heart

search

NaGISAのレビューコレクション

  • 右と   、左。
    右と   、左。
    陸上競技の大会の最中に倒れてしまい、半身不随になった高校生の物語。しかも恋人にも振られて踏んだり蹴ったり。そんな訳で、主人公の向陽はのっけから重いものを背負っているのですが、淡々とした語り口がそれを感じさせません。 この語り方はとても好印象でした。向陽がことあるごとに自分の不運や、元恋人に対する恨み言ばかりを口にしていたら、読み手は付き合いきれなくなりますからね。序盤の彼はいまいち無気力ではあるものの、そんな訳で素直に応援したくなる主人公でした。 ヒロインは元恋人の碧と、クラスメイトの水月の2人。それぞれに大変魅力的で、特に最初は印象が良くなかった碧の、物語における位置付けがだんだん変わっていく様子が、物語として見事でした(本人は何も変わっていないのですが)。よく練られた構成です。 もちろん水月もいいキャラクター(彼女の病気というか症状については、もう少し突っ込んだ説明があっても良かった気はします。私は理学療法士なので、「あ、これはあれだな」と分かりましたが)。 変わったタイトルなのですが、最後にその意味が分かった時は唸りました。物語といいキャラクターといい、短いのに非常に練られた作品です。もちろん全てが丸く収まるハッピーエンドとは言い難いのですが、とても美しい希望と感じさせてくれます。30分で希望を感じてみたい方は、この物語を読みましょう。

    レビューページを表示

  • みえない二等星
    みえない二等星
    軽音楽部に入部した加賀谷北斗と、幼馴染の来瀬美波。軽音楽部の活動に打ち込む日々の中、ある日2人は河川敷で、望遠鏡で星空を見る老紳士、高村と出会います。 音楽、星、それに幼馴染との関係。この3つの要素が実にいいバランスでブレンドされています。お互いの要素が、他を引き立てているんですよね。この手の物語は、下手をするとどれもが上手く立たずに中途半端になる危険もある中、とても見事な作りでした。 なんと言っても、北斗と美波の関係がとてもいいです。幼馴染ものの良さが濃縮されている感じ。また高村が非常にいいキャラクターです。なのですが高村は物語を盛り上げつつ、決してこれは高村の物語ではなく、高村を通じて北斗が成長し、変化する物語です。その取り合わせの妙がとても優れていました。 反面、軽音楽部のメンバーの影がいまいち薄く(令人はまだ北斗の成長のきっかけになったので、少し見せ場がありましたが)、賑やかし要員みたいになってしまっていましたが(笑)。 ラストがまた印象的です。音楽と星という、一見無関係に見える要素が、最後にきて見事に融合するのです。贅沢を言えば、最後に「決め」があればさらに良かったとは思いますが、それにしても全体にレベルの高い青春物語です。読後感も良く、お薦めの一作です。

    レビューページを表示

  • 未来のアリス
    未来のアリス
    魔法師団(魔法の力で町を守る、警察+自衛隊のようなもの?)に入るという夢のため、魔法師団学校を卒業したものの、回復魔法しか使えなかったため夢叶わず、町の魔法薬店で、パワハラ店主の元で地道に働く16歳のアリス。そんなアリスの成長を描いた物語です。 地味なのですが、とてもよくできた構成に感心しました。エルとアリスの祖母の2人が、それぞれ違う方向からアリスの成長のきっかけとなっているという作りが、まずいいですね。 それに、優等生だったエルの苦しみも描くことで、2人の交流に非常に真実味が増しています。名場面は色々ありますが(祖母の手紙や、アリスが自分に足りないものを見つけて一気に殻を破る場面など)、単に感動させんかなで入れられた訳でなく、全ての名場面が今作のテーマの方を向いているため、短い物語にもかかわらず、非常に強い感銘を受けました。 後半の爽快感とラストの心地よさは、味わってみる価値があると思います。私は30分で読めました。魔法は出てくるものの、別にバトルをやる訳ではなく、ファンタジーとしてはある意味地味なのですが、心温まるハートフルファンタジーです。感動できる日常系物語がお好きな方なら、きっとお気に召すはずです。

    レビューページを表示

  • 「reply」 現代社会×異世界の長編乙女ゲーム!
    「reply」 現代社会×異世界の長編乙女ゲーム!
    ノベコレで作品を探す時って、画面写真で判断するか、長編の場合はブラウザーで序盤だけちょっとやってみて、面白そうなら続きも、なんて方が多いでしょう。 そんな方がこの作品のページをたまたま見ても、なかなかプレイしてみようとは思わないかも知れません。立ち絵も1枚絵もなく、音楽も非常に地味ですから。しかしそれでこの作品を見落とすのは勿体ない話。物語はとてもよく出来ており、多くの方にプレイをお薦めしたい良作です。 主人公はOLで、同期の糸川涼に密かに想いを寄せています。しかし涼は同期の中でも抜きん出て仕事ができる優秀な男で、あっという間に統括部長にまで昇進。おいそれと会話することもできなくなってしまいました。そんなある日、雨の日に拾った子狐を自宅に連れ帰った主人公。こんな感じの出だしです。女性向け恋愛物語で、相手が異世界の住人という設定です。リアルなところとファンタジーなところが、上手くミックスされていました。 全50話から構成されますが、1話辺りは3分から5分とかなり短く(後半は少しだけ1話が長いですが)、テンポ良く読むことができます。そして、長いのですが色々な事件が次々に起こるため、読んでいて退屈もしません。絵はないのですが、登場人物も皆生き生きと魅力的。 三角関係なんですがそこまでどろどろとしていません。これは、涼やクラリ、有美などの性格付けの上手さでしょうね。サブキャラクターがとにかくよくできています。その意味で、小説型というより「体験型」の物語で、女性なら文句なしに楽しめるでしょう。もちろん、恋愛ものとしての完成度が高いため、男性も面白いはずです。ラストもきちんと盛り上がって感動的です。 演出もグラフィックスも全てが地味ですが、これは多くの方に読んでいただきたい一作。私は3時間45分で読み終えました。見た目でスルーせず、これを読んだら是非ダウンロードしてみてください。

    レビューページを表示

  • A BRAVE DAY
    A BRAVE DAY
    主人公の高校生笹原が、1年前に雪道で転んだところを助けてもらって以来、密かに思いを寄せる女生徒篠田明。ある日、笹原の友人横山の策略(?)により、翌日の放課後に明に告白する羽目に。 恋愛で一番緊迫感のあるイベントといえば、なんと言っても告白です。その告白をメインに持ってきた物語ですが、何せ主人公である笹原が読んでいてやきもきさせられるほど内気で、ろくに明に声もかけられない始末。 だからこそのリアリティがありましたし、ラストでは、勇気を振り絞った笹原に惜しみない拍手を送りたい気持ちになりました。また、バッドエンドの中にもキャラクター同士の人間関係の深さを感じさせるエピソードがあり、全エンド必見です。 攻略がちょっと大変ですが、どうしても難しい場合には、作者さんのTwitterアカウントを見れば、攻略ページへのリンクがあります。でもいきなり攻略を見ず、最初は自力で頑張ることをお勧めします。その方が、ラストの感動がきっと大きくなるはずです。短編恋愛ドラマの傑作です。

    レビューページを表示

  • 約束の赤い折り紙を
    約束の赤い折り紙を
    山間の小さな村を舞台にした伝奇ノベルです。伝奇とは言っても妖怪が出るわけでも異能バトルがある訳でもなく、どちらかと言えば地味な物語なのですが、非常に丁寧に組まれており、全体の雰囲気がとても良いのが特長です。 登場人物のやりとりとかグラフィックスなどが相俟って、全体に柔らかい感じがするんですよね。なので、伝奇にありがちな尖った印象がありません(尖った伝奇も、それはそれで面白いですが)。なので、伝奇が苦手な方でも安心して読めるでしょう。 短い章立てで展開がはっきりしていますが、飛ばし過ぎと訳ではなく、テンポはとても良好です。徐々に唯が近付く様子と読み手が、上手くシンクロしているんですよね。ですのでラストの「収まり感」がとてもいいのが好印象でした。 オリジナルの音楽もよくできており、短編伝奇の良作と言えましょう。1時間で読めますので、気軽に楽しんでください。

    レビューページを表示

  • Angel Call
    Angel Call
    私は好んで「感想が全く付いていない作品」ばかりに狙いをつけてプレイするのですが、中でもこれは大当たりでした。プレイ時間は30分でしたが、30分でこれだけの感銘を与えてくれる作品には、なかなか出会えるものではありません。 主人公の少女は、見習いの天使。若くして死んでしまい、天界で天使としての研修を受けることになったのですが、その仕事は人間の願い事を受け付け、行いに応じて天恵か天罰を与えるというもの。この設定がまず面白いですね。 物語は章立てで、計4人の願い事が届くのですが、どれも一筋縄ではいきません。が、短い中にどのエピソードにも捻りが効かされており、同時に主人公の少女の優しさと機転が上手く表現されているため、読んでいてすっかり惹き込まれてしまいます。 そこで最後のエピソードが来たものですから、効果絶大でした。まさかそんな方向から来て、そう落とすとは予想もしていなかったのです。そしてそこまで来たところで初めて、極めて堂々と伏線が張られていることに気付くのです。伏線の使い方としても完璧ですし、手品でいうところの「ミスディレクション」がお見事でした。 とにかく、キャラクター(「玉蔵和人」「混熊圭人」のネーミングに笑いました)、構成共に素晴らしい作品ですから一読を強くお勧めします。心を強く揺さぶられ、暖かな気持ちになれる現代ファンタジーです。

