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NaGISAのレビューコレクション

  • 咲きもせず散りもせずただそこに立つ
    咲きもせず散りもせずただそこに立つ
    高校2年生の桃香と、2歳年下の妹蘭香の物語。この二人には声がついており、二人とも同じ声優さんが演技しています。よく演じ分けられているのですが、過去回想では声が同じになってしまっており、そこはちょっと混乱しました。 二人が、お互いに引け目を感じ合っているというのが、設定としてまず上手いなと思いました。そこから、一度距離が開いてしまった二人が、再び分かりあうという物語。過去回想も適宜織り交ぜつつ、短い時間でそこらがよく描写されていました。 この二人が最初はぎくしゃくしているのですが、言動の奥底には相手を思いやる気持ちが垣間見えるんですよね。なので、この手の作品が陥りがちな「読んでいて関係の悪さにストレスを覚える」ということがありませんでした。 後半はいきなりばたばたっと時が流れてしまったので、そこはもう少しゆっくりでもいいのではないかと思いましたが、味の良い日常物語です。心温まる姉妹の物語を味わいたい方にお薦めです。

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  • 高専生はアンドロイドの夢を見るか?
    高専生はアンドロイドの夢を見るか?
    学園ものの舞台の定番と言えば高校、次に大学と中学校だと思いますが、この作品の舞台は高専(国立高等専門学校)。非常にレアです。これだけで興味を惹かれました。 冒頭、高専に対する妙に後ろ向きな描写があるため、ネガティブな物語なのかと思う方があるかも知れません。ですがそんなことはなく、高専を舞台に「高専ならでは」の人間関係を描いた、よくできた青春物語です。 この作品は、さほど目立った起伏がある訳ではありません。ですがキャラクターが非常によくできている上、「高専らしさ」の描写がとてもよくできています。私は高専に行っていませんが、国立医療専門学校に行ってやはり寮生活をしていましたので、一部身につまされるところもありました。寮での「大声挨拶文化」、ありましたよ(笑)。 主人公と福山、それに柚月の3人の関係がとても上手く書けており、その3人を通じて「特殊な環境を読み手に感じさせる」という点に着目すると、非常によくできた物語です。確かに起伏には少し乏しいですが、それを補うだけの楽しさ、興味深さがありました。 個人的には、是非続編を読んでみたい作品です。皆さんも、これをプレイして高専の空気を味わってみてください。

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  • ガ珍ポ!Ver2.0(熱闘!ガ珍ポバトル編 追加版)
    ガ珍ポ!Ver2.0(熱闘!ガ珍ポバトル編 追加版)
    まずタイトルのインパクトが凄いです。とても声に出して読めません(笑)。ですが中身は非常に練り込んで作られており、単なるウケ狙いの色物ではありません。タイトルは「ガチ珍スポーツ」の略だそうです。もう少し違う略し方はなかったのか(笑)。 今作は、大学生の4人グループが、壊れたアパートの壁の修復費用を捻出するため、賞金200万円のゲームコンテストに出場を決め、そのためにゲームを作るという内容です。創作をする人であれば、共感のポイントが非常に多いと思います。 キャラクターも非常に立っています。この手のキャラメイクをすると、ともすれば暴走してしまい、見ている側がついていけなくなりかねないのですが、今作はそこの見極めが非常に上手いと思いました。暴走の一歩手前で上手く手綱を引き締め、その勢いでストーリーに強い推進力を与えています。個人的には梅原のエピソードがお気に入りです。 また、ただキャラクターが強烈なだけでなく、それぞれの登場人物が、創作者として他のメンバーに敬意を持っている様子が、非常によく伝わってきました。なのでチームとしての彼らを見ていることに心地よさを感じました。 コンテストなのに相手が1チームしかないなど、気になる点がなくもないですが、とてもよくできた青春コメディです。この作品をプレイしたら、作中でりん達が作っていた「もよりの駅子さん」を是非プレイしてみてください(検索しましょう)。そちらもとてもよくできていますよ。

