を欲しいと願う人々の切実な葛藤を描いた作品で、大きく心揺さぶられました。この作者さんの作品はほとんど全てプレイしていると思うのですが、本作品は特に好きなものの1つとなりました。なお、僕は通常版の「自分よりも大切な存在」もすでにプレイしていたのですが、完全版ではまた別の視点で「子供を産むこと」が描かれており、楽しむことが出来ました。すでに通常版をプレイした方にもおすすめしたい作品だと感じています。 @ネタバレ開始 本作品は、前半の共通パート、後半の分岐パートで構成されています。 共通パートでは、楓と愛海という2人のヒロインとの学園生活が描かれています。前作の「通常版」では愛海がかわいそうに思えるところがあったのですが、「完全版」では愛海とのドキドキするようなシーンも追加されており、その点も良かったです。分岐へとつながる選択肢では、どちらを選ぶべきかとかなり葛藤しました(笑) ただ、本作品の真骨頂は、分岐をしてからだと思います。楓ルートと愛海ルートは、それぞれで描かれるものが異なっておりますが、それぞれの良さがあったと感じます。 個人的に素晴らしいと感じたのは、どちらのルートに入っても、もうひとりのヒロインが重要な役割をもって再登場することです。学生時代に恋愛関係とはならなかったけど、その後再会して新たな絆が生まれる。このあたりの描写はリアリティもあって、大変良かったです。 個人的に特に好きなのは、楓ルートです。主人公の出生に関する苦悩が物語の上で重要な役割をもっているなど、ストーリーの完成度も高いように感じました。 楓ルートは、楓と2人で不妊症の問題に向き合っていくことから始まります。主人公と楓は家族に対する考え方が大きく違うことが、本ルートにおける大きなポイントだと思います。主人公は「子供はいなくても幸せになれる」と考えるも、楓は「どんなに苦しくても子供が欲しい」と願う。このあたりの2人の葛藤は強く共感できるもので、大変読みごたえがありました。 楓の「結翔君と血のつながった子供を産んであげたいの」という台詞は、本作品の中で僕が一番好きな言葉です。「子供がほしい」という願いは、「親のエゴ」だという見方も確かにできるのだと思います。しかし一方で、深い愛情をもって産みたいと願う人々も沢山いるのだろうとも思いました。 なお、愛海との結婚を決意する時の結翔の気持ちについては、「この部分は、自分と結翔で価値観が違うな」と感じました。ただ、結翔のこれまでを考えると、彼がそんな風に考えるのも無理はないよな、とも思いました。 次に、愛海ルートについて。個人的には、前回でいわゆる負けヒロインであった愛海とカップルになり、仲良さそうにしているところが嬉しかったです。それだけに、愛海が苦悩する様子をみるのは胸が痛くなりました。特に、スマホアプリにて「ママと会えるのが楽しみだよ!」という文章が表示されるという演出は、共感しすぎて苦しくなるほどでした。 愛海ルートでは不育症の問題を扱っており、その点が楓ルートとの大きな違いのひとつです。ただ、愛海ルートではそれに加えて「家族を持つことは本当に良いことなのか?」「子を作ることは、親のエゴではないのか?」という問いについても丁寧に描かれていたと感じました。 完全版での追加要素の中でも大きなものが、門川陸斗の存在だと思います。彼は「家族を持つことは良いことだ」という考えに対するアンチテーゼとして存在しており、本作品のテーマに深みを与えてくれるものであったと感じます。彼の思想は反出生主義的で、実際、そのような思想を持っている人も決して稀ではないと思います。そんな彼の、「親は自分の幸せだけを考えて子どもを作るんだ」、「産むことは親のエゴだ」という発言に対して、結翔はどんな風に考えるのか。それが本ルートの大きな見どころだったと思います。 不育症という問題にぶつかり苦悩する結翔と愛海でしたが、その末に結翔が出した結論は納得感のあるものだったと思います。 「産むことが夫婦にとって、そして子ども自身にとって幸せだと信じているから産むんだ」 「俺にとって、これから生まれてくる子どもは自分よりも大切な存在だ。子どもと一緒に作る幸せを見たいと思っている」 陸斗にむけて語ったこれらの言葉こそが、本作品全体のメインメッセージだったようにも思いました。 正直なところ、ラストは愛海が出産できたかどうかが明らかになるところまで描かれるのだろうと思っていたため、本ルートの終わり方には当初少し驚きがありました。しかし終了後に考えてみると、「不育症であっても子がほしいと願う」という結翔と愛海の姿勢こそが重要なことなので、子を無事に産むことができたかどうかは描かないのも確かにありだなとも思いました。個人的には、タイトル画面のように、愛海が子を抱きしめる未来があってほしいなと思っています。 @ネタバレ終了 不妊症、不育症について多くの学びがあった本作品ですが、それだけでなく、各キャラクターの切実な葛藤が描かれた素晴らしい作品であったと思います。ありがとうございました。

