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水原梓@ルピナスパレット のレビューコレクション

  • リリスの泪
    リリスの泪
    ひまわりの泪を読む前に、以前も一度読んではいたのですが、感想をまとめる前にひまわりの泪を読んでいたので、読了後に再度お邪魔させていただきました。 5分足らずの中に、なんとも美しいイラストが7枚も…とても豪華な仕様になっています。 そのイラスト一枚一枚が、本当に幻想的で、特に散りばめられた色とりどりのカケラは、ずっと眺めていたくなるほど。 これを見られるというだけでも素晴らしい作品ですが、絵本を読んでいるようなこのシナリオが、ひまわりの泪とのコンボで、本当にいい味を出しています。 @ネタバレ開始 ひまわりの泪のトゥルーエンド、本編だけだとなんともやるせない内容なのですが、リリスの泪を見ると、双子天使の想いがじんじんしてしまって…彼らはきっと、いつまでもリリスに会うために、いくらでも彼女に会いに行くのだろうな…と納得させられるのです。 だからきっと、彼らにとってのトゥルーなのだな、と腑に落ちる。読み返してそう思えたのが良かったです。 @ネタバレ終了 ひまわりの泪トゥルーエンドを見終えた後だと、さらに奥深いストーリーだなと感じました。 ぜひひまわりの泪と併せて、以前読んだ方も読了後にまた読み返していただきたいです…!

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  • 非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore
    非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore
    どこか退廃的な空気が漂うこの作品、とにかくここにしかないーーが詰まっていて、冒頭からグイグイ世界に引き込まれてしまいました。 抜け出せない引力というか、とにかく素晴らしいというありきたりな言葉でしか表現できない自分を呪いたい。 グラフィックも好きです、ドット絵のようでそうでない感じが、音楽と合わさって作品を構築しています。 @ネタバレ開始 退屈な日常に殺されそうになっている瑛さんが、ひょんなきっかけでオカルト雑誌『ノウティカ』の記者マエさんと交流したことで、リアルなのに非日常が漂う世界へと足を踏み入れるストーリー。 この、退屈の描写の仕方が実にリアルで『給紙トレイを優しく開ける』ことと大差なかったら…というのが、瑛さんのキャラを出しつつ、ストンとくる表現で好きでした。 ネーミングセンスもすごく好きで、『ノウティカ』って雑誌、本当にあるようなリアルさで、すぐに覚えてしまいました。らしさ、というのでしょうか、とにかく画面も音楽もそうですが、雰囲気をしっかり出していて、とても良かったです。 副編集長ナギさんのノリがすごく良くて好きだなぁーとなりましたし、瑛さんことサイトウさんもちゃんと乗っかっていて、この会話大好きですね。 この出だしの文章、個人的には良いーーと思ったけど、マエさんからのダメ出しに、私がボディーブロー食らった気分でした。まだまだだね。でも漢字や同じ単語が続くのは…とか、多少自分も気にしているので、ライターさんはもっと細かく見ているのだなぁと、本格派でドキドキしますね。 というより、増殖する路地裏っていう、ありそうでない感じからして好きです。 取材時に変なお兄さんと遭遇し、ここから何が始まるのかーーと思いきや、路地裏は彼らのアートだったということで、なるほど…と納得しかけましたが、QRコードで全てが台無しです。胡散臭すぎる、けど取材的にはきっと大有りでしょうね。 『たまてばこ』は今度こそ都市伝説来たか! と思わせての……マエさんの気持ち、わかります。 路地裏で、別のアーティストが出てくるのも、その経緯とかもなんというかリアルでした。マスクさんに関しては、社会から溢れてしまった人…ということで、少し同情してしまいました。 その後の最後の路地裏のやりとりは、最後にふさわしい展開でした。マエさんの脅かし方、普通にアリだと思います。 そして、サイトウさんのライターとしての矜持というか、本能や本音が垣間見えて良かったです。サイトウさんは自分の友人のことがあるから、ごっこ遊びについてあまり厳しく書けないようですが、本来はそんなことしなくても生きていけるよう、そういう立場の人が手を差し伸べるべき…と思う、などと普通に自分の意見を述べてしまう程度には入り込んでしまいました。 二人のやりとりがまたリアルで、マエさん本当にいい先輩だな…。 『日当たり不十分』この表現!!! 最高か! 馬鹿馬鹿しく、とんでもなく危ない香りがするけど、それこそが非実在都市伝説、なのかもしれません。私たちが日々摂取している噂話も、こういう現実が少しずつ色と形を変えて語られているものなのかも、と思うと妙にリアルに思えます。 ニンギョウくんも普通にありそう…しかも何をしようが見たら最後の理不尽パターンですね。 会話の中にどんどん面白いネタが入ってきて、これ普通に流したらSNSでバズったり、語り継がれるやつだ…と思って興奮しちゃいました。 細部まで現代の都市伝説で、面白かったです。 また、バディものとあるだけあって、二人や三人会話がとても小気味良いと感じました。 頼れるけど友だちいない系の先輩と、コミュ強でノリの良い後輩、それをやや俯瞰している上司、このアンバランスさが好きです。 永遠に見ていられる…雑用大好きなので、雑用係として雇われ、三人を見ている人になりたいです。 @ネタバレ終了 感想を一言でと言われたら、私もこういうシナリオ、会話が書きたい!! これにつきます。 人物像もストーリーも、本当に素晴らしい作品でした。

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  • よぉ!今からお前んち遊びに行ってもいいか?
    よぉ!今からお前んち遊びに行ってもいいか?
    以前からタイトル画面の自己主張激しそうなキャラクターと、徒歩で来た卍が気になって仕方なかったので、プレイさせていただきました! こう、迷惑がっている主人公の元に高橋君が強引に遊びに来るやつでしょうか…と思いきや、ですよ。 @ネタバレ開始 小学生の頃ってクラスに必ず、押しが強いクラスメイトがいますよね。いきなり電話かけてきて、遊びに行くぜって高橋君……と思いきや、窓からなんか覗いてます!? この緩いテイストでホラーや脅かしとは、と思ったら…そういう表現きちゃいますか!  高橋君、ダメって言ってるのに来ようとしてますが、そもそも誰も許可してないし! 複数人で押しかけるの!? 手土産とかいらんよ!? と強めに断ったのに、圧が、圧がすごい…。 また影がチラチラしてていよいよ怖くなってきたので、ピンポンに出ずに電話に出たら『コロス』ーー高橋君の心境というか、そもそもこの電話、本当に高橋君…? 疑いつつも玄関に向かうと、そこには高橋君が。ローストビーフ丼で全て許すネトフ●が好きな主人公に笑いつつ、こういう作品では珍しく初回からエンドを見ることができました。 バッドエンドはなかなかの迫力です、あなたのことは家にあげたつもりはないですよ!! 高橋君目線が見られるということで、再プレイ。主人公をストーカーしてる……ストーカー!? から始まり、公衆電話にストーカー女、変なおじさんからは仮面やローストビーフ丼を受け取り、向かった先ではお札が貼られた家に、フェス会場ってこれのことか…怨霊フェスじゃないですか! 高橋君視点だと、主人公をストーキングしていた以外はファインプレーしかしてなくて、彼がいなかったら…と思うと、神様に見えてくる謎の感覚に襲われました。 高橋君、また遊ぼうな! @ネタバレ終了 高橋君がとにかくすごい。その一言に尽きます。 とても面白い作品でした!

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  • 白雪姫の子
    白雪姫の子
    白雪姫の後日談ーー童話というのは、大概展開が微ホラーだよな…と思っていましたが、この作品からはそれがひしひしと伝わってきました。 @ネタバレ開始 カエルの子はカエル、親を見て『ああはならない』と思った子どもも、大人になればその時の親の気持ちがよく分かるというもの。 第一、外見の美しさなんていう移ろうものに価値を見出してしまうと、本当にキリがありません。 そして比べる対象が身近な存在ならなおさら。 エンド2つとも見ましたが、どちらもありそうだなぁと感じてしまいました。 そして、リリイが大人になって、母になった時…彼女は自分の娘を妬んでしまわないでしょうか? そうやって物語が続いていくのだとしたら、想像してぞくりとしました。 イラストも素晴らしかったです。 エンド2のリリイの顔が、特に…。 @ネタバレ終了 可愛らしい絵柄なのに、ホラーな展開で、そこもまた童話らしさがあって良かったです。

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  • ロベリアの/嘘
    ロベリアの/嘘
    ロベリアの花言葉、昔、花言葉を熱心に調べていた時期があり、『悪意』という言葉に、なんとなく、へぇ…と思ったのを思い出しました。作品を読んで、改めて考えると違った感想が出てきます。 @ネタバレ開始 人は決められたものをそのまま受け取ってしまうことが少なくないですが、花言葉もそうですね。 悪い花言葉がある花を嫌ったり、魔女なんて言われれば悪なのだと決めつけたりーーでも、作中の彼が思うように、命を奪って生きなければいけない存在が、それをすることに良いも悪いもないし、それだけを見て悪だと決めつけるような偏見こそが、恐ろしい花言葉を持つ花より、魔女よりも恐ろしいと思いました。 ただひたすらに魔女を愛し彼女の幸せを願った彼と、人の感覚を奪って生き続けることに苦しみを感じる魔女。 それぞれの思いが伝わるだけに、もし魔女が人のように生きられたのなら…そんな、ありもしないその世界を想像してしまうほど、切ない気持ちになりました。 @ネタバレ終了 プレイ時間はあっという間でしたが、その中でそれぞれの心の動きが美しく表現されていて、気付けば涙が流れていました。 素晴らしい作品をありがとうございます。

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  • 幼馴染との絶対的な恋の物語
    幼馴染との絶対的な恋の物語
    タイトル画面の幼いように見えるのに、どこか大人びた、切なげな表情の彼女ーーそれが離れなくなってしまって、気付けばゲームを開いていました。 ヒロインのなれこが可愛い…主人公との微妙な距離感や会話がいいキャラしているのと、私服がべらぼうに可愛い。 やっぱり…幼馴染は最高だなー!! デートっていう呼び方にこだわったり、服装を気にしたり…ときどき乙女な彼女が素敵です。 @ネタバレ開始 主人公は、幼馴染の彼女『大和なれこ』のことが好きだ、ということしか覚えていない記憶喪失。 記憶喪失から物語が始まる、というのはよくあるのですが、一人の子を好きだということしか覚えていない、というのはなかなかに斬新だなと感じました。 なれこ、可愛い系と思わせておいて、ボケをかましたり、ツッコミを入れたりとなかなかにノリがよく、しかもめちゃくちゃ可愛い。 最初、小学生ーーと言われた時は、このナイスバディでそれば! あかん! と思いました。違ってホッとしつつも、それはそれであり…か。 どうやら、思い出がある場所に行くと、記憶の断片が蘇るということで、いろんな場所を巡る主人公。 なれことは幼い頃から家に来るような関係だったり、実はもう二人は付き合っているということがわかったり……。 デートの終わりにきて、この世界はやっぱり歪で、不自然だと思ったのですがーー彼女のいない現実にたどり着いてしまいました。 トゥルーの前に大事なことを一つ!! なれこの水着をありがとうございます!! トゥルー以外のエンドと、これまでの流れから…なれこと主人公はここにいてはいけないのだろうということだけは感じとりました。 ただ、青春エンドのそれも嫌いじゃないですし、悪意から守る!なんて、かっこよすぎて惚れます。 遊園地にやってきた二人ーーまたしても記憶が蘇ります。既に亡き人になっていたのは、なんとなく察していましたが、なれこから語られる真実は残酷で、なれこは主人公との記憶を持っていないこと、さらに主人公は彼ではない……。 なれこは、忘れてしまった彼に許されないことを願っていた。それがたまらなく悲しく、けれども一人の人に愛されたという思い出が、きっと彼女の止まった時間を進めてくれる。そう思わせるエンドでした。 @ネタバレ終了 クリアするとトゥルーエンドのヒントが出るのもありがたいですし、最後の選択肢で分岐するのでエンディングもすべて見られるのが親切でした。 そして、トゥルーを読むと、タイトルが深く刺さります。 素敵な物語をありがとうございます。