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  • 千年の魔女
    千年の魔女
    文章だけ(一応右側に挿絵は表示されますが)ですが、本格的なファンタジー。好きな人にはたまらないでしょう。システム的にちょっと読み辛いところはありますが、ファンタジーとしてはとてもよくできた物語です。 雪の降らない山奥の寒村ニーヴェリタで、宿屋を営む姉妹、クラウとソレラのもとにやってきた青年アレシオ。彼らを巡る物語です。寿命に関して面白い設定がありまして、これが物語にうまく絡んで生かされていました。 序盤でしっかり掴み、程よく謎を提示して中盤も巧みに引っ張ってから、終盤の意外な展開。構成が見事です。少し捻り過ぎの感があるのと、アレシオが終盤で若干消え気味なのだけ少し気になりましたが、「文章だけの作品ならでは」の面白さを満喫できる、優れたファンタジーです。 ファンタジーではあるのですが、剣と魔法が飛び交うバトルをやるわけではありません。ですが、ファンタジーならではの凝った設定を存分に盛り込んだ人間ドラマは、非常に見応えがありました。 なお、オープニング動画で流れる歌がとても素敵。必見です。

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  • その歌声だけは憶えている
    その歌声だけは憶えている
    今作には、ごく一部のシーンを除いて、立ち絵がほとんどありません。一部魔法薬や怪物の絵が出る箇所もありますが、基本的には背景画像だけの、読むだけノベルと言っていいでしょう。 なので見た目は地味ですが、見た目でこの作品を侮らないでください。素晴らしい出来栄えです。何が素晴らしいって、構成があまりにもお見事で、私はラストで声が出るかと思いました。 不老不死の「終天の魔女」が住むエギスの塔に挑む青年と、その塔の頂上から地上を目指して下に下りる女性のエピソードが交互に描かれます。塔の中ですから、それぞれの視点では他人と一切関わることがありません。そのため中盤は少し緩むところがなくもありませんが、怪物や罠に対し、知力と体力を振り絞って怪物や罠に立ち向かう、多彩な描写で中盤を引き締めています。 そして後半に物語の秘密が明らかになった時、至る所に伏線が張り巡らされていたことにプレイヤーは気付くのです。その伏線回収の見事なこと。のみならず、伏線回収が大きな感動を生んでいるのです。タイトルの意味が分かった時など、「お見事!」と膝を叩きたくなりました。 ラストの解決法も粋で、読後感も最高でした。これほど見事な冒険活劇はなかなか読めるものではありません。是非一人でも多くの方に、この計算し尽くされた構成とラストの感動を味わっていただきたいと思います。

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  • サヨナラ日和
    サヨナラ日和
    山中を彷徨う浩人が、山の中で打ち捨てられていた女性型アンドロイド、アヤノを見つけます。アヤノは足を故障しているのですが、浩人はアヤノに「機能停止するまで、家族になって欲しい」と持ちかけました。相手が人間であればプロポーズです(笑)。 典型的なボーイミーツガール同居型(ルームメイト型)であり、また「時限交流型」の物語です。アンドロイドのアヤノは足を故障しているため室内から出られず、中盤までは少し展開が淡白なところもあります。 ですがそれを補うべく、浩人とアヤノの交流が実に丁寧に描かれいます。浩人のちょっと捻った言い回しが気になる人もあるかも知れませんが、個人的にはあれが彼の個性を際立たせていたように思いますし、彼の台詞が見事に演出として生きていたシーンは、上手いなと思わされました。 設定上必ず最後には別れが来るのですが、別れのシーンがとても感動的です。のみならず、別れて終わりになっておらず、浩人の成長をも感じさせる描写があるところがにくいですね。とても良い余韻を残し、その余韻が長続きするタイプのラストです。 「絆と別れ」を描いた物語としては、秀逸と言える出来栄えです。このタイプの物語がお好きな方であれば、きっと心を動かされるでしょう。

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  • 虹色ドリーマーズ!
    虹色ドリーマーズ!
    弱小芸能プロダクションに所属するアイドルグループ(最初は二人)と、彼女たちを導くプロデューサーのサクセスストーリーです。プロデューサーが主人公。 アリス、沙耶香、そして桜の三人の個性がしっかりして魅力的です。また三人はそれぞれ問題を抱えており、それがストーリーにも関わってきます。 最終的に、アイドルの大イベント「S.M.I.L.E.」での優勝を目指すという明確な目標に加え、三人のアイドル達の問題がそこに絡んでくるため、キャラクターとストーリーが相乗効果で、ストーリー全体にしっかりとした推進力を与えていました。ですから最初から最後まで読者をひきつけて離しません。 惜しむらくは、イベント優勝を目指すという目的があるのに、それを競うライバルの存在がイマイチ希薄だったこと。ライバルはもちろんいるのですが、その時のみ絡んで終わってしまうんですよね。そこは少し残念。 ですが、ライバルも含めて全体に悪人がおらず、人の温かさ、絆の強さを実感できる人間ドラマです。ストレスなく楽しめる物語ですので、どなたが読んでも面白いでしょう。お薦めします。

