街八ちよのレビューコレクション
-
転生待合室死後、役所のような場所で受付を済ませた後に次の場所へ行くまで、待合室で待つ間に話をする、という設定の、3組の男性たちによる掌編集です。 皆死んでいることが前提なので、それまでのしがらみや苦しみなどの「どうしようもなさ」を静かに淡々と味わえるのが魅力的でした。 @ネタバレ開始 ※読ませていただいた順です ■河野と内田の話 唯一その後に明確な希望があるエンドがあって、救われた気持ちになりました。 内田くんが優しくて人の気持ちを汲み取って行動できる子で、とても素敵だなと思いました。(おそらく生い立ち由来なのだろうと思うと切なくなりますが) どんな境遇でも2人が出会って友達になれるのなら、きっと未来は明るいだろうと思えるED1が好きです。 ■律と惺の話 どちらのエンドへ行っても、切ない結末になってしまうのが、魅力的でもありもどかしくもありました。 この2人に関しては死を選ぶ以外の方法もあったのではないか、と思うほど刹那的な決断だったように感じるので、余計につらいなあと思いました。 それでもそんな刹那の行動で、2人の存在の境界が曖昧になっても永遠に一緒にいられるED4は、2人にとっての最上のハッピーエンドなのかもしれないな、と思いました。 ■迅と昭の話 歪んだ嗜好を持つ大人と疑うことを知らない無垢な子ども、という対照的な立場の組み合わせが印象的でした。 エンド分岐によって、「出会ってはいけない2人」にも「出会って良かった2人」にもなるのが、おもしろいなと思いました。 やはり最初で最後の「善意」を抱くことができた迅さんのED6が良かったなと思います。 最後に転生できる受付の女性について、一体どんな過去があるのだろう? あんな仕事を長く続けなければいけない理由が何かあったのだろうか? と最後にこの世界観の考察が捗りそうな描写が登場して、興味深かったです。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました!
-
首吊りプリンチペ洋書のハードカバー本をめくって読み進めているような、読み口の心地いい作品でした。 西洋文学とハイファンタジーが混ざり合ったような文体と世界観で、スモーキーな色合いのグラフィックがそれを更に魅力的に引き立てていたように感じます。 @ネタバレ開始 主人公が予想に反して好戦的な子だったので、「新聞記者だからかな?」と最初は思ったのですが、幼馴染で若くして出世しているアルベルトさんに素直になれないからなのですね……! 読み進めるごとに2人してツンデレみたいな態度を取り合っているので、何とも微笑ましいなあと思いました。 メインの謎多き作家についての謎解きに関しては初手で見事に外れたのですが、その後アルベルトさんに丁寧に解説してもらえたので、2週目で無事スチルを見ることができました。 告白すっ飛ばしてキスしちゃう両片思いの幼馴染……良きですね……。ごちそうさまでした……! 物語の根幹をなすロバート・エリーバーグについても、人生ごと謎に魅了され謎を以て人を魅了する生き様が、作家として魅力的だなと思いました。 彼女の作品を一度読んでみたいものです。 彼女の悲しい生き様によって主人公たちの関係が進展することになるのは、ある意味作家冥利に尽きることなのかもしれないな、と思ったりもしました。 @ネタバレ終了 主人公たちのその後や日常生活など、もっとキャラクターたちについて知りたい、と思わせてくれる魅力的な作品でした。 素敵な作品をありがとうございました!
