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NaGISAのレビューコレクション

  • ヨツバナサクラ~春へと紡ぐ雪どけの手紙~
    ヨツバナサクラ~春へと紡ぐ雪どけの手紙~
    文芸部に所属する高二の門倉良太。彼は友人も恋人も作らず、ただひたすら創作に打ち込んでおり、自分の才能を疑いません。なのですがコンテストに応募しても、せいぜい二次審査止まり。 そんな彼の「絶望からの再起」を描いた物語です。序盤の良太の傲岸不遜な態度がちょっと鼻につくのですが、それがないとこの物語は成り立ちませんので、序盤だけはちょっと我慢して読んでください。進むにつれて彼のいいところも徐々に見えてきますので。 この物語は、創作をした人ならば誰でも一度は感じたであろう苦悩がテーマとなっています。良太の性格付けの的確さもあって、そのテーマが非常に上手く物語と融合しており、大変読み応えがありましたし、また良太の絶望と、そこから一歩を生み出す様子に説得力がありました。 加えて、良太の再生に他の登場人物がみんな少しずつ重要な役割を果たしているんですよね。キャラクターメイキングとその扱いの上手さにも卓越したものがありました。ただ、「雪音」が中盤ではほとんど消えてしまっているのはちょっと気になりましたが。そこはもう少し踏み込んでも良かったのでは。 ともあれ、創作の面白さとその壁に真っ向から取り組み、そのテーマを上手く描き切った良作です。創作をする人であれば、必ず強いメッセージ性を感じられるでしょう。また、学園ものとしても(多少会話が冗長に感じる箇所もあったものの)ハイレベルな一作でした。是非お読みください。

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  • 露姫
    露姫
    主人公が、夏の海辺で謎の少女と出会うところから始まる物語。「人外との出会い」系列の物語です。 短いながら構成がしっかり作られており、読み心地のいい物語でした。主人公と露姫のやりとりも、仲良しというほどではなく、でもなんだか放っておけないという、そんな距離感がとても上手く描けていたと思います。 また、起承転結が明確で、読み手がそのリズムに乗りやすいため、物語に入りやすく感じました。物語にシンクロしやすいとでも言いましょうか。ですから感情移入もしやすいんですよね。 もう少しキャラクターの掘り下げがあっても良かったような気はするのですが、押さえるところを押さえた上で、丁寧に組みあげられた佳作です。読めば気持ちのいいひと時を過ごせると思いますよ。

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  • 僕と家出ゲーマー少女
    僕と家出ゲーマー少女
    プロゲーマーになりたいという夢を親に反対された少女寧々が、中学生の宣彦の家に家出で自宅に押しかけてきます。宣彦の父親はプロゲーマーなのでした。 そして高校生になった宣彦は、偶然寧々と再会します。夢を持てなくなっていた宣彦と寧々の交流の物語なのですが、必要最小限に削ぎ落とされていながら、物語としての構成がとてもよくできています。寧々の言葉からラストシーンへの流れがとてもいいですね。 寧々の言葉が押し付けがましくないですし、そこから宣彦が一歩を踏み出す様子も嘘くさくありません。個々の要素の組み合わせ方、登場人物の性格付けが大変上手いなと思わされました。脇役キャラも結構効いています。まあ掌編だけに、物語としてはさほど活躍の場はないのですが。 削ぎ落としすぎて、宣彦が夢を持てなくなった理由の描写がなかったりもしますが、掌編としてよく纏まった良作です。

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  • 欠けた月の探し方
    欠けた月の探し方
    高校の天文部を舞台にした青春物語です。そこに「未来からのメッセージ」というアイディアを組み込むことで、一風変わったストーリーに仕上がっています。 青春物語として見ると、天文部の面々との交流や、雀と皐月という魅力的な2人のヒロインとのやり取りが面白く、テンポのいい展開も手伝ってとても楽しく読むことができました。 反面、せっかくの未来からのメッセージという要素を、十分活かしきれていないように感じるところも。ラストも少し収まりの唐突さを感じました。ここをもう少し掘り下げれば、より面白くなった気がします。 しかし、魅力的なキャラクターが生み出す穏やかな空気感と、程よい「先への引き」のコントロールの上手さが光る物語です。先への推進力が後半に行くにつれて強まる、そのバランスの強さが良かったんですよね。 個人的には皐月が気に入りました。いえ、もちろん雀もいい子なんですが(笑)。穏やかで楽しい学園ものを読んでみたい方にお薦めします。