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  • 泣きべそ*花散る空
    泣きべそ*花散る空
    架空の「音声型SNS」が登場する人間ドラマです。主人公の千恵は、内気で口下手ながら、内心では友達が欲しいと思っており、音声型SNS「Signaloop」で知り合った5人と仲良くなります。 序盤の舞台は千恵の部屋の中だけで、Signaloopのやり取りだけで話が進みます。ここでのやり取りで、登場人物の性格がとても上手く描写されていました。表に出る性格だけでなく、ちゃんと「本当のその人」が、キャラによって程度の差こそあれ、少しずつ散りばめられており、後半の展開を説得力高いものにしていました。 また中盤で知り合った5人と初めて会う場面の緊張感が、とても上手く表現されていましたね。起承転結が明確で、特に中盤からは一気に読めるでしょう。前半と後半で、SNSと同じ部分とそうでない部分が巧みに描かれており、人間ドラマとして非常に読み応えがありました。 ラストは、その気になれば全てが丸く収まった大団円にすることもできたでしょう。しかし今作のテーマはあくまで千恵の成長でしょうから、大団円ではそのテーマが弱められてしまいます。少し寂しい気持ちもありますが、だからこそ心を強く動かされましたし、千恵の成長と希望をしっかり示したラストは、立派なハッピーエンドだと思いました。 もう少しカラスのことについて掘り下げた描写が欲しかった気はしますが、とてもよくできた作品です。後日声がつくようなのですが、この作品は音声SNSがテーマだけに、声が付けば一層演出として効果的でしょうね。その時もう一度読んでみたいなと思っています。

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  • 孤島の灯台
    孤島の灯台
    元軍人の灯台守エイデンが、1か月後には閉鎖される予定の、孤島のペタル灯台に赴任してくるところから始まる物語。その灯台で、自称「灯台の守り神」ライトと会い、彼との何気ない日常が心地良いタッチで描写されます。 前半は少し緩く感じられますし、灯台で働く他のメンバーの影が若干薄いのですが、その分エイデンとライトの交流の様子はとてもいいですね。 実は途中でフリーズしたとしか思えずにしばらく放置しました(笑)。右上の人物のイラストをクリックすれば進むのですが、それに気づかなかったのです。そのシーンは、文章か絵の説明で一言欲しかった……。 エイデンの過去のエピソードが折々に語られつつ、クライマックス手前まで穏やかに物語が進むのですが、最後のシーンを感動的に見せるためのエピソードの積み上げが、非常に効果的でした。エイデンの過去、そしてライトの思いがラストで一気に結びついて、大変印象的なラストシーンを作っていた構成は見事です。 1枚絵も大変豊富で、ビジュアル面でも楽しめましたし、イギリス民謡「灯台守」の哀愁のあるメロディも、雰囲気にとても合っていました。穏やかですが最後に感動を味わえるドラマです。

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  • 星霊調香師
    星霊調香師
    少女漫画のような絵柄が魅力的な、女性向けファンタジー恋愛物語です。「星霊調香師」という設定がまず独創的で面白い。設定がちょっと複雑なところもありますが、読み進めているうちに自然に理解できるでしょう。 またこの設定が、しっかり物語に生かされているところがいいですね。凝った設定は、物語で上手く使わないと、どうにも取ってつけたような印象を与えることも少なくないですが、今作はそこが巧みで、星霊という独自の存在にも、しっかりリアリティを感じました。 星霊の設定だけでなく、後半では舞台となるオルクレシア王国の問題も絡んできます。加えて主人公セシリアの恋愛模様まで入った「全部入り」のような物語ですが、それらがきちんと消化され、綺麗にまとまったオチがついています。実に構成に優れた物語です。 欲を言えば、ロサやシエルとの物語も読んでみたかった気がしますが、そこまで求めるのは欲張りというものでしょう。設定とキャラクターと物語が、お互いを上手く引き立て合った恋愛ファンタジーの傑作です。お薦めします。

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