マーブル・フェアリーのレビューコレクション
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生きるその先に -岐尾森編-全グッドエンド+おまけ要素まで読了しました。 設定やシナリオ、キャラクターのみならず、UIのデザインまで ゼロ年代前後の現代伝奇ADVの雰囲気が存分に感じられる作品です。 『痕』、『月姫』、少し時代を下って『3days』や『レコンキスタ』―― まさにその辺りに創作の原点がある自分には直球で突き刺さりました。 反面、下手にその辺りの知識があると色々と先が読めてしまう部分もありましたが。 そういった意味では、あの頃の作品を今も追い求める人のみならず、 まだ触れた経験のない若い世代にも是非プレイすることをお勧めしたい作品です。 選択肢は多めですが、演出のお陰で望みのルートに進みやすく攻略サイトも完備と、 至れり尽くせりの親切設計なので心配は要りません。 ルートによってかなり傾向や雰囲気が変わる作品ながら、 全編を通して主人公の性格にブレがなくキャラが確立していたと思います。 またヒロインそれぞれのキャラクター性が 各ルートの作劇方法とも抜群のシナジーを生んでいたのも印象的でした。 @ネタバレ開始 続編は未見なので、現時点では色々と的外れなことも言ってしまってると思います。 その点に関しては何卒ご容赦ください。 ◇結ルートについて ビジュアルも内容も衝撃的なシーンで一気に引き込みつつ、 しかもそれを単なる撒き餌に終わらせずプロットに落とし込む手法が見事です。 切っ掛けは一目惚れながらも夏生が結への想いを強くしていく流れも、 逆に結が夏生を特別な存在として意識し惹かれていく過程にも説得力がありました。 一方で夏生の寿命問題を解決する展開はかなり強引でしたが……。 ただ必要以上に触れると鬼晶ルートのネタバレになってしまうから仕方ないとも思います。 そしてリメイク裏話で触れられた瞳の色に関する匂わせがとても気になりますね。 実はラスト以外にもいくつか引っ掛かった部分が残っているのですが、 その辺りも含めて後々しっかりと回収されそうな期待を今から勝手にしています。 ◇水輝ルートについて 結ルートとは対照的に、明快そうな中に不穏さを徐々に煽って積み重ね、 ここというタイミングで一気に爆発させるというタイプのプロットでした。 もうこの2ルートだけでも作者さんの作劇術、その幅広さを感じさせられます。 ただ水輝から夏生への想いが明確に描写されるのに対して、 夏生から水輝への描写がやや淡泊だったかなという印象も受けました。 しかしそれが却って下心なしに水輝を救おうとしている夏生のお人好しさを強調させ、 だからこそ水輝も彼を信頼するようになる流れの説得力を生んでいたようにも思います。 エピローグの一枚絵、某アルカナハートばりの超次元なクセ毛もいいですね。 ああいう細かさ大好きです。まさしく細部に神は宿る。髪だけに。 ◇鬼晶ルートについて ビターさと切なさ、エンディングで誰かに背を優しくさすられているような感覚。 不快感とは違ったしこりを胸に残す結末でした。 続編前提で謎もかなり残るので、これだけで感想を書くのはなかなか難しいですね。 続編を含めた上でのマルチエンドの一つとして見ると確かにありなんですが、 これが唯一のエンドだったら自分も某制作スタッフさんと同じ気持ちになっていたかと。 (作品としてマイナス評価という意味ではなく、あくまで辛さが勝ってしまうという意味です) しかし20年ほど前のゲームといえばどちらかといえばこれがTRUE扱いで、 グッドエンドは読み手を慮ったオマケ的な要素という作品も多かったような記憶……。 構成上仕方ないことではあるのですが、「おねえちゃん」と夏生の回想が あまり踏み込んだところまで描かれていないのは少し残念だったように思います。 「おねえちゃん」の正体だけでなく実際の所業が分かった後も、 まだ味方したいと夏生が思えたほどの明確な何かがあればなお良かったかな……と。 上記でしれっと触れた通りYoutubeも拝見させていただきましたが、 「あの夏生の悔し涙があるからこそ」という狙いは思いっきり的中しています! なにせ自分も忘れない内にとこのレビューを先に書いていますが、 本音はそれよりも早く第2部以降を読み始めたいという思いに溢れていますので。 あの予告の引きの強さも相当なものでした。 @ネタバレ終了 素敵な作品を生み出して頂き、ありがとうございます。 ところどころ生意気で色々とっ散らかった感想になってしまって申し訳ありません。 これから第2部以降もプレイさせていただく予定なので、それではまた! -
姉恋 -姉を愛して雨に恋して-選択肢による分岐も含め、読了致しました。 設定はやや重めですが、クライマックスまでは穏やかに物語が進みます。 主人公の人柄も相俟って落ち着いた調子で淡々と進む場面が多いものの、 台詞の掛け合いやBGMの使い方が巧妙なので、 会話文だけでも十分に登場人物の意思や感情の機微を感じ取ることが出来ます。 漫画風のパーツが演出で頻繁に用いられているので、画面上も寂しい印象はありません。 ヒロインの長令は天然寄りなのどかな雰囲気で、 それでいて掴みどころがないという魔性じみた魅力を纏っていました。 実の姉弟で疎遠になってからそれほど時間も経っていないにしては 二人がやけによそよそしく感じましたが、そこは回想で納得出来ました。 家族ものや幼馴染ものといえばやっぱり回想ですよね。 そんな主人公・銀次と長令には色々と共通点や似た雰囲気が見られ、 掛け合いだけでなく個々の描写でも“姉弟感”が伝わってくるという印象です。 仮に二人が別作品でそれぞれ登場していて、 後に彼らが姉弟だったと明かされてもしっくり来るほどでした。 自分も姉弟ものはよく書くので、この辺りは特に勉強になりました。 クライマックスからの展開はやや性急に感じたものの、 そこへ至る前振りや伏線はしっかりと張られていて、 登場人物たちの行動原理にも説得力を持たせているので単なる超展開にはなっていません。 やばいやばいと内心ドキドキしているところに叩きつけられるので、 とても効果的に作用していてまんまと胃が痛くなりました。 @ネタバレ開始 ただここからは個人的な見解というか好みの範疇になりますが…… 長令の行動以上に、それに対する銀次の仕打ちに不義を感じてしまったので、 以後も彼が超然として長令や荒木を説伏している点は少し受け入れ難かったです。 最終的にその選択をするのであれば、なおのこと……。 先の仕打ちに対する自責の念と詫びが描写されていれば、印象はかなり違ったと思うのですが。 荒木の地雷を刺激した「思慮の浅さ」については後悔していましたが、 そもそもあれを第三者に口外するということ自体の残酷さにも思い至っていればなと。 同様の事件でも幼年者が親に、女性が警察に訴えるのとはわけが違う行動だったので。 荒木の激情は伏線も理由付けもしっかりなされていて、 最終的な始末も綺麗に収まっていただけに、その対比でより気になってしまいました。 とはいえそんな風に気になってしまったのも、 それだけ長令が魅力的なキャラクターで感情移入してしまったからだと思います。 課題はまだ残されているけど登場人物たちが皆前向きに進み出すグッドエンドは、 直前までの修羅場から解放されたこととも相俟って読後感が良く、晴れやかな気持ちになれました。 @ネタバレ終了 素敵な作品をありがとうございました! -
ありすすとーりーノーマルモードでクリアしました。 シナリオは読み込んでゲームはなるべく駆け足、 という具合に進めてクリア時間は五時間半ほど。 隠しイベントは未発見なので、 そこまで網羅するにはもう少しかかると思います。 ◆RPG部分について 初回ということで攻略情報は見ないようにしたのですが、 ノーマルでもなかなかの手応えで、 特にボスは体力の高さもあって何度かゲームオーバーに……。 ほぼ必須級のスキルもあったりするので、 習得・強化する順番も重要になってくると思います。 なおスキルはノーコストでリセットが可能、 後からでも自由に付け替えることが出来るという親切仕様。 一見してかなり高めにされているガチャに必要なポイントも、 運に頼らず容易かつ大量に獲得する手段が確立されています。 しかもゲームに上手く落とし込まれているので作業感も薄め。 全体的に高難易度ながら、 ユーザーにもとても寄り添った設計だと感じました。 低確率で出現するレアモンスターや達成率の数値化など、 コレクター気質なやり込み勢をくすぐる要素があるのもいいですね。 ◆シナリオ・キャラクターについて タグや注意書きにもある通りの題材が取り扱われており、 サムネイルの雰囲気からは想像し難いシリアスな内容も含まれます。 このシリーズの持ち味でもあるのですが、 初見の方はパートごとの温度差に驚かれるかもしれません。 ただ主人公のありすを始めとしたメインキャラの素直さ、 いい意味でのゆるさが雰囲気を大きく和らげてくれました。 見た目に惹かれたという方がプレイされても、 期待通りが感想を得られるんじゃないでしょうか。 それでいてギャップも味わえるという不思議な作品だと思います。 @ネタバレ開始 現実パートのいじめ描写はかなり直接的で、 救いはあるものと分かっていつつも辛いものがありました。 ですがそれだけにマユの悲壮さが伝わってきて、 終盤とエピローグのためにも不可欠な要素だったなと思います。 考えさせられつつ前向きになれる読後感で、 本作もプレイして間違いのない作品でした。 唯一歯を食いしばったのは最終エリア遭遇率2%のあいつに、 あと一撃で倒せるってところでやられた時ですかね(泣)。 シリーズ全作既プレイ者ならではの感想や疑問もあるのですが、 そうなると他作品のネタバレまで含めてしまうのでここでは自重します。 ただ本作を先にプレイしてありすが好きになった、 雰囲気が気に入った方は他の「ありす~」にも触れてみてはどうでしょう。 キャラクターや世界観を共有しているだけでなく、 作風にも通じる部分が多いのできっと気に入るんじゃないでしょうか。 @ネタバレ終了 今回も素敵な作品をありがとうございました! -
海辺のかたらい全ルート、全エンディングを読了いたしました。 夜の海辺、二人による語らいの掌編と、 いわゆる雰囲気に全振りした作品なのかなと思っていましたが 決してそんなことはありませんでした。 (雰囲気に全振りした作品がダメというわけでもないのですが) 雰囲気の良さが大事な要素となっているのは間違いないのですが、 そこに依拠しているのではなく、あくまで魅力の一つという印象です。 総じて掌編ながら軸となるストーリーはしっかりとあり、 キャラクターも立っていて文章力も確かと、地力の高さがうかがえる作品でした。 淡々としながらも無味乾燥ではなく人間的な息遣いを感じられる…… そんなキャラクターや文章、世界観が大好きなので、個人的な満足度も高かったです。 テキストウィンドウのこだわりもいいですね。 場面ごとのムードにぴったりで没入感が高まりました。 素敵な作品をありがとうございます。 -
GrayWorldとても短い作品ですが、 それだけに想像力と考察欲を掻き立てられます。 謎解き要素はヒントがかなり直接的なので、 専門的な知識がなくても答えられるはずだと思います。 24時間で制作されたとのことですが、 細やかな演出もあってとても誠実に作られた作品だと感じました。 @ネタバレ開始 初期状態及びクリア後のタイトルロゴをクリックすることで それぞれ見られる隠しシナリオ的なものも含めて読了致しました。 灰色(Gray)な世界も見方一つで 捨てたものじゃない(Grateful)世界に変わって色づいていく。 そういうメッセージもあるのかなと、勝手に受け取って解釈しました。 最初のアイテムを一つずつチェックしていくところで、 調べた順に適応する色の影がついていく細かい演出もいいですね。 @ネタバレ終了 独特な雰囲気が味わえる良い作品でした! -
白い日傘とアンデッド全エンド、クリアしました。 立ち絵のパターンも多く、素敵なイベント絵も豊富で大変お得な作品です。 なんといってもホネ子のキャラクターが良かったです。 あんなにいい子なら、流太君でなくとも救いたくなるでしょう。 ほぼ主人公とヒロインの二人だけで進行する作品ですが、 上林君も登場シーンの短さが惜しいぐらいにいいキャラクターをしています。 もちろん、主人公の流太君もここぞという時に見せる男気が光っていました。 @ネタバレ開始 あとがきで向さん自身が書かれている通り ハッピーエンドの流れは確かに唐突感があったものの、 たとえご都合主義的でも二人には幸せになって欲しいと、 そんな思いが高まっていましたので素直に良かったなあと思えました。 向さんの作風的にはホネ子とお別れで終わっても不思議ではなかったですし、 いい意味で裏切られました。ハッピーエンド後のタイトル画面が眩しい……。 といってバッドエンドも決して単なるゲームーオーバー的なものではなく、 それぞれ印象深いものでした。 バッドエンド確定の中、幼少時代の思い出がスチルとともに流れるという、 この手の演出に弱いんです。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をありがとうございました! -
【謎解きx脱出!】ありすえすけーぷもちろん、通常モードでプレイ。 ありすちゃんはなかなか容姿とギャップのあるキャラをしていて、 色んな意味でプレイヤーを楽しませてくれます。 謎解きの難易度は程よく、解き方のルールのようなものにさえ気付ければ、 少なくとも終盤まではそれほど苦労しないと思います。 ただし時間制限もあって初見では結構シビアなので、緊張感がありました。 最初に書いた通りありすちゃんの台詞がいちいち楽しいので、 じっくり総当たりして読んでいこうとするとマズイことになります。 本作は同作者による「ありすシリーズ」の三作品目にあたりますので、 ありすちゃんのキャラクターが気に入ったら前作、前々作もいかかでしょうか。 私は一作目は過去にプレイ済みだったのですが、 本作のプレイに先立って二作品目もプレイさせて頂きました。 それぞれ独立しているのでいきなり本作をプレイしても問題ありませんが、 思い入れがより強まることは請け合いです。 @ネタバレ開始 途中までの謎解きはすんなり解けた方だと思うのですが、 ラストで見事に沼ってCエンドもといシーエンドを連発してしまいました。 視野が狭くてカードの色の方にばかり目が行き、 メモにまで戻ってみるという発想にたどり着くまで何周したことか。 やっとの思いでクリアを迎えた時、 あのSEとともに表示される一枚絵がいい顔過ぎて笑ってしまいました。 @ネタバレ終了 とにかく楽しい作品でした! 進捗公開されているありすシリーズの新作も、 その他の完全新作もお待ちしています! -
夏色のコントラスト【リメイク版】優しいけれど優しいだけでなく、でもやっぱり優しくて前向きになる作品です。 実写を加工した背景もノスタルジックなこの作品にはよくハマっていて、 アニメ風の立ち絵イラストとの組み合わせが絶妙なコントラスを生み出していました。 演出の強化と加筆でオリジナル版の雰囲気はそのまま、新しい作品になっています。 やや露骨だった伏線がよりさり気なくなっていたりと、細部にも手が加わっていました。 オリジナル版はプレイ済みという方も、改めてプレイしてみてはいかがでしょうか。 @ネタバレ開始 佐倉さんの告白シーンでは、広瀬君と気持ちがシンクロしました。 繰り返される含みから広瀬君の鬱屈を佐倉さん達が一方的に癒してくれる話だろうかと、 そう思い込んでいた頭を真横からぶっ叩かれたような衝撃を受けました。 読み返してみると伏線らしきものもちゃんとあって、この構成の妙は本当に見事です。 その一つは伏線かつ健児の小3らしからぬ気遣いも実は表現していたという……。 そしてそこからの二人の打ち明け話と抒情的な語らいが素晴らしく、美しい。 慰め合いや傷の舐め合いで終わらない、前向きな寄り添い合いという姿が……。 創作者としての感想ですが、私自身が書きたい物として目指す関係性の理想形でした。 しかし健児のMVPっぷりが途轍もなくて。将来、一体どんな男に成長するのか。 @ネタバレ終了 本当にいい作品をありがとうございました! -
お姉ちゃんの定理数学というより数学者、もっといえば『数学者という概念』を題材とした作品と言えるかもしれません。 実在の人物、実際の数学知識が頻出するので、知っている方はそれだけでおっとなる場面が多々あること請け合いです。 しかしこれだけ専門的な要素を散りばめながら、決して独りよがりなものになっていない絶妙なバランス感覚が素晴らしい! 純粋にキャラもの、ストーリーものとしても非常に完成度が高く、終始楽しく読めるものに仕上がっていました。 特にヒロインであるお姉さんはトリッキーな性格ながら理不尽系ではなく筋が通っていて、それでいてキャラが立っている魅力的な人物でした。 また作者さんは普段は小説を書かれているということもあってか、文章もかなり書き慣れているように感じました。 難しい内容の説明も比喩を乱用せずとも分かり易く、かつ小気味よいリズムで書かれているので読むのが苦になりません。 @ネタバレ開始 αルート、選択肢以降の展開ですが―― 特殊な才能だけでは高みにいけないと、研鑽と積み重ねを重んじるところ。 ただの美人なお姉さん目当てだと思っていた友人が実は数学に造詣が深く、 姉のことも数学面で慕っていたことが明らかになり、しかもめちゃくちゃいい奴だったことが分かる場面。 一度は諦めの気持ちを持った主人公が再燃するシークエンスで締めくくられるラスト。 どれもとても好きな展開で、しかも見せ方が非常に巧みで気持ちが一気に盛り上がりました。 『先天的な才能がすべてに勝るわけではない』 『失った時間は取り戻せないが、今この時点からの再起は目指せる』 『いきなりのハッピーエンドには向かわないが、希望を感じさせるラスト』 個人的にも大好きな要素がつまりにつまっていました。 @ネタバレ終了 本当にいい作品をありがとうございました! -
一心同体プレイさせて頂きました。全ルート、全エンド拝見出来たと思います。 イラストはもちろん、背景の加工やBGMのチョイスも不穏な雰囲気によく合っていて没入感がありました。 @ネタバレ開始 明らかにぶっちぎって奪っている腕を手記では「貰った」と表現している辺りに、石野の狂気(狂愛?)を感じますね……。 そしてEND4ラストの一枚絵からタイトル画面へと戻る演出がいい。 ストーリーの結末としてはEND2もこれはこれで、という後味があって甲乙つけ難いところです。 @ネタバレ終了 掌編ながらキャラクターが立っていて、独特の雰囲気もあり、とても印象に残る作品でした。面白い作品をありがとうございました!
