いねむりスフィンクス/マーブル・フェアリーのレビューコレクション
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たまゆらの夜あとがきまで含めて読了しました。 BGMもあいまって基本的にはゆったり進みますが、 先が気になる描写や物語的な起伏はしっかり存在しています。 一時間ほどですが、最後まで途切れることなく読ませる作品でした。 作品の雰囲気と裏腹に主人公の響は言動にかなり険のある人物です。 これはあとがきで作者さん自身もおっしゃっている通りですが、 まだ響の心情が表面的にしか語られない最序盤では殊更顕著に感じられました。 しかしそんな響がより踏み込んだ自身の内面を語ってからは、 彼に対する印象が大きく変わっていくことになります。 @ネタバレ開始 過剰なまでに他者を拒絶し、人間のことが嫌いだと言い切る理由。 それは他者を見下しているのではなくむしろ劣等感に苛まれるから。 ただ社会に存在しようとするだけで責められているような気さえする。 とても身につまされる思いがする独白で、ここで一気に心が動かされました。 @ネタバレ終了 辛辣どころでなかったタマへの態度もこの前後辺りから軟化するので、 主人公が苦手で離脱しそうになっても、とにかくそこまでは読んで欲しいですね。 対するタマはとにかく人当たりの良い好人物として描かれます。 作中で響が評したように、どんな無礼で理不尽な態度を取られても許容する。 しかし何もかもを肯定してくれるような存在ではなく、 導くことを第一としているというのが本質であり肝心だと感じました。 人間以上に人間的な表情を見せつつも、 超越者然とした能力や精神性をところどころで覗かせてくる。 親しみやすくも人間ならざる存在として、非常に巧みな描かれ方でした。 @ネタバレ開始 切なさを残しつつ前向きな結末は個人的にもとても好みな着地です。 人間時代のタマと現在のタマの容姿の変化――特に目と耳――を踏まえると、 大いに想像の余地と余韻を残すラストとエピローグも印象的でした。 @ネタバレ終了 素敵な時間をありがとうございました!
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生きるその先に -回生編-岐尾森編、覚醒編に続いてこちらも読了いたしました。 近年のフリーゲームとしては本編だけでもかなりのボリュームですが、冗長さは一切感じません。 魅力的なキャラクターたちと掛け合い、起伏に富んだストーリーで夢中になって一気にプレイしました。 これまでに散りばめられていた伏線や気になっていた描写を鮮やかに回収しつつ、 更に新たな謎を提示しながら先の読めない展開で引き込んでいく様は見事という他ありません。 こう書くと色々と同時進行し過ぎて散漫になってしまうのでは……と思われそうですが、 物語の主軸は一貫していてぶれることがないため、決してそんな印象はなくのめり込むことが出来ます。 @ネタバレ開始 不穏さを残しつつも表向きは順調に進んでいく展開 ――からの叩き落とし、そして更にそこからの再起……っ! 王道にして最上級のカタルシスを覚える逸品に感服いたしました。 覚醒編があまりに良すぎたので、正直プレイ前は「あれを超えられるか?」と思っていました。 ある種の消化試合になってしまうのでは……とさえ懸念していたのですが、まったくの杞憂でしたね。 夏生の行く末を知った沙姫が涙ながらに彼を抱きしめるシーンで、まずそれを確信しました。 沙姫の無念への感情移入もさることながら、辛いはずの夏生が却って彼女を思いやるのがもう……。 しかしまさかこの時は沙姫こそ実は――ということには気付けませんでした。 