-
神様は雨の中に -綿毛の詩-ゲーム画面をそのままポストカードにして部屋に飾りたいほどの、かわいくてポップなデザインのグラフィックがとても印象的でした。 画面上にUIを置かず、キーや画面長押しでのセーブのみのシステムというのも、デザインに徹底的にこだわられた結果なのかなあと想像いたします。 ストーリーは牧歌的かつ表現が詩的であり、言葉や気持ちを丁寧に扱った世界観で素敵だなあと思いました。 @ネタバレ開始 冬至祭という大切な人に贈り物をする日に、自分の思いを伝えるためにどんな贈り物をしたらいいか……と悩むギルバートたちには、改めてプレゼントについて考えさせられました。 気持ちという不定形なものを形として贈る際、気持ちがこもっているかどうかや気持ちがきちんと伝わるかどうかは真の意味ではわからないもので、「与える」「受け取る」ことの難しさをひしひしと感じます。 それでもギルバートとライナスのように、互いを思い合って、理解しようとしているならどんな形にしても気持ちはちゃんと伝わるのだ、とお食事会のシーンを見て温かい気持ちになれました。 @ネタバレ終了 ゆったりと優しい気持ちになれる、年の瀬のせわしなさから一時逃避するにはぴったりの作品でした。 素敵な作品をありがとうございました。
-
ショタ悪魔召喚したから居候させてみた最初から最後まで『かわいい』がたっぷり詰まっていて、ずっとにこにこしながらプレイさせていただきました。 コミカルかつ賑やかなアオバさんとシュクレくんのやり取りが、観ていてとても和みます。 @ネタバレ開始 実際にこの2人が存在していたら、配信のある日を心待ちにすること間違いなしですね……! 私もプリン代の投げ銭をしたいほど、人間界の食べ物を引き合いに出されると途端に素直になるシュクレくんがかわいくて仕方なかったです。 アオバさんについても、なんだかんだ言いながらシュクレくんを大事に扱っているところや自分の気持ちをきちんと言葉にするところが、まっすぐに優しさを表現できる人なんだなあと好感を持ちました。 魔界では高貴だからと周りの者たちに丁重に扱われていたぶん、そういうアオバさんの素直な心がシュクレくんに刺さったのかなあと勝手に想像いたしました。 唯一の不穏要素であるイグニスさんも、結局のところただのシュクレくんのファンだったのがおもしろかったです。 炎の形で感情表現させるのが芸が細かいと感じました。 毎回律儀に玄関から帰るのが、飼い主の方にそう躾けられているのかなあと想像したら、イグニスさんはイグニスさんでかわいいなあと思いました。 皆でずっと仲良くしていてほしい、あわよくばそれを定期的に配信で見せてくれ、と思わずにはいられないほど、どのキャラクターも魅力的で愛おしい作品でした。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
-
この恋は賞味期限切れです紹介文の通りサクッと読める短編でした。 「恋心」にまつわる諸々の設定が、とてもユニークでおもしろかったです。 @ネタバレ開始 おそらく勝手に生じるもののはずなのに、賞味期限が切れたら法的には有料で廃棄処理しなければならないのは、非常にやっかいだなあと思いました。 大量に不法投棄されても致し方ないと思ってしまうほどです。 だけど主人公は自分のものについて、ぞんざいに捨てられた他の人たちの恋心と同じようには扱わず、結果的に綺麗な形で終わらせることができたので、その恋心も少しは報われた気がしました。 また、賞味期限を守って消費すると恋心の賞味期限は伸びるのか、それとも別の何かに変わるのか……などとこの設定だけでいろいろと想像が膨らむので、この世界観での成就した恋心も見てみたいなあと思いました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
-
