NaGISAのレビューコレクション
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この月明かりの下に影はない夜の学校を探索するホラーで、画面写真を見ればお分かりのように、文字だけの地味な作品です。しかしこの作品にしかない魅力がそこかしこから感じられ、文字だけだからと見落とすには勿体無い一作です。 夜の学校の肝試しで、光弘はいきなり仲間とはぐれてしまい、幼馴染の透子と再会。そして何故か学校からは脱出できなくなってしまっており、2人は一緒に学校からの脱出を目指します。 ただの脱出ホラーではなく、透子に隠された事実が物語に深みを与えており、最後には少し心が温かくなります。透子の過去と現在をもう少し示唆する描写があれば、もっと良かったかも知れませんが、2人の関係の描き方がとても良いです。お互いがお互いを少しだけ意識する様子が絶妙。 終盤まで「物語がどこに向かっているか」が少し見えにくいところがあるのですが、全体を通じて「緊張感」が上手く描かれており、「少年少女の冒険もの」としてよくできています。 純粋なハッピーエンドではありませんが、と言って決して希望のない終わり方ではありません。1時間半くらいで読めます。心温まる青春ホラーの良作です。読んで初めて意味が分かるタイトルが粋ですね。 -
森の中の檻洋館で目を覚ました主人公は記憶喪失。こう書くと典型的な閉鎖空間ホラーのようですが、この作品は一味違います。 洋館に集まったメンバーは6人で、毎晩交代で怪談を披露します。もちろんそれだけで終わるはずはなく、ラストにはちょっとびっくりするような事実が明らかになります。これは予想しておらず驚かされました。 真実の意外さに対して、きちんと説明されているとは言えず、ちょっとすっきりしないところはあるのですが、意外性は十分で、どんでん返しの面白さを堪能できます。語られる怪談の使われ方(というのだろうか?)もにくいですね。 また、後半のとある展開も全く予想しておらず、「ここまで来てそういう展開をするか!」と唸らされました。凝った仕掛けの物語がお好きな方ならば、きっと楽しめるでしょう。3時間くらいで読めます。お試しを。 -
ラストブルー - A adolescence summer -高校生の理玖と、双子の幼馴染碧海、蒼空の夏の青春物語です。理玖の言動がどうにも後ろ向き、卑屈で、ちょっと感情移入しにくいところがありました。彼の苦しみの原因には共感するのですが、どうも「他人が見えていない」ところがあるんですよね。 そんな理玖ですが、クライマックスで不器用ながら自分の思いを素直にぶつけたシーンには、感銘を受けました。3人のわだかまりが溶けていくラストシーンには心を打たれます。 物語としては派手な起伏があるという訳ではないのですが、3人の関係描写が優れており、それだけで人間ドラマとして非常に読み応えがありました。ラストからクライマックスへの流れは、一見の価値があります。 プレイ時間が4〜5時間とあるので腰が引ける人もあるかも知れませんが、私は2時間半くらいで読み終えました。人間模様が紡ぎ出す、重厚な青春ドラマを味わってみてください。 -
よりにもよって軽音楽部の顧問になってしまいました主人公は部員3人の軽音楽部の顧問をする羽目になった若き教師、裏独。バンド活動がテーマの青春物語です。 3人のヒロインがいるのですが、変に恋愛方面に物語を広げず、3人のチームワークと彼女たちを見守って導く裏独という構成に絞った結果、ストレートながら気持ちのいい物語に仕上がっていました。 また、3人の部員の役割分担がはっきりしている上、それぞれにきちんと見せ場が用意されています。その見せ場が来るタイミングが良いため、物語に自然な起伏がついています。 展開そのものは比較的王道ではあるものの、このためクライマックスへ向けて知らず知らずのうちに物語が盛り上がるようになっていました。お約束と言えばお約束ですが、オチの付け方もいいですし、更に「その先」をも感じさせる幕引きで、読後感もとても爽やかでした。 若干日本語が怪しい箇所もあるのですが、台詞回しも粋で、短編青春ものとしてレベルの高い作品だったと思います。 -