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  • 僕と君と彼女の話
    僕と君と彼女の話
    役者の夢を追い続ける30歳の男、翼の物語です。幼馴染でもある恋人のつくしと同棲し、自分はアルバイトをしながら劇団の活動を続けています。 ほとんどヒモ状態なのですが、さらに加えて翼は何と二股をかけています。つくしが一途でいい女性のため、冒頭で既に翼に対して殺意を覚える人も出てくるでしょう(笑)。 しかし、主人公の好き嫌いは別として、物語としてはとてもレベルが高い一作です。何せ主人公が二股をかけているだけに、冒頭から結構な緊迫感を持って進むのですが、後半でその緊迫感が一気に頂点に達し、そこから落とす構成が非常に巧みです。 また、何と言っても人間ドラマが濃密です。キャラクターメイキングの上手さですね。そして冒頭ではどうしようもない男だと思った翼を、最後には何だかちょっと応援したくなってしまいました。彼は不器用な男ですが、その正直な生き方にはちょっと共感しました。 あらすじだけを見ると眉をひそめる人もいるかも知れませんが、人間関係の描写が優れたとてもよくできた物語で、冒頭からは想像できないほど読後感も良好ですので(バッドエンドは因果応報という感じですが(笑))、是非敬遠せずに読んでみてください。お薦めします。

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  • 愛を見た景色
    愛を見た景色
    AIエンジニアになるための高校生たちの青春物語です。設定を見て、SFが苦手だからと敬遠する人がいるかも分かりませんが、ノリは完全に普通の学園ものですので、安心してプレイしてください。 私も数多くの作品をプレイしてきましたが、この物語は誇張でなく数年に一作レベルの物語でした。クライマックスまで「面白い設定の、いい泣きゲー」だと思っていたのですが、読み手の予想の遥か上を行き、作中の全ての要素が綺麗に繋がるラストの衝撃に、椅子ごとそのまま後ろにひっくり返るかと思ったほどです。 前半は、キャラクターのやり取りがちょっと冗長なところもあります。また、最後まで読んでも少々伏線の不足を感じないでもありません。しかしそれを差し引いても、これほどの物語には滅多にお目にかかれるものではありません。 強いテーマ性が無理なく物語に融合し、それをキャラクターがしっかり支えた構成が見事です。ちょっと大袈裟な表現をお許しいただけるならば、「ノベコレ最強の泣きゲー」と言っても過言ではないほどです。 気になる点も挙げます。文字速度を折角コンフィグ画面で変更しても、早い段階で表示速度が戻ってしまい、以降は変更不可になってしまいます。長い物語ですから、これはちょっと参りました。あとは、文字が細くてかなり読み辛く、これも私くらいの歳には辛かった(笑)。 ですが、とにかく稀に見る大傑作です。私は5時間弱で読み終えましたが、普通の速度ならば6時間から7時間くらいでしょう。長いプレイ時間を見て尻込みせず、読んでみてください。ラストに最高の感動を味わえることは、この私が保証します!

