白玉ユキトのレビューコレクション
-
Vergunty Midnight swallowまた泣いてしまいました。 本編で消化しきれなかった箇所が描かれていたので、大満足の内容でした! シャルルや春市さんのような人生の先輩がいると、やはり話全体が引き締まりますね。本当にいいことを言うなぁ、としみじみ思いました。 @ネタバレ開始 年齢差や性差による未来への意識の違いとか、美月くんをそばで見続けたゆえの夢への葛藤とか、きちんとフラれていないから残っていた想いの片付けとか、そこに問題が起きそうだと思える箇所だったので、読んでいて非常にしっくりときました。ジュンさん編の剣磨くんまで泣きそうになっているところは、本当にしんみりとします。演技力がすごい。 ももちゃん先輩の登場に驚きましたが、そうするとあの彼とは別れが決定しているのかとやや複雑な気持ちになったりも。剣磨くんも幸せな未来が訪れそうで安心しました。 喫茶店で指を絡める二人を想像して無性にドキドキしました。「それは俺の中では理由になってない」が恰好いい。本当に破綻してしまうのではないかとひやひやしていたので、心から良かったなぁと思います。 @ネタバレ終了 とても明るい気持ちで読み終えられました。ありがとうございました!
-
Vergunty ヴァーガンティープレイしての感動と衝撃を、どう表現したらいいかが分からない。 読んでいて涙が止まりませんでした。涙を誘う物語ではないと思うのですが、ままならない胸の痛みをじっくりと描き出しているので、ことごとく心が掻き乱されて大変でした。 タイトル画面で音楽が流れて「ヴァーガンティー」の時点でワクワクします。そして始まるオープニングが期待感を煽ってくれます。 読み始めて、とても丁寧に書かれた作品であると感じました。美月と綿貫の作家と編集者という関係は、こうして作品をプレイして感想を書く自分とも重なって見えて共感もしやすいですが、一方で社会人と未成年の恋愛や同性間の恋愛描写などは、少なくとも自分は割と抵抗のある題材でした。それをすんなりと受け入れられたのは、心理描写がとても丁寧になされていたからだと思います。そうして登場人物の好感度が高く設定されているので、序盤の小さな変化を積み重ねる流れも退屈しませんでしたし、ラストも皆が幸せになってほしいと願っていました。 中盤以降、各人の思いがぐちゃっと集まって入り乱れた恋模様になりますが、一口にドロドロと称するにはみんな根っこが純粋なんですよね。なんでこんなになっちゃったのかな、と苦しくなり、結論が出てほしい一心で読み進めていきました。この話がよく書けたな、と心底感じ入ります。 @ネタバレ開始 前半の途中から、美月くんが恋にのめり込んでいく様子(そして綿貫の甘やかし方)を見て、これは破綻するパターンだなと直感しました。でも高校生の時分に大人のお姉さんって、むちゃくちゃ色っぽいですからね。初恋だし、作品を認めてくれた人だし、仕方ない。ここでの剣磨くんは、綿貫に対して本当に的確に刺す言葉を投げたと思います。この歳であそこまで明確な答えを導けていることに、一体どれだけ美月くんとその作品に対して真剣に向き合ってきたのだろうと考え込んでしまいました。普段のクールさの内側に秘められた激情が溢れるこの場面がすごく好きです。部屋に綿貫の匂いが残るのが嫌、という心情も分かりすぎる。そして、こうして傷ついた綿貫が、辛いながらもそれを零さず、きちんと決断を下した姿は立派でした。 後半に入ると、それまで見守る立場にいた大人組の二人が同じステージに降ってきて混沌としますが、この展開には少しシナリオ上の危うさを感じました。前半で全てに恋を優先する美月くんを「幼い」と評していたのに、後半ではジュンさんがこれまでの積み重ねを投げ打って恋を選んでしまう。ジュンさんと榎本さんの、丁寧に描かれた二人の過去を見ている分、ジュンさんの幸せに榎本さんの替えは利かないと思うんです。8年も一緒にいれば気持ちも落ち着いているでしょうし……とはいえ、ジュンさんは非常に入り組んだ感情を抱えた繊細な人物でしょうから、他人の杓子で推し量るのは無粋なのかもしれません。 このジュンさんの秘密による舞台の転換は本当に見事だと思いました。傍観者だった二人が当事者に変わり、あらゆる矢印に同性愛的な要素が含まれてくる、それによって、やや浮いていた剣磨くんのBL要素が特別なものではなくなり、榎本さんが先達かつ飛び抜けた人格者に昇華されます。要素を一つ切り替えるだけでこんなに綺麗に嵌まるのか、と驚嘆しました。 その榎本さんが、ジュンさんが出ていった途端に泣き崩れるシーンは、強く胸に刺さって言葉が出ませんでした。そりゃそうか、と、自分は何を勘違いしていたんだろう、と恥ずかしくなりました。いくら強い人に見えても、大切な人が自分の許から離れて平気でいられるわけがない。むしろ、榎本さんが強い人でいられたのは、隣にジュンさんがいたからなんだ、と。そして、その瞬間までよく耐えたな、と胸を打たれました。その後、嫉妬に駆られて黒い行動を起こしてしまう様は、とても人間的で好ましく感じられました。 終盤で、美月くんの成長(まだ危うさは残りますが)が見られる一方で、主人公である綿貫が流されるままに決着している点は気に掛かりました。相手二人はこれだけ覚悟を決めているのに! けれども、あらゆるものを受け入れる懐の広さは主人公(というか視点キャラ)に相応しい美点ですので、恐らくここは、全ての人物に焦点を当ててドラマチックな変化を描いているがために、相対的に変化の薄い主人公が目立ってしまっただけのようにも思います。 終わり方としては、美月くんと結ばれるのが一番収まりがいいかなと思いました。ジュンさんと榎本さんは一緒にいてほしいですし、剣磨くんは耐えてくれ。叶わない恋を秘める君が好きだ。 @ネタバレ終了 番外編もあるようなので、これから読んできます。内容に大きな質量があり、満足度の高い物語でした。読ませて頂けて、ありがとうございます。
-
三秒前の恋人
-
君は夜明けの星になるすごく安心して楽しめる、ファンタジーの恋愛ものでした。 ファンタジーの世界ですが、魔法に憧れる明るい普通の女の子であるミアちゃんが主人公なので、物語に入り込みやすかったです。家族同然の幼馴染みでミアちゃんに想いを寄せるジオンくんと、ぶっきらぼうながら穏やかで優しい異国のルカくん。キャラクタの好感度が高いので、読んでいて安心感があります。ルカくんの序盤はちょっと取っ付きづらさがあるものの、ミアちゃんの明るさで上手く緩和されていました。 イラストも綺麗で馴染みやすい印象で、キャラの感情が分かりやすく伝わってくるのが魅力的です。しっかりと描かれた眉も、感情を表現するのに一役買っているのかな、と思いました。 中盤以降、どちらのルートでも意外な事実が明かされて、物語にぐっと押し込められるような心地でした。ハッピーエンドの後味の良さも、バッドエンドの物悲しさも好きです。 @ネタバレ開始 設定とタイトルの絡め方が上手いなぁ、と思います。そして、髪や目の色まで舞台設定に組み込まれているのは驚きでした。月の国の内情から醜さのようなものが見えてきたことで、実在感が増したように感じました。ミアちゃんたちの存在を架け橋に、両国の軋轢がなくなってほしいですね。 おまけシナリオも、ちょうど知りたかった箇所が描かれていて、高い満足感がありました。ここでしか使われないイラストなんかもあったりして贅沢な作りです。 @ネタバレ終了 とても楽しく読めました。ありがとうございました!
-
生真面目な後輩ちゃんのゲームこの短いプレイ時間で心を鷲掴みにされる感じ、すごかったです! ポップなOPから始まり、生き生きと動いて喋る後輩ちゃんと話をして、引き込まれたところに突き出される結末。 とても印象的な作品でした!
-
消灯コーヒー軽い気持ちでプレイしたら、いろいろと衝撃を受けてしまいました。 オシャレな作品だなぁ、とその空気感に浸りながら進めていました。 @ネタバレ開始 ほろ苦い恋の話かと思いきや、突如不穏な展開に……と思ったら、種が明かされてひっくり返りました。でもおかわりを読むと、やっぱりほろ苦い恋の話なのかもしれません。 ボイスの聞き心地がいいなぁ、と思っていたら作者本人! しかも本職! なんだかすごい体験をさせていただきました。 @ネタバレ終了 ありがとうございました!
-
××世界白黒のタイトル画面が気になってプレイしました。 出だしは普通の学園ものだな、と思いながら進めていくと、新たなキャラが登場して、どういうことだろう? と思いながら進めていくと、更に謎めいた展開に。あっという間に終わって消化不良だった謎は、メモを見て納得できました。短編の場合はこういう作りもあるのだな、と感心してしまいました。 @ネタバレ開始 金髪のサナちゃんが魔女だと思っていたのですが、そもそも最初の時点から騙されていたとは。キツネにつままれたような気分です。 @ネタバレ終了 そして音楽が良かったです。特にエンディングの曲が好きで、これだけでもプレイした価値があったと思います。 ありがとうございました。
-
GARAKTA ROCKERS - 1st ALBUM -ポップなイラストに惹かれてプレイしました。 序盤からコミカルに進んでいくので楽しく読むことができました。開幕、チリトリを齧りながら(歯ギター?)歌う主人公は笑う。そして、くっぴーのキャラが強い。キャラクタの魅力がすごく高いのは憧れます! 途中でいろいろと分かってきてからは、引き込まれるまま一気に読み終えました。 @ネタバレ開始 コミカルな物語だと思っていたので、重い話を入れてくるのは結構な驚きでした。 声かと思ったら耳か、そんな彼女にボーカルを、そして大勢の前で馬鹿にされる展開……つらい。支えてやれる主人公は偉い。 頑張ってる女の子にむちゃくちゃ弱いので何度も泣きました。ノイズは痛い目を見てください。自分のライブの演出を変えられた祟姉妹はもっと怒っていいんじゃないかと思ったのですが、どんな風に考えていたのか少し気になります。 @ネタバレ終了 3Pガールズバンド最高やん! と思っているので、マルメロの登場が楽しみです!
-
閉鎖病棟のアリス達面白かったです。不気味な雰囲気がよく出ていました。 誰がアリスなのか、いろんな秘密を抱えた怪しい登場人物たち、そしてアリスが起こした事件の凄惨さ。序盤は少しもたついた印象でしたが、要素が増えていくたびに、どう繋がっていくのかとぐんぐん引き込まれていきました。 @ネタバレ開始 「誰がアリスなのか」という謎自体は南雲さんが出た辺りで推測できてしまったのですが(舞台設定上、それが一番怪しい人物だった)、「なぜそうなったのか」という謎が物語を引っ張る強い要素になっていました。隠し方のトリックがよくできているので、相貌失認やトイレの描写は明かされた時の納得感が高かったです。涼太が気を許したのも、たぶんそれですよね。 また、個人的に興味深く思う内容が多かったです。アリスが起こした復讐の「死ぬことすらできない状態が一番苦しい」とする動機や、更生は現実的でないという静かな狂い、アリスの存在が神聖化されていること。そして最後に出てくる問いかけは、特に感じさせるものがありました。本当に難しい選択だと思います。 @ネタバレ終了
-
La Vie en Fleur何もかもがすごすぎて、びっくりしました。完成度が高すぎます! イラストの圧倒的な綺麗さは見て分かると思いますが、シナリオも非常に高品質です。 独自のファンタジーな世界観を見事に作り上げられているのが、本当に素晴らしく目を瞠ります。人が皆、花に由来する能力を持つという花章の設定が際立って面白いです。キーになっている花言葉と共に浮かび上がる思いや、複数ある花言葉から新たな面が見える瞬間がたまらなく好きです。こういう設定であれば、花の種類で世界を横に広げたくなるものですが、そこに「枯れし者」という存在を持ち込んで奥行きを広げているのが本当に巧みな作りです。 プレイ中は「イケメン! ドキドキ!」ってな感じなんですが、冷静になって考えたら全体の構築力があり得ないほど高いんですよね。キャラクタの属性はみんなバラバラですし、話の流れも被っておらず、ルートごとに出自・伝承・教会など別々の要素を用いて多面的に世界が形作られています。そのせいもあって密度が非常に濃いんです。こうしたファンタジーものって普通の現代ものと比べると、世界のルールが違うために書かれる情報が多くて辟易することもあるのですが、本作では各要素をキャラクタが担当しているので、キャラクタを描くと世界が浮き出る作りになっています。