街八ちよのレビューコレクション
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交響曲第十番「融合」「雨」という「音楽」で奏でられる神秘的で普遍的な人間の在り方が描かれた作品でした。 @ネタバレ開始 特に説明がなくても情景描写だけで最初に登場する男女が耳が聞こえない・目が見えないということは感じ取れましたし、最初の女性が歌う歌の歌詞で使われる近代英語が「とても古い」というところから「人類は一度滅亡したのではないか」と察しがついたので、情報の出し方や世界観の理解のさせ方が上手いと思いました。 そのおかげで特殊な設定ではありますが説明的な言葉を並べ立てられなくてもすんなりと物語に没頭することが出来ました。 彼らが感じ取ることの出来る情報によって「雨」をはじめとする世界に対する感じ方が異なる描写が繊細で、読んでいて気持ち良かったです。 このお話はフィクションですが実際のはるか昔に生きた人間も、現代の私たちのように最初からコミュニケーション手段が幅広く確立されていたわけではないでしょうから、この物語の彼らのように「手探りで」他者を知り、世界を広げていったのだろうなと想像を掻き立てられます。 文明が発展し、生活様式が変容しても「人間が人間を求めるということ」という本能的な欲求は変わらないしそれを繰り返すことで人間は進化していくのだと感じました。 読了するのに一時間もかからないコンパクトな作品ですが、「人間」というものの根柢や人類を取り巻く世界の動き方がしっかりと描かれていて大変壮大な気分になり満足感が高かったです。 @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました!
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忘れ傘の矜持「人」と「モノ」をテーマとしたコミカルで明るい、でもいろいろと考えさせられるお話でした。 くるくると表情の変わる立ち絵が大変愛らしかったです。 @ネタバレ開始 ツンデレお嬢さまの高級な傘のペチュちゃんと、のじゃロリで中二病(?)なビニール傘のニュンちゃん、どちらも可愛くてとても愛着がわきました! ペチュちゃんのエピソードを読み終えた後はまず、「モノと人間、どちらもお互いを大事に想っているのっていいなあ」と思いました。 家庭の事情で家にペチュちゃんを持ち帰れないけれどペチュちゃんが大好きな牧野さんと、何があっても彼女の傘であり続けるという強い意志を持ったペチュちゃん、お互いの絆がよく感じられて素敵でした。 こんな風に自分が大事にしているモノも自分を大事に思っていてくれたら嬉しいなあと思わずにはいられません。 普段目立たない存在の主人公であるツグミくんがペチュちゃんのために勇気を出して行動するところも好感が持てました。彼もモノをとても大事に思っているのだということがよく伝わってきます。 ペチュちゃんのルートが派手さはないけれど人とモノとの温かいつながりを感じるお話だったので、ニュンちゃんのエピソードもそのような感じのテイストなのかなと思いながら読み進めておりました。 しかしながら実際は人類滅亡の危機にまで発展してしまったことがかなり予想外で先の展開が気になり、読み進める手が止まりませんでした。 ニュンぺの主張を聴いて、人間はモノを簡単に捨ててしまうけれど、モノに助けられて生きているのだということを今一度痛感しています。 そのようなシリアスさもありつつもキャラクターのやり取りがコミカルだったので重くなりすぎず、楽しく読めました。 まさかツグミくんの脚フェチがあんな風に活かされるとは思いませんでした……! モノに対して「これはどんなことを考えているんだろう?」と想像するきっかけを与えてくださったモノ愛にあふれた作品でした。 ツグミくんのモノ述べ師としての活躍がもっと見たいので、続編があれば是非読んでみたいです……! @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました!