    レビューページを表示

  • Diamond Engine Reborn(ダイヤモンドエンジンリボーン)
    Diamond Engine Reborn(ダイヤモンドエンジンリボーン)
    「Diamond Engine」シリーズの最新作です。ですが前作、全然作との物語の繋がりはありませんので、この作品からプレイしても問題ありません。 そして前作、前々作とは戦闘のシステムが一新されています。これが絶妙なバランスでした。特にラスト近くの戦闘は非常に手強いのですが、紙一重で勝ち切れた時は非常に爽快です。確かに難しいですが、セーブを駆使すれば何とかなる範囲です。 また、序盤はいかにもアドベンチャーらしい謎解き、後半は一転してパズル風の謎解きが随所に散りばめられていますが、謎解きの方向性が前半と後半で違うことで、読み手を飽きさせません。謎解き型アドベンチャーとしても、とてもよくできています。 ストーリーは王道で、さほど捻ったところはありません。ラスト前の展開も、読もうと思えば先読みができるでしょう。しかし、読み手が能動的に物語に関与するアドベンチャー形式であるため、かえってその王道ストーリーが心に素直に入って来ました。ラグランとエーゼンの友情物語は必見です。 それにしても、エーゼンは最強のキャラですね。実は私も趣味で手品をやるので、ある程度のトリックのことは知っているのですが、エーゼンが見せてくれるのは手品ではなく魔法です(最初のカード当て除く)。あんなことを私もやってみたい(笑)。 とにかく、このまま埋もれるのはもったいない、SFアドベンチャーの傑作です。ぜひプレイしてみてください。

    レビューページを表示

  • もう二度と会えないあなたが、どうか幸せでありますように。
    もう二度と会えないあなたが、どうか幸せでありますように。
    面白い設定のライトSFです。「サイレントテロ」の設定が最後でちゃんと生きてくるのが上手いですし、一周目と二周目のラストで、異なる事実が明らかになり、読み手を二度驚かせてくれる構成が巧みです。 そして元が小説だけあって、文章の切れ味が良いですね。長々と語るタイプの文章ではないのですが、簡潔にして、それでいて要点を押さえた描写がとても良いです。よくよく読むと結構端折っているのですが、「省くべきところ」の見極めが上手いため、読み手にはテンポの良さだけが伝わります。読み心地もとても良好でした。 ラストは結構切ない終わり方なのですが、それを払拭するかのような仕掛けがしてあり、粋な見せ方だなと思いました。SFらしい綺麗な幕引きでしたね。個人的には、トゥルーエンドの後、ちょっとしたエピローグでも見てみたい気もしたのですが、それは野暮というものかも知れません。 設定と構成に捻りが効いた、短編SFの良作です。ちょっと変わった設定の不思議な物語をお探しの方にお薦めします。

    レビューページを表示

  • ユメビヨリ
    ユメビヨリ
    魔法少女ものなのですが、導入部が変わっています。いつも一緒に過ごしていた仲良し4人組の1人雪宮はるは子供の頃から病弱だったのですが、急に容体が悪化して亡くなってしまい、その葬儀に残り3人が集まるという冒頭。なかなかヘビーです。 この3人、ちょっとしたことで仲違いしてしまい、今は疎遠になっています。なので、魔法少女ものの定番テーマ「友情」が今作にも盛り込まれているのですが、テーマの盛り込み方が上手いです。このテーマによりしっかり物語が盛り上がります。 どちらかと言わなくても、かなり先読みがし易いストーリーなのですが、構成が丁寧で、ここというタイミングで非常にちょうどいいエピソードが来る上、テレビアニメを思わせる明確な起承転結も効いていて、とても読み心地がいい物語です。ちょっとしたイベントの活用法も巧みです。 エンドは3つで、実はノーマルエンドの方がグッドエンドよりも収まりが良く見えてしまったので、グッドエンドの後にエピローグでもあれば良かったかも知れませんね。 短い物語ですが、気軽に読めてプレイ時間以上の満足度のある良作だと思います。正攻法で丁寧に作られた、ハートウォーミングな現代ファンタジーです。

    レビューページを表示