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  • むかし、ふるさとでさ。
    むかし、ふるさとでさ。
    僕は1時間ほどで2つのエンドをみることができました。 @ネタバレ開始 各エンドは30分ほどと短めですが、挫折を味わった主人公が回復していく過程がよく描かれていると思いました。田舎での生活の素朴な良さを描きつつも、それだけでは終わらず、ラストは主人公が都会で頑張っている姿が描かれるところも良かったです。 ちよとかよの年の功を感じさせる言動も良かったです。個人的には、かよと魚釣りをするシーンが特に好きです。「我々は生かされている存在である」、「命はありがたく頂かないといけない」というかよの発言には、古き良き日本の価値観があらわされていると感じました。 背景素材となる写真も素晴らしいものが多く、何度かメッセージウィンドウを消してしばらく写真を眺めました。これらは作品への没入感をぐっと高めてくれていたと思います。 @ネタバレ終了 自分も田舎に行ってみたくなるような素敵な作品でした。 ありがとうございました。

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  • アリスニャットシング!
    アリスニャットシング!
    僕は1時間くらいで読み終わりました。 @ネタバレ開始 かわいらしいガワの部分にまず目がいく作品ですが、各登場人物の死との向き合い方の描写が素晴らしく、その点に強く魅せられました。 つらい別れがあっても生きていける人間のたくましさと寂しさを描いた作品だと感じました。キッコの死後も、各キャラクターは悲しみを抱えながら自分の人生を続けている。その歩みが真に迫っていると感じました。短い作品ではありますが、描かれていない部分も含めた彼女らの在り方に思いをはせずにはいられませんでした。特に、キッコはどんな子だったのかなあと色々と想像しました。 個人的には、キャラクターの様々な面が描かれている点が好きです。ニヤやタカヒロがちゃんと仕事をして社会と関わり続けている様子は微笑ましいと思いました。 作品を通して、残された者のその後の人生について色々と考えさせられました。 死別の悲しさは少しずつ変化していく。けれどきっと、完全に消えてしまうわけではないのだな、と。そこに救いを感じるところもありました。 「きっと、残された人の多くがこんな風に生きているんだ。こんな風に生きても良いんだ」と思わせてくれる作品だったと思います。自分にとってはまさに「日の当たる場所」のような物語で、日々を回すことに少し疲れていた心が温かくなりました。 どのキャラクターも魅力的ですが、特にキッコが好きです。彼女は多くの人にとって「日の当たる場所」であり続けたんだろうなと思います。 ほんわかしたイラストもとても良かったです。ニヤ、ありす、キッコのビジュアルは言わずもがなですが、タカヒロの不器用な笑顔もかなり良かったです。 @ネタバレ終了 かわいいばかりでも楽しいばかりでもない。でも悲しいばかりでもない。様々な感情を想起させてくれる素晴らしい作品でした。ありがとうございました。

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  • 世界一彼女の近くで
    世界一彼女の近くで
    @ネタバレ終了 僕は15分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 ストーリーからイラストまで、あらゆる要素がかわいらしい作品でした。 「僕」が「世界一近い存在」であるというのは、いわれてみればなるほどと思いました。 彼女が見るあらゆるものを一緒にみてきた「僕」が、彼女のことを大切に思うのはとても自然なことだと思います。また、彼女の恋の行方にドキドキしてしまう様子にも共感できました。 彼と結ばれた彼女の姿はとても綺麗でしたが、そこに「僕」もきちんといるのをみて温かい気持ちになりました。幸せな未来を予感させるラストも印象的で良かったです。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。

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  • savon
    savon
    僕は30分ほどで読了できました。自分が触れたことがないタイプのお話であったこともあり、大変面白く読ませて頂きました。 @ネタバレ開始 序盤から、「どういうことだろう? 何が隠されているんだろう?」と疑問に思いながら読んでいたのですが、終盤で明らかになる事実には驚きました。個人的に、第四の壁を破ってくるような作品には恐怖を感じることが多いのですが、本作品のミズキ君にはいとしさを覚えました。 一番良かったと思うのは、ミズキ君の設定と終盤の展開です。彼のラストの言葉には不思議な説得力があったと感じます。 普段の自分は、「このキャラは作られたものなんだ」と感じると、そのキャラクターに対する感情移入がさめてしまいがちです。しかし本作品の場合、自分は作られた存在であると彼が告白したからこそ、かえって彼の発言や行動を切実なものとして感じることができました。この矛盾しているようにも思える感情体験はあまりしたことがなくて、大変面白かったです。 音楽や映像演出も見事で、プレイ中は現実から離れることができました(笑)  @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました!

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  • 黒紅色の夕焼け
    黒紅色の夕焼け
    僕は30分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 「大切に思っていたけれど、言動にしないから伝わらなかった」 そういうことは現実でよく目にすることですし、伝わらないままに消えていった思いはこの世界で無数にあることだろうと思います。そうした人間の悲しいあり方に対する、作者様の優しいまなざしを感じる作品でした。 大切な人にはその思いを伝えよう、行動で示そう。読後にそう強く思わせてくれる作品でした。ありがとうございました!