ウブな二人の恋愛事情1か月前から付き合い始めたばかりの、初々しい高校生カップルを描いた恋愛物語です。二人とも高3ですので受験が迫っているのですが、二人とも思ったように成績が上がらず、思い悩みます。 なんとなく、いい意味で昭和の雰囲気を感じさせる純愛を味わえます。また、サブキャラのジェシカが非常にいいですね。声優さんの演技がまたいい。ジェシカのファンになりました(笑)。 そのジェシカが後半消えているのがちょっと惜しいのですが、驚くような捻りが有る訳ではないものの、将人と美椎名の心情を丁寧に描写し、「普通の恋愛もの」として読み応えのある内容でした(ただし、バッドエンドの美椎名には百年の恋も冷めるかも知れませんが(笑))。 ヤンデレも悲惨な過去もない、等身大の恋愛物語は最近珍しいですから、貴重だと思います。普通で、でも適度に心を揺らしてくれる恋愛物語の良作です。 -
IF・・・事故に遭い死んでしまった親友を助けるため、時間を戻ってやり直すというタイムリープものです。今作は演出に力が入っているのが見どころ(そのせいか一部動作が不安定なところもありますが)。 この手のライトSFが私は好きで、今作も楽しく読むことができました。タイムリープものは、どうやって問題を解決するか、その過程が面白いところで、今作も今作ならではの工夫が凝らされています。 とはいえ真相は意外と薄味で、凄く意外という訳ではないのですが、むしろ私はノーマルエンドの方が心に響きました。ノーマルエンドですからちょっと寂しい終わり方なのですが、あのラストシーンは印象的です(あの状態であれば助けられたのではないか、という気がしなくもありませんが)。 なお今作は選択肢にくるとセーブできませんので、セーブはまめにすることをお勧めします。気軽に楽しめる一作です。
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右と 、左。陸上競技の大会の最中に倒れてしまい、半身不随になった高校生の物語。しかも恋人にも振られて踏んだり蹴ったり。そんな訳で、主人公の向陽はのっけから重いものを背負っているのですが、淡々とした語り口がそれを感じさせません。 この語り方はとても好印象でした。向陽がことあるごとに自分の不運や、元恋人に対する恨み言ばかりを口にしていたら、読み手は付き合いきれなくなりますからね。序盤の彼はいまいち無気力ではあるものの、そんな訳で素直に応援したくなる主人公でした。 ヒロインは元恋人の碧と、クラスメイトの水月の2人。それぞれに大変魅力的で、特に最初は印象が良くなかった碧の、物語における位置付けがだんだん変わっていく様子が、物語として見事でした(本人は何も変わっていないのですが)。よく練られた構成です。 もちろん水月もいいキャラクター(彼女の病気というか症状については、もう少し突っ込んだ説明があっても良かった気はします。私は理学療法士なので、「あ、これはあれだな」と分かりましたが)。 変わったタイトルなのですが、最後にその意味が分かった時は唸りました。物語といいキャラクターといい、短いのに非常に練られた作品です。もちろん全てが丸く収まるハッピーエンドとは言い難いのですが、とても美しい希望と感じさせてくれます。30分で希望を感じてみたい方は、この物語を読みましょう。 -