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  • 兄さんとラブホに入った俺!
    兄さんとラブホに入った俺!
    他作品で、作者様の文体がものすごく好きになり、この方の書くBLってどんなものなんだろう!? と、とても気になってプレイしました。 @ネタバレ開始 前半部分の陽太君のゴーイングマイウェイっぷりは、すごかったですね! ただただ勢いに飲まれ、笑いで痙攣しそうになりました。 どこからどう突っ込んでいいやら!! でも、ひたすらにお兄ちゃんラブ! な彼が可愛いなーと思いました。 名前部分と画像の使い方が好きです! 中盤からは一気に雰囲気が変わり、タイトルから想像もつかないほど、胸が痛くなる展開でした。 可愛い弟の未来を守りたい、でも自分は男性をそういう対象として見てしまう、お兄さんの葛藤が伝わってきました。 ちなみに私、元々BLが苦手だったのですが、その時期にこの作品に出会えていたら、そう思わずにはいられなかったですね。 今はBLというか、カップルが幸せな顔して一緒にいれば、それでいいのだ! です(決して、義兄弟BL最高ー! 想いが通じ合ってハッピー! とか思ってません…!!) 好きになってしまったんだもの、それがきっと全てですよね。 家族愛だっていいじゃない、人の数だけ愛の形も、幸せのあり方も違ったっていい。押し付けない愛なら、同性だろうがなんだろうが、いいでしょう! これからの二人の未来はきっと明るいし、笑いの絶えない素敵な家族になると思います…! コメディなだけでなく、きちんと同性、家族を好きになって苦しむ葛藤まで描かれていて、深いシナリオでした。 @ネタバレ終了 陽太君が淫語を発しても、全く不愉快にならないのがすごかったです。 爽やかで、ちょっとおバカで、ゴリラな彼がとにかく真っ直ぐで可愛かったー!  いやー弟はいいなぁ…としみじみと感じる作品でした。ありがとうございます!

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  • 逢魔時の家路(リメイク版)
    逢魔時の家路(リメイク版)
    オープニング、劇中のピアノ曲と美しくも物悲しい色の夕焼け、優しい色使いのイラスト、すべてが作品の色を形作る、とても切ない帰り道の物語でした。 セリフと言葉、その一つ一つを噛み締めるように読みました。 @ネタバレ開始 大人に近づくにつれて、生きるのが下手になってる気がする。 この言葉に、ハッとしました。 子どもの頃はなんでもないことで笑って怒って、自由だったのが、だんだんと不自由になっていくと感じます。 特に、女の子と男の子だと、その辺が難しい。 ーーいつから視えていたの? 突然告げられたその言葉に、またどきりとしました。 彼女が死んでしまったというのに、どこかカラリとした二人の会話は、妙にリアルに感じました。 帰ろう、そういった由依奈さんの表情が、とても綺麗で、だからこそもう彼女はいないのだなと訴えかけるものがありました。 そして、最後の那由多君の……ここで一気に落とされました。 二人ぼっちの帰り道、ひとりぼっちの帰り道、それを思うと色んな感情が込み上げます。 それでも、また二人が言葉を交わせたのは、隣を歩く人がいるのは、せめてのも救いなのでしょう。 いつか来る別れまで、二人が一緒にいられますように。 @ネタバレ終了

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  • 異形の森の赤ずきん
    異形の森の赤ずきん
    ずっとホラーと思っていたのですが、読み進めていくと全く違う顔を見せてくれるお話でした。 一見すると怖い異形のキャラクターたちですが、それぞれ個性に溢れ、ただのモンスターではなく、意外とひょうきんで、話しているのを眺めているだけで、思わずニコニコしてしまいます。可愛い…。 赤ずきんや不思議の国のアリスを思わせる、童話的で胸に残る作品と言えます。 @ネタバレ開始 暗い森で目を覚ました女の子、なんと名前も記憶も全て無くしてしまっています。 こんな不気味な森にずっといられるものか、と帰り道を探すのですがーー森の住人たちはみな一癖も二癖もあるバケモノばかり。 彼らはみな、女の子を赤ずきんと呼び、記憶についても帰り道も教えてはくれません。 唯一、仮面の人だけが赤ずきんに協力してくれるのですが……。 見た目はモンスターなのに、どの子もどこか憎めない、愛嬌がある子ばかり。 意地悪なのに赤ずきんが泣くとオロオロしちゃうオオカミのバケモノ。 シャルちゃんは見た目こそ怖いですが、女の子らしく恋バナが大好き。 変態紳士はただの変態。この見てくれで、服を脱げだの、お尻がどうのこうの…。 山羊の人は無言ですが、嫌がることはしていません。どうやら極度の人見知りのよう。 山羊のレターは、赤ずきんが帰りたがっていること、でも自分はそうしてほしくないことで葛藤し、ヒントだけ与えてくれました。 湖に姿を映すとーー現れたのは制服の女の子。 彼女は一体何者で、どうしてここへ来たのか、異形の住人は何者なのか…ますます謎が深まります。 スケッチが隠したのは、おばあさんに関する記憶。彼は彼なりに赤ずきんを案じていたようですーー感動したのに、最後のパンツで台無しですが(笑) シャルちゃん…彼女の髪や靴の話で、勘付きました。彼女はきっと、赤ずきんのお気に入りの人形ではないか、と。 オオカミ、いえコロも、赤ずきんが心配で仕方なかったのでしょう。ようやく記憶を返すことを許してくれました。幼い記憶、優しい両親と犬のぬいぐるみ、彼がきっとコロですね。 赤ずきんことセナが閉じ込めたのは、辛く悲しい現実。現実では、誰も彼もが優しい彼女を苛みます。 そんな現実から逃れ、ここへやってきたセナ。 みんなはそんな彼女のために、必死で記憶を隠していました。 けれども、待っていてくれるおばあさんのためにも前を向く彼女、もう泣き虫のセナじゃない。 仮面さんは……お父さんかな、彼女の記憶の中にある、優しいお父さんが導いてくれたのだと思うといいな。 辛い現実は、まだ彼女を待ち受けている、けどセナは一人じゃないから。もう、大丈夫。 おまけを見ると、またホロリとしてしまいました。余韻が素晴らしいです。 @ネタバレ終了 現実の辛さから目を背けたくなった、そんな時に優しい彼らを思い出して、また前を向こう。 そんな絵本を読み切った後のように、温かな気持ちになる話でした。