後の衝撃的な展開を迎えてから再びこのシーンを思い出した時には、情緒が大変なことに……。 そして夏生が八つ当たりと分かりながらも感情を爆発せずにはいられなくなる場面。 自身の消滅さえもう受け入れて穏やかにすらなっていた夏生が、 自分以外の犠牲はどうしても許せなくて取り乱しているのが辛かったですね……。 あそこは夏生の未熟さの発露という以上に、彼の優しさを再認識することになりました。 しかしそんな彼だからこそ皆が命を懸けてまで力になろうとし、 されどそんな彼だからこそ皆が犠牲になることには耐えられないという悲痛。 溜めに溜められたフラストレーションからの光明と再起、そして始まる真のクライマックス。 最終決戦前、生晶(鬼晶)が夏生の中にいる空へと語りかけるシーンも良かったですね。 言葉を交わすことはなくとも決して心は一方通行になっていない対話だったと思います。 回生編では本人の状況的に、却って影が薄くなってしまっていた生晶ですが、 過去回想とこのシーンの印象だけでも一気に存在感を取り戻したように感じました。 迎えた最終決戦の最終盤、ここに至っても心が空を斬ることを拒んで膝をつく夏生。 夏生の人柄を、そしてここまでの彼らを見てきた者としてそれを優柔不断と言えるはずもなく……。 そこから「空」とともに「妖の空」を打ち倒す――この一瞬は紛れもなく、二人が一緒に戦った瞬間でした。 そして闇の中で沙姫、水輝、詩衣、結、生晶が夏生を救い出しにくる場面。 紛れもない奇跡ですが決してご都合主義ではなく、全員の想いが結実させた必然だったと思います。 最後に、忘れてはならないまさかのエピローグ。 空という名前にもかかっていて、切なくもあまりに綺麗に終わった本編でしたから、 (いち作り手としての勝手な想像ですが)これを加えることには迷いもあったんじゃないでしょうか? ですが、自分にとっては間違いなく最高のサプライズでしたよ。 これは空がただ主人公(夏生)の傍にいた相棒だったからというだけでなく、 一人の登場人物としても十分過ぎるほどに魅力的だったからこそだと思います。 OP曲のピアノアレンジという伝家の宝刀が彼のために使われたのも納得です。 あまりに切ない「約束」を回想するバックにこの曲が流れるシーンは胸にグッときました。 にしても最終編にて突然の登場、ヒロインたちを差し置いて出ずっぱり、 更にはメインヒロインのかつての想い人(しかも両想い)という立ち位置。 クライマックスに至ってはむしろもうお前がメインヒロインだろという活躍っぷり。 にもかかわらず一切の悪印象を持てないというのは、ちょっと尋常じゃありません。 すべての責任を当然のように負い、あらゆる悪感情の受け皿にさえなろうという器量。 そんな人間では計り知れないほどの善性を示しながらも、 ただ超然としているわけじゃない感情を持ち合わせている絶妙な塩梅あってのことでしょうか。 みゃあすけさんの並大抵ではない技量と、キャラクターへの想いが為せる業だったと思います。 またクリア後、実績回収のためにと軽い気持ちで読んだ7日目の赤字選択肢が……。 そういえば生晶以外のヒロインでは唯一、彼女も夏生より年上のお姉さんだったなと。 もちろん後の展開を考えるとやはり白字の選択肢の方が構成としても整っているので、 そちらがいわゆる正規ルートという扱いになっているであろうことには納得出来ますが。 しかしその上でも、ここは全プレイヤーにぜひ読んでおいてもらいたい場面だなと思いました。 順当にプレイした場合、あの場面を読んでいない人も多そうなのは勿体ない……っ! @ネタバレ終了 今後、商業も同人も含めて自分がプレイしたノベルゲーム歴を思い出す時、 本シリーズと夏生たちも必ず浮かぶだろうなというほど深く心に刻まれました。 本当に素晴らしい作品をありがとうございました!
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生きるその先に -覚醒編-第一部に続いて、こちらも読了いたしました。 シナリオ、設定、キャラクターとあらゆる要素がドストライクでした。 内容的にも精神的にも間違いなく第一部の続編なんですが、 いい意味で別次元の作品にまで仕上がっていたように思います。 もちろん前作も素晴らしい作品だったのですが、 一年で更にここまでレベルを上げて来るのかと度肝を抜かれました。 第一部は懐かしいADVを思い出すという感想が主になってしまいましたが、 今作は純粋に「生きるその先に」という作品そのものが持つ力を見せつけられた印象です。 システム面も一見して前作と全く同じように見えますが、 より親切かつ没入感を増す細やかな改善が為されていて、制作に対する真摯さが窺えました。 (選択肢の場面でオプションが表示される、好感度が上昇した演出の挿入タイミングなど) まだプレイしていない方はその理由が「長さ」だけなら、絶対にプレイすべきでしょう。 紹介ページを見て「面白そうだけど……」と感じたなら、その予感は間違いなく超えてくるはずです。 以下、ネタバレ感想部分は第一部のネタバレも含みますので未プレイの方はご注意ください。 (なお同時収録されている第三部の体験版部分に関してもがっつり触れています) @ネタバレ開始 ◇詩衣とそのルートについて 年下で辛い境遇にあって、という属性だけでも庇護欲はくすぐられますが、 やはり詩衣がそれをただ嘆いているだけじゃないところが印象的でしたね。 葵紅との微笑ましい交流があったからこそ、 クライマックスでの葛藤がより悲痛に感じられて心を動かされました。 髪飾りについて「稽古中に壊れちゃった」とだけ告げるのも、 さり気なく父のことをまだ庇う彼女らしさが現れていたように感じます。 また葵紅が夏生を庇ってくれるシーンが象徴的だったように、 このルートでは特に夏生の優しさが素直な形で強調されていたと感じましたね。 詩衣もまた自己犠牲的な優しさが強い故に苦しむヒロインだったので、 この二人が一緒にいればきっといいバランスになっていくのではという希望が見えました。 ◇沙姫とそのルートについて 登場時から謎めいていて、つかみどころのないヒロインでしたね。 そして彼女自身の口から過去や素性が明かされてからもずっと、 まだ何かあると思わせる伏線が常に敷かれ、目が離せなくなるシナリオでした。 明確には語られていない過去の境遇も随所の含みで察せられるようになっていて、 一見して唐突に感じられるクライマックスも決して単なる超展開ではないという……。 ネガティブな理由から人魚姫に憧れていた沙姫が、 幸せな人魚姫になれたようなエピローグは感慨深いものがありました。 裏切られたと感じても沙姫の秘密は口外しようとしない、主人公も良かったですね。 個人的な好みの話にもなりますが、自分は誠実な主人公が好きで、 特に男の場合は口が堅いというのがその第一条件だと思っているところもあるので。 ◇鬼晶とそのルートについて 前作では鬼晶の正体と過去が終盤になってようやく明かされ、 それもどこか俯瞰的な描写だったので感情移入し切れないまま終わった印象がありました。 しかし本作ではその真相が美麗なイラストを伴って早々に、 しかもより叙情的な形で明かされるので、彼女への思い入れが俄然一層に強くなりましたね。 またそれによって鬼晶の態度もかなり柔らかくなり、 主人公も主体的に行動するようになったりとすべてが良い方向に作用していたように感じます。 唯一の弊害といえば、心情的に他ヒロインルートに進みづらくなってしまったことでしょうか。 詩衣ルートの導入で夏生が迷いを見せるところでは完全にシンクロした気分になりました(笑)。 メインヒロインだけあって前作同様に本人のルート以外でも満遍なく活躍を見せてくれますが、 沙姫ルートの終盤は本人のルートに負けず劣らずの「おねえちゃん」感で切なさが募りましたね……。 ともあれ二人の絆が明確に描写されている分、 お互いを想い合う気持ちに強い説得感があって終盤が最高潮に盛り上がりました。 ここで流れるBGM(「覚醒した夏生」)が、「夏生のテーマ」のアレンジ(?)なのもいいですね。 この総合芸術感こそ、数ある創作形式の中でも自分がノベルゲームを好きな最たる理由かもしれません。 ◇天城家メンバーについて 「REACT」については未プレイながら気になってはいて、 本作にもそのキャラクターたちが登場するという情報は知っていました しかしゲスト出演程度かと思いきや、まさかここまでがっつり絡んでくるとは。 実は既に「REACT」もダウンロードはしていたのですが、 いずれはプレイしなければ……という思いがより強まりました。 葵紅に関してはもはやサブキャラクターの域を超えた活躍で、 特に詩衣ルートについては彼女なくしてはあり得ないシナリオでしたね。 斗也は一度思いあまって直情的なことをしてしまうものの、 それも彼なりの思いやりからくることでしたし反省もしっかり見せるので 悪印象を抱くということはありませんでした。むしろその誠実さに好感が増したぐらいです。 立ち位置的にシナリオ上ではあまり目立たない実智瑠も、 バランサーとしての役割の他、ナイフというキーアイテムを通しての存在感がありましたね。 すべてのキャラクターを大切にされているのがよく伝わってきました。 ◇第三部の体験版について 既に第三部も本編が公開されていますが、 リリース時の気持ちを味わうべく同時収録の第三部体験版もプレイしました。 しかしここで一旦お預けを食らった方たちには同情をせざるを得ない。 世界がループしていること自体は本編中で夏生が 第一部の場面を回想した時点であっ(察し)だったのですが、更にこんな仕掛けが打たれているとは。 鬼晶グッドエンドがあまりに真っ当なグッドエンドだったので、 ループするにしてもここからの第三部って何をどうするんだろう? 確かに「鬼切」の下りでの陰陽師の件など、気になる謎はまだ残っているけど。 と思っていましたが、なるほどそう来るか……と。 @ネタバレ終了 改めて本当に素晴らしい作品をありがとうございました! 終わってしまうのが惜しい気持ちをぐっと抑えつつ、第三部に向かいます! P.S 第一部での感想コメントに返信を頂きありがとうございます! 作中で語られていなかった補足情報まで教えてもらえて理解が深まりました。
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生きるその先に -岐尾森編-全グッドエンド+おまけ要素まで読了しました。 設定やシナリオ、キャラクターのみならず、UIのデザインまで ゼロ年代前後の現代伝奇ADVの雰囲気が存分に感じられる作品です。 『痕』、『月姫』、少し時代を下って『3days』や『レコンキスタ』―― まさにその辺りに創作の原点がある自分には直球で突き刺さりました。 反面、下手にその辺りの知識があると色々と先が読めてしまう部分もありましたが。 そういった意味では、あの頃の作品を今も追い求める人のみならず、 まだ触れた経験のない若い世代にも是非プレイすることをお勧めしたい作品です。 選択肢は多めですが、演出のお陰で望みのルートに進みやすく攻略サイトも完備と、 至れり尽くせりの親切設計なので心配は要りません。 ルートによってかなり傾向や雰囲気が変わる作品ながら、 全編を通して主人公の性格にブレがなくキャラが確立していたと思います。 またヒロインそれぞれのキャラクター性が 各ルートの作劇方法とも抜群のシナジーを生んでいたのも印象的でした。 @ネタバレ開始 続編は未見なので、現時点では色々と的外れなことも言ってしまってると思います。 その点に関しては何卒ご容赦ください。 ◇結ルートについて ビジュアルも内容も衝撃的なシーンで一気に引き込みつつ、 しかもそれを単なる撒き餌に終わらせずプロットに落とし込む手法が見事です。 切っ掛けは一目惚れながらも夏生が結への想いを強くしていく流れも、 逆に結が夏生を特別な存在として意識し惹かれていく過程にも説得力がありました。 一方で夏生の寿命問題を解決する展開はかなり強引でしたが……。 ただ必要以上に触れると鬼晶ルートのネタバレになってしまうから仕方ないとも思います。 そしてリメイク裏話で触れられた瞳の色に関する匂わせがとても気になりますね。 実はラスト以外にもいくつか引っ掛かった部分が残っているのですが、 その辺りも含めて後々しっかりと回収されそうな期待を今から勝手にしています。 ◇水輝ルートについて 結ルートとは対照的に、明快そうな中に不穏さを徐々に煽って積み重ね、 ここというタイミングで一気に爆発させるというタイプのプロットでした。 もうこの2ルートだけでも作者さんの作劇術、その幅広さを感じさせられます。 ただ水輝から夏生への想いが明確に描写されるのに対して、 夏生から水輝への描写がやや淡泊だったかなという印象も受けました。 しかしそれが却って下心なしに水輝を救おうとしている夏生のお人好しさを強調させ、 だからこそ水輝も彼を信頼するようになる流れの説得力を生んでいたようにも思います。 エピローグの一枚絵、某アルカナハートばりの超次元なクセ毛もいいですね。 ああいう細かさ大好きです。まさしく細部に神は宿る。髪だけに。 ◇鬼晶ルートについて ビターさと切なさ、エンディングで誰かに背を優しくさすられているような感覚。 不快感とは違ったしこりを胸に残す結末でした。 続編前提で謎もかなり残るので、これだけで感想を書くのはなかなか難しいですね。 続編を含めた上でのマルチエンドの一つとして見ると確かにありなんですが、 これが唯一のエンドだったら自分も某制作スタッフさんと同じ気持ちになっていたかと。 (作品としてマイナス評価という意味ではなく、あくまで辛さが勝ってしまうという意味です) しかし20年ほど前のゲームといえばどちらかといえばこれがTRUE扱いで、 グッドエンドは読み手を慮ったオマケ的な要素という作品も多かったような記憶……。 構成上仕方ないことではあるのですが、「おねえちゃん」と夏生の回想が あまり踏み込んだところまで描かれていないのは少し残念だったように思います。 「おねえちゃん」の正体だけでなく実際の所業が分かった後も、 まだ味方したいと夏生が思えたほどの明確な何かがあればなお良かったかな……と。 上記でしれっと触れた通りYoutubeも拝見させていただきましたが、 「あの夏生の悔し涙があるからこそ」という狙いは思いっきり的中しています! なにせ自分も忘れない内にとこのレビューを先に書いていますが、 本音はそれよりも早く第2部以降を読み始めたいという思いに溢れていますので。 あの予告の引きの強さも相当なものでした。 @ネタバレ終了 素敵な作品を生み出して頂き、ありがとうございます。 ところどころ生意気で色々とっ散らかった感想になってしまって申し訳ありません。 これから第2部以降もプレイさせていただく予定なので、それではまた!
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姉恋 -姉を愛して雨に恋して-選択肢による分岐も含め、読了致しました。 設定はやや重めですが、クライマックスまでは穏やかに物語が進みます。 主人公の人柄も相俟って落ち着いた調子で淡々と進む場面が多いものの、 台詞の掛け合いやBGMの使い方が巧妙なので、 会話文だけでも十分に登場人物の意思や感情の機微を感じ取ることが出来ます。 漫画風のパーツが演出で頻繁に用いられているので、画面上も寂しい印象はありません。 ヒロインの長令は天然寄りなのどかな雰囲気で、 それでいて掴みどころがないという魔性じみた魅力を纏っていました。 実の姉弟で疎遠になってからそれほど時間も経っていないにしては 二人がやけによそよそしく感じましたが、そこは回想で納得出来ました。 家族ものや幼馴染ものといえばやっぱり回想ですよね。 そんな主人公・銀次と長令には色々と共通点や似た雰囲気が見られ、 掛け合いだけでなく個々の描写でも“姉弟感”が伝わってくるという印象です。 仮に二人が別作品でそれぞれ登場していて、 後に彼らが姉弟だったと明かされてもしっくり来るほどでした。 自分も姉弟ものはよく書くので、この辺りは特に勉強になりました。 クライマックスからの展開はやや性急に感じたものの、 そこへ至る前振りや伏線はしっかりと張られていて、 登場人物たちの行動原理にも説得力を持たせているので単なる超展開にはなっていません。 やばいやばいと内心ドキドキしているところに叩きつけられるので、 とても効果的に作用していてまんまと胃が痛くなりました。 @ネタバレ開始 ただここからは個人的な見解というか好みの範疇になりますが…… 長令の行動以上に、それに対する銀次の仕打ちに不義を感じてしまったので、 以後も彼が超然として長令や荒木を説伏している点は少し受け入れ難かったです。 最終的にその選択をするのであれば、なおのこと……。 先の仕打ちに対する自責の念と詫びが描写されていれば、印象はかなり違ったと思うのですが。 荒木の地雷を刺激した「思慮の浅さ」については後悔していましたが、 そもそもあれを第三者に口外するということ自体の残酷さにも思い至っていればなと。 同様の事件でも幼年者が親に、女性が警察に訴えるのとはわけが違う行動だったので。 荒木の激情は伏線も理由付けもしっかりなされていて、 最終的な始末も綺麗に収まっていただけに、その対比でより気になってしまいました。 とはいえそんな風に気になってしまったのも、 それだけ長令が魅力的なキャラクターで感情移入してしまったからだと思います。 課題はまだ残されているけど登場人物たちが皆前向きに進み出すグッドエンドは、 直前までの修羅場から解放されたこととも相俟って読後感が良く、晴れやかな気持ちになれました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました!
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ありすすとーりーノーマルモードでクリアしました。 シナリオは読み込んでゲームはなるべく駆け足、 という具合に進めてクリア時間は五時間半ほど。 隠しイベントは未発見なので、 そこまで網羅するにはもう少しかかると思います。 ◆RPG部分について 初回ということで攻略情報は見ないようにしたのですが、 ノーマルでもなかなかの手応えで、 特にボスは体力の高さもあって何度かゲームオーバーに……。 ほぼ必須級のスキルもあったりするので、 習得・強化する順番も重要になってくると思います。 なおスキルはノーコストでリセットが可能、 後からでも自由に付け替えることが出来るという親切仕様。 一見してかなり高めにされているガチャに必要なポイントも、 運に頼らず容易かつ大量に獲得する手段が確立されています。 しかもゲームに上手く落とし込まれているので作業感も薄め。 全体的に高難易度ながら、 ユーザーにもとても寄り添った設計だと感じました。 低確率で出現するレアモンスターや達成率の数値化など、 コレクター気質なやり込み勢をくすぐる要素があるのもいいですね。 ◆シナリオ・キャラクターについて タグや注意書きにもある通りの題材が取り扱われており、 サムネイルの雰囲気からは想像し難いシリアスな内容も含まれます。 このシリーズの持ち味でもあるのですが、 初見の方はパートごとの温度差に驚かれるかもしれません。 ただ主人公のありすを始めとしたメインキャラの素直さ、 いい意味でのゆるさが雰囲気を大きく和らげてくれました。 見た目に惹かれたという方がプレイされても、 期待通りが感想を得られるんじゃないでしょうか。 それでいてギャップも味わえるという不思議な作品だと思います。 @ネタバレ開始 現実パートのいじめ描写はかなり直接的で、 救いはあるものと分かっていつつも辛いものがありました。 ですがそれだけにマユの悲壮さが伝わってきて、 終盤とエピローグのためにも不可欠な要素だったなと思います。 考えさせられつつ前向きになれる読後感で、 本作もプレイして間違いのない作品でした。 唯一歯を食いしばったのは最終エリア遭遇率2%のあいつに、 あと一撃で倒せるってところでやられた時ですかね(泣)。 シリーズ全作既プレイ者ならではの感想や疑問もあるのですが、 そうなると他作品のネタバレまで含めてしまうのでここでは自重します。 ただ本作を先にプレイしてありすが好きになった、 雰囲気が気に入った方は他の「ありす~」にも触れてみてはどうでしょう。 キャラクターや世界観を共有しているだけでなく、 作風にも通じる部分が多いのできっと気に入るんじゃないでしょうか。 @ネタバレ終了 今回も素敵な作品をありがとうございました!