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  • 流星Refrain
    流星Refrain
    綾乃と美結、2人のヒロインのルートがある、長編学園恋愛ものです。舞台がほとんど学校だけで、会話は楽しくはあるものの少し冗長な感もあり、前半は少し単調に感じるところがなくもありません。また「(爆)」「(汗)」などの表現をあまりに多用しているのは、若干目障りに感じるところも。 しかし各ヒロインのルートに入った後半になると、読み応えのある人間ドラマが展開します。どちらのルートも、読み手が少し不安を感じるような展開を見せますが、その不安感が「不快」まで行かず、上手く緊迫感を保つぎりぎりのラインを攻めているのが上手いところです。 恋愛ものとしては珍しく、男性キャラの方が女性より多いのですが、3人の男性キャラがそれぞれに個性的で、しかも物語の中での立ち位置がしっかりしていました。決して目立ちすぎず、主人公をしっかり引き立てる「名脇役」に徹しています。もちろん綾乃、美結の2人のヒロインも魅力的。キャラクターの扱いの上手さも光りました。 とにかく、後半の厚みがある人間模様は、一見の価値があります。読み応えのある学園ものがお好きであれば、きっと楽しめるでしょう。プレイ時間は、1回目は3時間半から4時間、2回目は2時間くらい。「青春の光と影」を堪能できる物語です。

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  • 紡ぐ空へ。
    紡ぐ空へ。
    一人でひっそり暮らす少年つむぎの元に、飛行機が故障したために不時着した旅人の2人、空木とボタンが訪ねてくるところから始まる物語。冒頭だけ見ると、剣も魔法も登場しませんが、どことなくファンタジー風味ですが、最後まで読むと(一方のエンドでは)意外な収まり方を見せます。 短い物語ですが、「どこをとってどこを捨てるか」の選択が絶妙で、この尺の中で3人の交流、そして心を通わせる様子がしっかり描かれており、感心させられました。構成もしっかりしており、自然と物語の流れについていけました。 2種類のエンドは、どちらも味わいがあって好きです。地味と言えば地味な物語ですが、いぶし銀のような魅力があります。「短くてもしっかりした物語を」という方は、是非読んでみてください。

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  • 誰そ彼の陽
    誰そ彼の陽
    4年前に別れた恋人から、結婚するという内容のメールが届くところから始まる物語。同じ出来事を、春陽と彼の元恋人望海という2人の視点で2周するタイプです。 春陽視点は、丁寧な筆致で語られてはいるものの、ごくごく普通のカップルの出会いと別れを描いた物語で、終わり方もいささか唐突です。 「?」と思いつつ望海視点を開始して、すべての謎が明らかになりました。「なるほど」と感心し、よくできた恋愛物だなと思いました。 が、望海視点の最後に至って、「そういうことだったのか!」と驚き、そして春陽と望海の美しくも悲しい物語に、心底心を揺さぶられました。短い物語ですが(私は30分で全部読み終わりました)、この短さでこれほど心を動かされる恋愛物語は、そう書けるものではありません。 心が震えるラストの後にくるエンドロールの演出が、また素晴らしいのです。そして何より一番驚くのは、こんな素晴らしい作品なのに、星評価もコメントも1つもないという事実。それどころか、なんとこの作者さんが公開されている作品には、コメントも評価もどれも一切ついていません。 コメントや評価がつかないことで埋もれてしまうのは、あまりに勿体ない作品です。大袈裟でなく、今年が始まって10日ほどで、いきなり今年のベスト作品に出会えたのではないかと思ったほどです。騙されたと思って、とにかく読んでみてください。お薦めします!

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  • クラヴィーア
    クラヴィーア
    SF風の異能バトルものです。序盤の選択肢で、どの侍女(と言っていいのでしょうか)の元に転がり込むかで、5種類のルートに分岐します。 が、5人の執筆者によってそれぞれのルートが書かれたようで、分岐ものというよりは短編オムニバスという雰囲気の作品。機械帝国によって滅ぼされた王族の生き残りの少女、「ボス」が、「刻印能力」(一種の超能力)を持つかつての侍女と共に、機械帝国の刺客と戦うという物語です。 短い中に凝った設定が盛り込まれており、またなんと言っても戦闘が見応えたっぷりです。頭脳戦と能力戦のバランスがよく、スピード感と緊迫感も抜群。5種類のルートの戦いに、それぞれ違ったアイディアが盛り込まれています。 ラストは「勝って終わり」で少々呆気ないのですが、バトルの面白さだけでも読む価値がある作品です。現時点で星も感想も全くついていませんが、埋もれていいような作品ではありません。気軽に読めるSFバトルものがお好きであれば、きっと楽しめるはずです。

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