みえない二等星軽音楽部に入部した加賀谷北斗と、幼馴染の来瀬美波。軽音楽部の活動に打ち込む日々の中、ある日2人は河川敷で、望遠鏡で星空を見る老紳士、高村と出会います。 音楽、星、それに幼馴染との関係。この3つの要素が実にいいバランスでブレンドされています。お互いの要素が、他を引き立てているんですよね。この手の物語は、下手をするとどれもが上手く立たずに中途半端になる危険もある中、とても見事な作りでした。 なんと言っても、北斗と美波の関係がとてもいいです。幼馴染ものの良さが濃縮されている感じ。また高村が非常にいいキャラクターです。なのですが高村は物語を盛り上げつつ、決してこれは高村の物語ではなく、高村を通じて北斗が成長し、変化する物語です。その取り合わせの妙がとても優れていました。 反面、軽音楽部のメンバーの影がいまいち薄く(令人はまだ北斗の成長のきっかけになったので、少し見せ場がありましたが)、賑やかし要員みたいになってしまっていましたが(笑)。 ラストがまた印象的です。音楽と星という、一見無関係に見える要素が、最後にきて見事に融合するのです。贅沢を言えば、最後に「決め」があればさらに良かったとは思いますが、それにしても全体にレベルの高い青春物語です。読後感も良く、お薦めの一作です。 -
未来のアリス魔法師団(魔法の力で町を守る、警察+自衛隊のようなもの?)に入るという夢のため、魔法師団学校を卒業したものの、回復魔法しか使えなかったため夢叶わず、町の魔法薬店で、パワハラ店主の元で地道に働く16歳のアリス。そんなアリスの成長を描いた物語です。 地味なのですが、とてもよくできた構成に感心しました。エルとアリスの祖母の2人が、それぞれ違う方向からアリスの成長のきっかけとなっているという作りが、まずいいですね。 それに、優等生だったエルの苦しみも描くことで、2人の交流に非常に真実味が増しています。名場面は色々ありますが(祖母の手紙や、アリスが自分に足りないものを見つけて一気に殻を破る場面など)、単に感動させんかなで入れられた訳でなく、全ての名場面が今作のテーマの方を向いているため、短い物語にもかかわらず、非常に強い感銘を受けました。 後半の爽快感とラストの心地よさは、味わってみる価値があると思います。私は30分で読めました。魔法は出てくるものの、別にバトルをやる訳ではなく、ファンタジーとしてはある意味地味なのですが、心温まるハートフルファンタジーです。感動できる日常系物語がお好きな方なら、きっとお気に召すはずです。 -
「reply」 現代社会×異世界の長編乙女ゲーム!ノベコレで作品を探す時って、画面写真で判断するか、長編の場合はブラウザーで序盤だけちょっとやってみて、面白そうなら続きも、なんて方が多いでしょう。 そんな方がこの作品のページをたまたま見ても、なかなかプレイしてみようとは思わないかも知れません。立ち絵も1枚絵もなく、音楽も非常に地味ですから。しかしそれでこの作品を見落とすのは勿体ない話。物語はとてもよく出来ており、多くの方にプレイをお薦めしたい良作です。 主人公はOLで、同期の糸川涼に密かに想いを寄せています。しかし涼は同期の中でも抜きん出て仕事ができる優秀な男で、あっという間に統括部長にまで昇進。おいそれと会話することもできなくなってしまいました。そんなある日、雨の日に拾った子狐を自宅に連れ帰った主人公。こんな感じの出だしです。女性向け恋愛物語で、相手が異世界の住人という設定です。リアルなところとファンタジーなところが、上手くミックスされていました。 全50話から構成されますが、1話辺りは3分から5分とかなり短く(後半は少しだけ1話が長いですが)、テンポ良く読むことができます。そして、長いのですが色々な事件が次々に起こるため、読んでいて退屈もしません。絵はないのですが、登場人物も皆生き生きと魅力的。 三角関係なんですがそこまでどろどろとしていません。これは、涼やクラリ、有美などの性格付けの上手さでしょうね。サブキャラクターがとにかくよくできています。その意味で、小説型というより「体験型」の物語で、女性なら文句なしに楽しめるでしょう。もちろん、恋愛ものとしての完成度が高いため、男性も面白いはずです。ラストもきちんと盛り上がって感動的です。 演出もグラフィックスも全てが地味ですが、これは多くの方に読んでいただきたい一作。私は3時間45分で読み終えました。見た目でスルーせず、これを読んだら是非ダウンロードしてみてください。