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海辺のかたらい全ルート、全エンディングを読了いたしました。 夜の海辺、二人による語らいの掌編と、 いわゆる雰囲気に全振りした作品なのかなと思っていましたが 決してそんなことはありませんでした。 (雰囲気に全振りした作品がダメというわけでもないのですが) 雰囲気の良さが大事な要素となっているのは間違いないのですが、 そこに依拠しているのではなく、あくまで魅力の一つという印象です。 総じて掌編ながら軸となるストーリーはしっかりとあり、 キャラクターも立っていて文章力も確かと、地力の高さがうかがえる作品でした。 淡々としながらも無味乾燥ではなく人間的な息遣いを感じられる…… そんなキャラクターや文章、世界観が大好きなので、個人的な満足度も高かったです。 テキストウィンドウのこだわりもいいですね。 場面ごとのムードにぴったりで没入感が高まりました。 素敵な作品をありがとうございます。
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GrayWorldとても短い作品ですが、 それだけに想像力と考察欲を掻き立てられます。 謎解き要素はヒントがかなり直接的なので、 専門的な知識がなくても答えられるはずだと思います。 24時間で制作されたとのことですが、 細やかな演出もあってとても誠実に作られた作品だと感じました。 @ネタバレ開始 初期状態及びクリア後のタイトルロゴをクリックすることで それぞれ見られる隠しシナリオ的なものも含めて読了致しました。 灰色(Gray)な世界も見方一つで 捨てたものじゃない(Grateful)世界に変わって色づいていく。 そういうメッセージもあるのかなと、勝手に受け取って解釈しました。 最初のアイテムを一つずつチェックしていくところで、 調べた順に適応する色の影がついていく細かい演出もいいですね。 @ネタバレ終了 独特な雰囲気が味わえる良い作品でした!
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白い日傘とアンデッド全エンド、クリアしました。 立ち絵のパターンも多く、素敵なイベント絵も豊富で大変お得な作品です。 なんといってもホネ子のキャラクターが良かったです。 あんなにいい子なら、流太君でなくとも救いたくなるでしょう。 ほぼ主人公とヒロインの二人だけで進行する作品ですが、 上林君も登場シーンの短さが惜しいぐらいにいいキャラクターをしています。 もちろん、主人公の流太君もここぞという時に見せる男気が光っていました。 @ネタバレ開始 あとがきで向さん自身が書かれている通り ハッピーエンドの流れは確かに唐突感があったものの、 たとえご都合主義的でも二人には幸せになって欲しいと、 そんな思いが高まっていましたので素直に良かったなあと思えました。 向さんの作風的にはホネ子とお別れで終わっても不思議ではなかったですし、 いい意味で裏切られました。ハッピーエンド後のタイトル画面が眩しい……。 といってバッドエンドも決して単なるゲームーオーバー的なものではなく、 それぞれ印象深いものでした。 バッドエンド確定の中、幼少時代の思い出がスチルとともに流れるという、 この手の演出に弱いんです。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をありがとうございました!
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【謎解きx脱出!】ありすえすけーぷもちろん、通常モードでプレイ。 ありすちゃんはなかなか容姿とギャップのあるキャラをしていて、 色んな意味でプレイヤーを楽しませてくれます。 謎解きの難易度は程よく、解き方のルールのようなものにさえ気付ければ、 少なくとも終盤まではそれほど苦労しないと思います。 ただし時間制限もあって初見では結構シビアなので、緊張感がありました。 最初に書いた通りありすちゃんの台詞がいちいち楽しいので、 じっくり総当たりして読んでいこうとするとマズイことになります。 本作は同作者による「ありすシリーズ」の三作品目にあたりますので、 ありすちゃんのキャラクターが気に入ったら前作、前々作もいかかでしょうか。 私は一作目は過去にプレイ済みだったのですが、 本作のプレイに先立って二作品目もプレイさせて頂きました。 それぞれ独立しているのでいきなり本作をプレイしても問題ありませんが、 思い入れがより強まることは請け合いです。 @ネタバレ開始 途中までの謎解きはすんなり解けた方だと思うのですが、 ラストで見事に沼ってCエンドもといシーエンドを連発してしまいました。 視野が狭くてカードの色の方にばかり目が行き、 メモにまで戻ってみるという発想にたどり着くまで何周したことか。 やっとの思いでクリアを迎えた時、 あのSEとともに表示される一枚絵がいい顔過ぎて笑ってしまいました。 @ネタバレ終了 とにかく楽しい作品でした! 進捗公開されているありすシリーズの新作も、 その他の完全新作もお待ちしています!