死と令嬢(リメイク版)テキストにおける言葉や引用句の選び方で、序盤から知的で洗練された印象を受けました。 哲学的な話は当方も好きなので、非常に興味深く拝読いたしました。 ほの暗くも柔らかさを感じるグラフィックが、文章と合わさることで作品全体がいい意味でよりニュートラルに感じられて良かったです。 @ネタバレ開始 地の文において、「彼女」「私」と用いられていますが、その視点が「死」でも「令嬢」でもなくまた「三人称視点」とも少し違うような……と思っていたところ、終盤で「死神」が現れたことでようやく腑に落ちました。 冒頭で死が「自分は死神のような高次の存在でない」という旨の発言をしたことで、この世界観には死神は存在しない、と勝手に思い込んでいたので舌を巻きました。 死が語る死の概念、というのも大変おもしろかったです。 「死は苦しい」「死は救い」などというのは今「生」の状態であるから言えることで、「死」そのものはどちらでもない、という論旨には同感でした。 世界には事象が存在しているのみで、観測者によって「それ」の意味や価値が変わる、というのは存在のすべてに言えることだよなあと改めて思います。 それがこの「死神」にも同じことが言えて、令嬢の認識した(そうであるはず、そうであってほしいと願った)死から「自分は彼女の死神である」と認識する過程が、構成的に美しいなあと感じました。 また、浅学なため引用句のほとんどの元ネタを存じ上げなかったのですが、クリア後のコンテンツから、使われた用語等の解説が読めるのがありがたいなあと思いました。 物語に合わせて格言などの主語を入れ替えるなど、意味に対して徹底された姿勢は、とても素晴らしいなあと思います。 今後も作品の公開予定があるとのことなので、そのときはまたプレイさせていただけたらと思います。 当方もこういう話が好きなので……。 @ネタバレ終了 大変好みな作風で、よい時間を過ごせました。 素敵な作品をありがとうございました。
-
友待つ雪の歌声は幻想的な童話のような、ほんのり温かくも物悲しいお話でした。 立ち絵が可愛くて綺麗で、物語にとても合っていて素敵だなと思います。 @ネタバレ開始 「世界観の考察を楽しんでください」と記載されていたので少し考察をしてみるのですが、この街は「氷期を作り出す存在で、そのために依代のようなものが必要だった」のではないかと思いました。 その存在になるために必要な条件として、「最後まできちんとその役割を全うできる性質」を持っていなければならなかったのかもしれません。 ニーヴェちゃんは自分のルールを徹底したがる性格であることや、ごっこ遊び(≒役割を演じる行為)が好きだったということから、洞窟にいたという女の子の歌が聞こえてしまったのかなと考えました。 一方でルークくんはルールや細かな違いにあまりこだわらない性格であることから、ニーヴェちゃんがいくら呼んでも聞こえなかったのかなと思います。 そして「冷たいしんぞうの持ち主」が待っているのは、温暖な気候だったのではないかと思いました。 人間にしてみれば、地球はとてつもなく長い時間をかけて氷期と間氷期のサイクルを繰り返すので、そう考えれば必ず来るけれど人間の精神を持って待つのは恐ろしく孤独なことだよなあと感じます。 ニーヴェちゃんが成長しないままなら、半永久的に自分が置かれている立場をあまり深刻に捉えられないだろうと考えると、傍観しているこちらがつらいなあと思いました。 どちらのエンディングでも(1だとルークくんは忘れてしまって幸せになる可能性があるけれど)ニーヴェちゃんは根本的には孤独なまま存在することになるので、なるほど救われないなあと思いました。 @ネタバレ終了 子どもたちの視点で物語が展開するので複雑さはなくすんなり読めますが、深堀りしようと思えばいくらでもできそうな奥深いお話でした。 素敵な作品をありがとうございました。
-
KISAHALOスチルやBGM等がないという旨の説明文を読んで、むしろ気になったのでプレイさせていただきました。 ハロウィンの日に、3人いる知り合いのうちひとりの部屋に遊びに行ってあれこれする……という感じのラブコメ作品です。 まず主人公が無邪気でいつも楽しそうなのが、とても好印象でした。 確かにスチルや立ち絵はないのですが、代わりに動物のアイコンが表示されますし、何よりキャラクターそれぞれがしっかり立っていてストーリーやセリフに反映されていたので、ビジュアルの脳内再生が容易でした。 むしろそれらがないほうが想像を掻き立てられていいのではないかと感じるくらいには、密度が濃くて満足度の高い作品だと思いました。 システムも丁寧に制作されていて、ブラウザでもサクサクプレイできるし、エンド後に周回プレイが簡単にできる設計が嬉しかったです。 @ネタバレ開始 いろいろゆるふわなスーくん、ツンデレで苦労人気質なサネちゃん、無表情で礼儀正しいけど実はしたたかなムツ、どの男性もとても魅力的でした。 仮装によってちょっとそういう雰囲気になっても、主人公が彼らを信頼しきっているし彼らも主人公のことをそれぞれ大事に思っているので、終始ほのぼのとした空気で和やかに終わるため安心して楽しめました。 あえて自分のお気に入りを挙げるなら、サネちゃんでしょうか。わざわざ手作りカボチャプリンを振る舞ってくれるの、嬉しすぎる……! 主人公には伝わっていないけど、第三者から見たらバレバレなほどに主人公を意識しているのも可愛かったです。 気軽に周回プレイしてコンプリートできる作品ですが、おまけまで充実していて最後まで楽しめました。 最後に見られる設定にて、彼らの本名が知れるのが個人的に嬉しかったです。 @ネタバレ終了 ハロウィンだけでなく、他のイベントでの彼らの様子も見てみたいと思える楽しい作品でした! 素敵な作品をありがとうございました。
-
あなたと東武動物公園で東武動物公園は良いところですよね。当方も来訪経験があり、懐かしくなってプレイさせていただきました。 グラフィックの多くにアスキーアートが使われており、今の時代にむしろ新鮮で目を引きます。 園内の風景まで再現されているのに、思わず感心してしまいました。 テキストの淡々としていてちょっとエスプリの効いた雰囲気が、アスキーアートにマッチしていて全体の空気感がとてもいいなと思いました。 合間に挿入される実際の動物たちの写真にも、「こんな子いたな! 懐かしい!」と和ませていただきました。 @ネタバレ開始 プレイ前は「ほのぼのデートものかな?」と想像していたのですが、実際はふたりが終始すれ違っていて、グラフィックが楽しげな分、余計にメランコリーを感じました。 「あなた」が「そのとき」ではなくて「そのときの写真や経験を誰かに共有しているとき」のほうが楽しそうだ、という描写が本当に切ない気持ちになります。 ラストシーンは、「わたし」はこのデートで「あなた」がもし一緒に楽しんでくれたら、という最後の期待が結局叶わなかったがゆえの別れの決断なのかなと思いました。 10分程度でプレイできる短編ではありますが、「付き合ってはみたものの最初から最後まで嗜好が合わなかったカップル」のような、見えないところまで想像を掻き立てられる作品でした。 余談ですが、「コブがぷよんぷよんするラクダ」の様子が実際に動画で観られて個人的に嬉しかったです……! @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。
-
MarieRecord試作段階のAIロボットが4人のモニターのもとへ行き、そこで過ごした10日間の記録を見ていく、というスタイルの作品です。 そのAIロボットであるマリーちゃんの立ち絵がとてもかわいくて気になったので、プレイさせていただきました。 モニターになる人間によって、それぞれ全く異なる展開の話が手軽に楽しめました。 目的や願望によってマリーちゃんの雰囲気も変わるので、(それがプログラムであったとしても)マリーちゃんのさまざまな表情や側面が見られて良かったです。 @ネタバレ開始 各ストーリーのどれもに言えることなのですが、外部の存在が自分に介入してくることによって、自分の本当の感情や今まで気づかなかったことに気がつける、という点においてはそのようなきっかけ自体が重要なのであって、それがロボットであれ何であれ関係ないのだろうと思いました。 現在ではまださまざまな点で課題があり発展途上なAI技術ですが、いつかマリーちゃんのような存在が現実になるくらい技術や文化が発達したら、存在の是非は結局のところ受け手である人間の感情次第になってくるのかなあと想像しました。 ちなみに個人的にはCASE3が一番好みです。 実は創作活動をこっそり応援してくれていた家族、素敵ですね……! 曲を一緒に作ってアップロードしたことでネットワーク上に記録が残り、それを記憶として思い出せるマリーちゃんという設定も心に響きました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました。