いねむりスフィンクス/マーブル・フェアリーのレビューコレクション
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夏色のコントラスト【リメイク版】優しいけれど優しいだけでなく、でもやっぱり優しくて前向きになる作品です。 実写を加工した背景もノスタルジックなこの作品にはよくハマっていて、 アニメ風の立ち絵イラストとの組み合わせが絶妙なコントラスを生み出していました。 演出の強化と加筆でオリジナル版の雰囲気はそのまま、新しい作品になっています。 やや露骨だった伏線がよりさり気なくなっていたりと、細部にも手が加わっていました。 オリジナル版はプレイ済みという方も、改めてプレイしてみてはいかがでしょうか。 @ネタバレ開始 佐倉さんの告白シーンでは、広瀬君と気持ちがシンクロしました。 繰り返される含みから広瀬君の鬱屈を佐倉さん達が一方的に癒してくれる話だろうかと、 そう思い込んでいた頭を真横からぶっ叩かれたような衝撃を受けました。 読み返してみると伏線らしきものもちゃんとあって、この構成の妙は本当に見事です。 その一つは伏線かつ健児の小3らしからぬ気遣いも実は表現していたという……。 そしてそこからの二人の打ち明け話と抒情的な語らいが素晴らしく、美しい。 慰め合いや傷の舐め合いで終わらない、前向きな寄り添い合いという姿が……。 創作者としての感想ですが、私自身が書きたい物として目指す関係性の理想形でした。 しかし健児のMVPっぷりが途轍もなくて。将来、一体どんな男に成長するのか。 @ネタバレ終了 本当にいい作品をありがとうございました!
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お姉ちゃんの定理数学というより数学者、もっといえば『数学者という概念』を題材とした作品と言えるかもしれません。 実在の人物、実際の数学知識が頻出するので、知っている方はそれだけでおっとなる場面が多々あること請け合いです。 しかしこれだけ専門的な要素を散りばめながら、決して独りよがりなものになっていない絶妙なバランス感覚が素晴らしい! 純粋にキャラもの、ストーリーものとしても非常に完成度が高く、終始楽しく読めるものに仕上がっていました。 特にヒロインであるお姉さんはトリッキーな性格ながら理不尽系ではなく筋が通っていて、それでいてキャラが立っている魅力的な人物でした。 また作者さんは普段は小説を書かれているということもあってか、文章もかなり書き慣れているように感じました。 難しい内容の説明も比喩を乱用せずとも分かり易く、かつ小気味よいリズムで書かれているので読むのが苦になりません。 @ネタバレ開始 αルート、選択肢以降の展開ですが―― 特殊な才能だけでは高みにいけないと、研鑽と積み重ねを重んじるところ。 ただの美人なお姉さん目当てだと思っていた友人が実は数学に造詣が深く、 姉のことも数学面で慕っていたことが明らかになり、しかもめちゃくちゃいい奴だったことが分かる場面。 一度は諦めの気持ちを持った主人公が再燃するシークエンスで締めくくられるラスト。 どれもとても好きな展開で、しかも見せ方が非常に巧みで気持ちが一気に盛り上がりました。 『先天的な才能がすべてに勝るわけではない』 『失った時間は取り戻せないが、今この時点からの再起は目指せる』 『いきなりのハッピーエンドには向かわないが、希望を感じさせるラスト』 個人的にも大好きな要素がつまりにつまっていました。 @ネタバレ終了 本当にいい作品をありがとうございました!
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一心同体プレイさせて頂きました。全ルート、全エンド拝見出来たと思います。 イラストはもちろん、背景の加工やBGMのチョイスも不穏な雰囲気によく合っていて没入感がありました。 @ネタバレ開始 明らかにぶっちぎって奪っている腕を手記では「貰った」と表現している辺りに、石野の狂気(狂愛?)を感じますね……。 そしてEND4ラストの一枚絵からタイトル画面へと戻る演出がいい。 ストーリーの結末としてはEND2もこれはこれで、という後味があって甲乙つけ難いところです。 @ネタバレ終了 掌編ながらキャラクターが立っていて、独特の雰囲気もあり、とても印象に残る作品でした。面白い作品をありがとうございました!
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よくある日常掌編ですが分岐場面が多いので、シナリオ量以上に遊び応えがありました。 ストーリー分岐には関わらないけど、演出や伏線として機能している選択肢もあるなど、短いながら凝った作りになっています。 初見で理解するには複雑な設定もいくつか登場しますが、その分、これらも考察要素として機能しているのではないでしょうか。 @ネタバレ開始 全6エンドとも拝見しましたが、一番好みだったのは<True END~『キミ』の選択~>です。 僕自身はハッピーエンド好きですが、誤魔化しや偽りのハッピーエンドよりは……という考え方なので。 序盤で鞄の中にあったバレンタインプレゼントの伏線回収も効いていましたね。 @ネタバレ終了 ところでタイトル画面で「つづきから」を選んでも初めからゲームが開始されるのですが、こちらは意図的な演出or仕様でしょうか? 単純なミスかもしれないので、気付いたのにスルーするのもどうかと思い、一応こちらで報告致します。
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僕らのノベルゲーム創作をする人間なら共感出来る解像度の高い描写が数多い作品ですが、純粋に十代の青春物としても非常に面白く感情を揺さぶられる物語です。 実はかなり前からちびちびと進めていたのですが、中盤のとある展開からは止まらず一気に読み進めてしまいました。 @ネタバレ開始 一つの問題が解決したかと思った途端にあの展開は胃が……。 何度も修復するチャンスはあったはずなのにどんどん泥沼にはまっていき、いよいよ最悪の事態を招いてしまった時の新平には……本当に何をやってるんだよという気持ちにさえなりました。しかしかなりの割合で自業自得とはいえ、ますます追い詰められていく新平はやはり見ていて辛いものがありましたね。 だからこそあの決意をしたシーンでは胸が熱くなりました。よくやった鬼瓦(登場時はなんだこの生意気野郎とか思っていてスマンかった)。 全てが元通りになるわけではない、けれど限りなく前向きな着地点も自分好みですごく良かったです。まさしく卒業という感じで、後腐れなく晴れやかに読み終えることが出来ました。 @ネタバレ終了 本当に良い作品をありがとうございました。
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白雪舞う夏の日々兄妹ものですが、恋愛要素のない日常系作品。 コミカルなシーンはパロディやネットスラングが中心で少々人を選びますが、高校生と中学生の兄妹と考えるとむしろ“らしさ”が増していて、微笑ましかったです。 選択肢が結構多いのですが、妹のキャラクターが立っていて面白いので、反応を見たくてついついすべて試したくなりますね。 それだけに、個人的にはもっと冒険した悪ふざけ選択肢も欲しかったところですが……作品の空気や主人公の性格的にそれはあまり合わない気もしますので、悩ましい。 エピローグの締め方が良いので、これからプレイされる方や途中の方には、ぜひ最後まで読んで欲しい作品です。