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メンヘラにだって理由があるふんわりとした可愛らしいイラストが特徴的な、女子高生たちの複雑な心模様が上手く描かれた作品だと思いました。 @ネタバレ開始 ナルちゃんのことが大好きなあまり暴走してしまうアイちゃんが引き起こすバッドエンドの数々は、プレイしていて生々しい怖さを感じました。 しかしながらEND5のルートでアイちゃんの事情や心情について詳しくわかると、やはり彼女たちに必要なのは「話し合うこと」だということを強く実感しました。 自分が何気なく言ったことが相手にとってとても大事、もしくは逆に傷つけてしまう言葉になる可能性があることを意識して気を付けるべきなのだなと考えさせられました。 自分の発言に責任を持つことの大切さをひしひしと感じます。 あの3人が仲良く友達でいられるエンドがあって本当に良かったです。 @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました! ※追伸:ファンアート記載のタイトルを誤ってお書きしてしまいました。大変失礼いたしました。深くお詫び申し上げます。
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天使の飼い殺しまずタイトル画面のマウスや指で操作できる演出が素晴らしくてしばらくゲームをスタートせずに楽しんでおりました。 ゲームを開始した後もどのようにプログラミングされているのか見当もつかない視覚的に鮮やかな演出のオンパレードで、ただただ息をのむばかりでした。 ストーリーの内容も、「綺麗なバラにはとげがある」とでも言いましょうか、美しくも切ない、やりきれない感情が沸き上がります。 数分で楽しめる本作ですが、満足度がとても高かったです。 素敵なゲームをありがとうございました!
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椿の主可愛いメイドさんが献身的に尽くしてくれる何とも羨ましいお話……と思いきや、その実はとても悲しいお話でした。 因果応報というのでしょうか、「欲」を出さなければもっと健康的な関係が築けたのではないかと思わずにはいられません。 @ネタバレ開始 主人公はツバキちゃんを支配するつもりが支配されていた、またプレイヤーである私もゲームで遊んでいるつもりが彼女に遊んでもらっていた、とすべてのEDを見終えた後のタイトル画面を拝見してから感じました。 ツバキちゃん、大変危うげで魅力的な子です。 @ネタバレ終了 ……ツバキちゃんのおっぱいに惹かれてこの作品をプレイさせていただこうと思った、というのは内緒です! 素敵なゲームをありがとうございました!
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パーソナル・スペースまずは「秀逸なタイトルだ」と思いました。個人的空間(想像力)と個人的な「宇宙」、そしてイディオムとしての「パーソナルスペース」の意味が物語の随所に効果的に使われており、説得力のあるタイトルであると感じました。 本作はSF作品となっており独自の設定も多く盛り込まれていますが、無駄に難解な表現を用いないので読みやすく、また主人公が適宜情報をまとめてくれるのですんなりと設定を理解することが出来ました。 とはいえ開示される情報の時系列がばらばらなので序盤はよくわからないのですが、演出やシナリオに引き込む力があったのでまさしく「点と点が繋がる」瞬間を待ちわびながら読み進められました。 「パーソナルデータ」の主人公であるシロエちゃんには凛とした意志と強さがあって、まるで軌跡を一直線に伸ばし輝く星のようであると感じました。 そんな風に彼女を形成していったのは間違いなくクロハくんであり、彼の優しさと知的探求心にはとても好感が持てます。そんな2人が惹かれ合う様に温かい感情を抱きました。 また、ラズリちゃんの性格がからっとしていて良いなと思いました。個人的に口調が好きです。 @ネタバレ開始 シロエちゃんとクロハくんの生い立ちや立場からして、きっと浮かばれない恋であるだろうと感じていました。 それでもお互い懸命に目的に向かって努力する様に応援したい気持ちが募りました。 ストーリーの終盤、主人公(クロハくんの子孫)を「クロハ」と認識し嬉し涙を流すシロエちゃんの姿には胸が震えました。 美麗なスチル、選び抜かれたBGM、上手く思考が出来なくなってしまった状態でもひたむきに言葉を紡ぎ感情を吐露するシロエちゃんのセリフ、それら全てが的確に私の心を射抜き涙腺を崩壊させるには十分すぎるほどでした。 「シロエとクロハ」として巡り合うことは出来なかったけれど、クロハくんがシロエちゃんを「死んだ」とみなし新たな関係を築いていったようにシロエちゃんも疑似的でもクロハくんと「再会」出来たことがある種の「終着点」となり彼らの想いは浮かばれたのではないかと思わずにはいられません。 @ネタバレ終了 エンドロール時に、広大な宇宙も小さな「点」から始まり、それが無数に繋がることで世界は出来ているのだと自分が生きているこの空間に思いを馳せました。 一時間ほどで読み終わるコンパクトな作品ですが、この作品とともに過ごした時間以上に心に残るものの多い美しく素晴らしい作品でした。 素敵なゲームをありがとうございました!