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  • ぐらぐらする
    ぐらぐらする
    雨の日は、なぜこうも気分が下がるのか。 普段はなんでもなくできることも、やる気を失ってしまう、そういうの分かります。 新卒の会社、その中の微妙な人間関係、とりあえず空気になるしかない…きっと誰しも経験があるのではないでしょうか。 愛想笑いと、言いたいことも言えない雰囲気にため息をつきたくなりつつ、家と職場の往復をする毎日。5月、6月はただでさえ憂鬱なのに、そこに雨が加わると気が滅入ってしまう。そんな、もう一人の自分を見ているような気持ちになる日常の隙間にーー彼女がいる。 @ネタバレ開始 こういう怪談話というのは、友人と話す内容として鉄板だとは思いますが、これから夜道に買い物に行く人に話すのはやめて! そういうところも含めて、とてもリアルだなぁと感じました。 私は傘女に返事をしてあげましたが、こういう怪異って話しかけるのと無視するの、どちらが正解かものによりますよね。 ローカルなネタかと思えば、少し前に流行った話のようです。 そしてーーやはり、草田君のそばには彼女がいます。 彼が抱える頭痛、それはただ雨が鬱陶しいせい? それとも、雨が降ると何か嫌なことを思い出すから? お母さん、どうやら草田君のお姉さんが亡くなったことが分からないよう。ここに何かあるんでしょうか、どう展開するのか気になります。 コハルさん、と思わしき人の辛さが、雨のように染み込んできて、思わず胸が苦しくなりました。 職場でイマイチ仕事ができない人がいると、どうしてもそのツケが回ってきて、そりゃあ悪口の一つも言いたくなるけど…そういうことを人の前で平気で言えてしまう人は、誰に対しても理由があれば言う。明日は我が身。嫌にもなります。 加藤さん、一時期会社休みがちだったようなので心配していましたがーー良かった。 もちろん、何もかもが綺麗にまとまったわけでないけど、コハルさんが望んだように、彼には誰かに優しくできる人になってほしいと感じました。 傘を渡すエンドに関しては、もしかしてもっと明るい未来があるのかと思ったのですが、田中さんへの言葉を聞いて、ああなるほど…と納得しました。コハルさんへの言葉も思いも、なんとなく共感はできるし、自分はそこに行きたくないという気持ちも分からないでもないのですが。 要領がいい人ほど、落ちる時は一気に落ちる。 彼が、新天地でそれを知る日も近いのではないか、そう思いました。深いな。 個人的には、コハルさんの気持ちがすごくよく分かるので、彼女が安らかであることを祈るばかりです。 @ネタバレ終了 現実と非現実の境目が曖昧になったような、この絶妙なバランスに読み進める手が止まりませんでした。 憂鬱な梅雨に似た味わいの人間模様楽しませていただき、ありがとうございました。

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