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  • Operation‡Nova
    Operation‡Nova
    僕は2時間ほどで読むことができました。 @ネタバレ開始 本作品の中で特に印象に残ったのは、やはり中盤でのどんでん返しでした。序盤は「このお話はどこに向かうんだろう?」と感じていたのですが、なるほどそういうお話だったのかと驚きました。改めて読んでみると、「このシーンはそういう意味だったのか!」と納得する点も多々ありました。 また、どんでん返しの後、そこからアイナと協力して「オペレーション‡リザレクト」を発動させ、ハッピーエンドへとつながる展開も見事でした。中盤から終盤にかけてかなり絶望的な状況になっていましたので、そこからこんなにきれいなエンドになるとは思いませんでした。 アイナは最初、「かなりぶっとんだ子だな……」という印象でしたが、読み進めるうちにどんどんかわいく感じてくるタイプのヒロインでした。最後の週、レイが記憶を保っていることを知って喜ぶ様子は特にかわいかったです。 また、様々な制限がある中で2人のヒロインをここまで魅力的に描いた点も素晴らしいと思いました。彼女らはそれぞれ秘密を抱えていて、それに配慮しながら彼女らの魅力を描かなければならないわけですが、それはかなり難易度の高いことのように思います。本作品はその点が高いレベルで達成されていたように感じました。 なお、本作品の個性としては、ふんだんなパロディネタもあげられると思います。僕の知る限りでも、シュタゲ、遊戯王、かぐや様、FF4からの台詞がありました。個人的には、隙あらばパロディをぶっこんでくるアイナがおかしくて、繰り返し笑ってしまいました。なお、パロディネタはどれもアイナの台詞でしたが、「AIである彼女はそうした文化が好きで意識的に優先して学習したのかな」とか「実はレイがかなりゲームやアニメ好きであり、彼女はそれを知っているからレイにパロディネタを連発していたのかな」なんてことを想像しました。 ほか、立ち絵や音楽、ボイスといった各要素も高クオリティで、物語への没入感を高めていたように思います。個人的にはアイナとノアのボイスが素晴らしかったです。本作品は展開によって雰囲気が大きく変わりますが、ボイスもそうした雰囲気にぴったり合っていたと思います。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をありがとうございました!

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  • 銀雪の呪福
    銀雪の呪福
    僕は30分ほどで読了できました。 @ネタバレ開始 まずは、思わずプレイしたくなるタイトルとサムネイルが良かったです。「呪福」とは何を意味するのか、いったいどんなお話が読めるのだろうとワクワクしながらプレイを始めることができました。 また、ぼくが本作品で特に良いと思ったのは、作品を構成する各要素の雰囲気に統一がとれているところです。夜彦の人柄から素朴なイラストまで、どれも本作品のストーリーにぴったりなものだったと思います。そのおかげで、物語の世界に没頭できました。 ストーリーについて。短編ながら伏線も張られており、読み応えのある展開であったと思います。終盤で夜彦に突き付けられた問題はとても切実なものでした。自分はおとね様にしっかり感情移入してしまっていたので、選択肢を選ぶところでは自分も苦しくなりました(笑) @ネタバレ終了 ありがとうございました。

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  • 風の音、君の声
    風の音、君の声
    僕は1時間10分ほどで読むことができました。 @ネタバレ開始 主人公である健介やその友人たちの成長を描いた物語です。死別という大きな試練を乗り越える過程が丁寧に描かれており、健介には深く感情移入することができました。季節が移りかわることへの切なさと新しい日々が始まることの希望を感じることができました。 また、本作品はストーリーの構成がとても良かったと思います。風音は何者なのか。どうして彼女は歌えるのか。そうした謎が明らかになっていく過程が面白くて、一気に読んでしまいました。 また、登場人物たちの関係性の描写も良かったです。表ではふざけてみせているけれど、心の底では互いに心配しているという、彼らの友情の在り方が好きです。嫌なキャラクターは1人もいませんが、個人的には直也が本当に良い奴だなあと思いました。 また、ピアノ曲を中心としたBGMのチョイスもとても良かったです。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をありがとうございました!

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  • 常夜の国のアリス
    常夜の国のアリス
    僕はすべてのエンドを40分ほどで見ることができました。 @ネタバレ開始 主人公である綾とともに、異世界を旅する物語でした。夜が続く世界はあやしくも魅惑的で、もっとこの世界のことを知りたいと思わせる魅力がありました。 また、その世界を冒険するうちに「これまでの綾にはどんなことが起こっていたのか?」と想像できるつくりになっていますが、これもまた大変良かったです。どちらの世界でも兄だけは味方であったことは、綾の兄への強い信頼を意味しているのでしょうね……。 トゥルーエンドでは綾の成長も感じられ、これからの未来への希望も感じました。プレイ時間に比して大きな満足感を感じる作品でした。 素敵な作品をありがとうございました!

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