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四十年の初恋特殊な家系の元に生まれた主人公・朔と、その想い人である咲夏が織りなす純粋で不器用なラブストーリーです。 序盤は2人が再会した喜びと好きという気持ちの爆発という感じでほのぼのとした気分になったのですが、その時の「いけない時間」が後に様々な人を巻き込んであらぬ方向に物語が転がり、「今後どうなるのだろう」と固唾をのんでストーリを追っていきました。 倫理的な面で考えれば朔と咲夏のしてきたことは決して褒められたことではありませんが、それだけ一途に互いを想い合える存在がいることを羨ましくも感じました。 もっと早く自身の置かれている環境を捨てさえすれば丸く収まったのかもとも思いましたが、あの道を歩まなければきっと賀来たちは存在しないことになるので運命とはなんて残酷でおもしろいのだろうと思いました。 また、2人がお互いのために書いた手紙の文が終盤で再度登場したのが希望が感じられて良かったです。 まるでおとぎ話のような純真な愛の物語でした。 素敵なゲームをありがとうございました!
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オカルト学園七不思議日々の生活に不満を感じている主人公が突然異世界の学校に迷い込んでしまい、そこの学生2人に協力してもらって元居た世界の手がかりを探すために夜の学校を散策しながら学園の七不思議を紐解く、というお話です。 有名な怪異が学園の七不思議として登場しますが、ぞくっとくるエピソードもあれば何だか和むエピソードもあってメリハリが聞いていて良かったです。個人的には「トイレの花子さん」が好きです。めちゃくちゃ可愛いので切り株の里をたくさん献上したいです。 助けてくれる2人のおかげで自分や現実と向き合うことが出来て主人公の成長が感じられたハッピーエンドが好みだなあと思いました。 エンドの最後のスチルもどれも素敵でした。 協力してくれる2人がどちらも魅力的でかっこよかったです! 明るく元気で面倒見がいい大牙くん、物腰柔らかで真面目な光晴くん、どちらも素敵でしたが個人的には大牙くんが好きです。意外に家庭的できゅんとしました。彼の作ったチャーハンを食べてみたいです。 また、サブキャラも魅力的でした! ケモさんをもふもふしたい……! 異世界の学校はちょっと怖いけれどもっといろいろなことをあの2人と体験してみたいと思わせてくれる作品でした。 素敵なゲームをありがとうございました!
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ピアノ・ルーム・ソナタタイトル画面の女の子が好みだったのでプレイさせていただきました。 ピアノの曲を聴きながら女の子のお話を聞く、という作品です。 女の子はどうやら訳ありのようで、彼女の話はどこか物悲しいピアノの音色と相まって切なくなるものでした。 「来てくれて嬉しい」と笑ってくれる彼女のために毎日どれだけでも話を聞いてあげたいと思いました。 @ネタバレ開始 彼女にいつか小鳥以外にちゃんと話を聞いてくれる存在ができたらいいなと思います。 @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました!
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打ち上げ花火とコンペイトウ主人公の永太くんの元に「なぜここにいるのかわからない、生前身の回りにいた人の記憶がない」と言う自称幽霊の少女・ひかりちゃんが現れ、共に記憶を取り戻す手がかりを探しに夜の街を練り歩く、というお話です。 見た目も性格も明るく幽霊っぽくないひかりちゃんがとても愛らしく癒されました。 意外とアクティブなことが趣味だったりと、探索する中で彼女のことが徐々にわかる構成が良かったです。 Live2Dを用いた動く立ち絵やボイスが実装されていて、それが彼女の魅力を増幅させる一因になっていたと思います。 その他にもオリジナルの主題歌があったりと手をかけて作られていらっしゃるのだなあとこだわりを感じました。 打ち上げ花火とコンペイトウを関連付けてシナリオに織り込んでいたのもおしゃれだと思います。 @ネタバレ開始 ひかりちゃんが永太くんの生み出した「幻」だったと知ったときにはとても驚きました。 幽霊より幻の方がより切ないですね……。だから幽霊っぽくなかったのかと腑に落ちました。 それだけ永太くんはひかりちゃんのことが好きだったんだなあと痛感しました。 ひかりちゃんを「成仏」させないのも有りかなあと思いましたが、いずれ永太くんの精神が壊れてしまいそうなのでやっぱりトゥルーエンドの展開が健康的で未来あるエンディングだと感じます。 永太くんにはひかりちゃんの存在を胸に抱きつつ、幸せに向かって歩んでいってほしいなあと思いました。 @ネタバレ終了 素敵なゲームをありがとうございました!