ここを両立させる筆力の高さには惚れ惚れしました。 文章自体も、地の文と台詞のバランスがとても良くて没入しやすかったです。 キャストさんの好演も心地よかったです。 @ネタバレ開始 キスシーンで声を左右に振られてますよね? ぞくぞくしました!!! ルートは左から順に選んでいきました。ディーサ君とのお話は王道で入り込みやすいので、最初に読めてよかったです。幼馴染みで長年の片思いは分かりやすくて強い。リフィアちゃんに対してまっすぐで、でも素直になれないのがきゅんと来ます。それにしても、リフィアちゃんは鈍すぎる……! 襲われそうになって「お腹が空いているんだ」は、さすがに何というかモヤモヤしました。もっと危機感を持って! 周りの男がいい人すぎるだけなんだよ! ディーサ君からの好意に鈍感な様子は、まさにダミアンさんと同じ気持ちでニヤニヤしながら眺めていました。 キスヴェルトお兄ちゃんは美しすぎる! 着替えるシーンでハッと目を奪われます。優しくて愛の深いお兄さんが大好きなので、キスヴェルトさんは一番好きなキャラクタです。近親の注意書きに恐々としていたのですが、義理じゃないですか! よかった! リフィアちゃんが愛情に鈍感なのも、キスヴェルトさんの愛し方が行きすぎているのも、愛され慣れていないという背景によるものなんだな、と理解できました。終盤で彼の薔薇が自らを(内面ごと)傷つけながら戦う場面が印象深いです。リフィアちゃんの髪に挿してある目立つ花飾りの「毎朝お兄ちゃんが付け替えてくれる薔薇」に籠もっているであろうキスヴェルトさんの感情がたまりません! ジェレミ君のルートでは、花の女神様や枯れし者などの秘密が明かされるわけですが、それがジェレミ君の問題を解決するために描かれているので受け取りやすかったです。そこに彼自身とアロマおばさんの過去が加わって、とても濃密な物語でした。花楼樹の前での「そんなこと僕は聞いてない!」からの流れは、声優さんの演技力もあってかなり涙腺に来ます。そして彼も花章を持っていたのは盲点を突かれました。彼の花章の力が花言葉と合わさると、すごく味わい深いですね。好きなポイントです! ダミアンさんのお調子者ながら思いやりのある性格は、鉄板ながら最強ですね! ……彼がディーサ君の兄でさえなければ。正直、なぜダミアンさんが攻略対象にいるのか理解不能でした。一途なディーサ君の兄ですよ!? ずっと弟を見てきたがゆえのダミアンさんの葛藤には、こちらも胸が苦しくなりました。不用意に心が近づいてしまわないための「嬢ちゃん」だったんだなぁ、とかいろいろと考えてしまいます。 ディーサ君の「見くびんなよ」がひたすらに恰好いい。言い訳をことごとく潰していく姿が立派で、最後の「クソ兄貴」も響きます。想い人と兄貴がくっつくとか地獄でしょうに……。 リフィアちゃんはディーサ君の気持ちに気付いていないからダミアンさんを選べるし、ディーサ君も秤に掛けられていないからギリギリでプライドを保つことができる。ここにきてリフィアちゃんの鈍感設定が活きてくるのか! と膝を打ちました。 花がテーマであるからか、色合いが赤黄系の暖色でまとめられているのが優しい雰囲気でいいですよね。自分ならキスヴェルトさんの服装なんて絶対に青を入れてしまいますし、ジェレミ君の髪の色は馬鹿正直に黒にしてしまったと思います。そして、この空気感が出せなくて悩むんです。 また、ダミアンさんのタレ目はこだわりポイントかな、と思いました。 フルボイスで全てのキャラに声があるのは驚きでした! その分、アロマおばさんや花姫様などにグラフィックがないのと、地の文に台詞のある箇所で声が出ないのは、却って目立ってしまったかな、と思います。とても贅沢な悩みですね。あと、敵の花章もちょっと説明臭かったかな、と。この辺りは恐らく、作者様も想定していらっしゃると思います。 ほか、気になるというほどでもないのですが、タイトル画面で5人全員が真正面にこちらを見ているので少々威圧感があるのと、タイトルが検索しにくいのは少し困りました。 @ネタバレ終了 全体に豪華で構成も美しく、押さえるべきツボがしっかり押さえられているので、とても高い満足感で読み終えることができました。もっとこの世界に浸っていたかったです。ありがとうございました!