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冬瓜のレビューコレクション

  • こころのしおり
    こころのしおり
    10分ほどの短い物語20本からなる短編集です。登場人物の年齢も様々で多様なテーマを含みますが、恋愛ものが多めの印象です。地の文が多めの落ち着いた文体で表記は縦書き。カジュアルなゲームよりは小説っぽいスタイルでゆっくりと物語を楽しめるでしょう。 統一されたテーマがある短編集ではありませんが作者の色というのは出るもので、私は本作を読んで、現実的に考えうる最も綺麗な展開を追求されているように感じました。突飛な展開や真新しい設定に頼らずとも、丁寧な描写と温かいキャラクターでストーリーを進めていく手腕に優れていて、安心して楽しめる作品です。 作内には悪意を持った人物や都合の悪い運命はほぼ現れず、そこにあるのは人情味あふれるキャラクターと信じれば報われる世界。物語の中だからこそこういった純朴さを味わいたいじゃないですか。 私の好きだったエピソードとして、1話「マジカルハート」と15話「神が降りた手」を挙げておきましょう。少女漫画も顔負けの甘酸っぱい青春。こんな1枚上手の先輩も大好きです。 そして恋が実る話だけでも面白くありません。男同士の友情や熱血部活ストーリーを交え、少し苦い思い出を描いた話も良し。 「ショート・ショート・ショート100」の時より尺のある分の重みがしっかりと私の胸に届きました。 また、これらの作品に作者さんの趣味や経験が強く反映されていると見えるのも特徴的だと思います。こうした楽しみ方が可能なのも、フリーゲームの良さの1つでしょう。 それぞれの短編は独立して読めますが、一部話が繋がっているものがあるので順番に読むことをお勧めします。19話までを読み終われば、表題作である最終話「こころのしおり」が解放されます。栞は通常本に挟んで使うものですが、心に挟んだ栞とはどんなものでしょうか。ここに辿り着いたあなたならきっと、本作の音楽に隠された仕掛けにも気付くでしょう。そしてこの世界を前向きに進んでいくエネルギーをもらえるはずです。

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  • クレーマー家業も楽じゃない!
    クレーマー家業も楽じゃない!
    これは…トンデモ設定ラブコメの時代が来るかも知れません。賑やかなタイトル画面にワクワクしながらプレイを始めると、「どういうこと?」「そんなわけある?」「かわいい!」「キュン♥」と怒涛のような感情が押し寄せてくるすごい作品でした。 主人公の九条ユウトは代々クレーマーの家系。一人前のクレーマーとなるための修行が課されてさあ大変! …この時点で一風変わった作品と分かりますが、その後もどんどん私の予想を上回ってきます。2店舗を除いて全てのお店で出禁の九条一家、吹き寄せるドリアンの嵐(物理)、突然のクイズタイムに笑っていたのもつかの間。いつの間にかべこ狂いで超絶プラス思考のヒロインと、ツンの方向を間違えちゃったツンデレヒロインに私の心は奪われてしまいました。どっちも可愛いですが、私の好みはツキのほうでした。あのアクロバティック過ぎる愛情表現に、おかしいだろ!と笑いながらもユウトの懐の広さによって微笑ましいエンディングへと着地。クレーマーは嫌なヤツという常識を完全に打ち砕き、2人の今後を全力応援したくなりました。 エンディングまで5分程度の短い作品ではありますが、エンディングムービーが大変凝っているのも好印象。それぞれのルートでエピローグも付き至れり尽くせりといったところ。多様なおまけもあるので短編ながらたっぷりと楽しめる作品です。 私はドリアン食べたことないのですが、ちょっと試してみたくなりました。

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  • 泣き虫扁桃体のあやし方
    泣き虫扁桃体のあやし方
    脳内の部位を擬人化したタイトル通りの内容で、萌えゲー風の展開でありながら学びにもなる作品でした。 私は脳科学や神経心理学と言われる分野に興味があって、一般書を何冊か読んでいたので扁桃体や海馬の基本的なはたらきについては知っているつもりでした。記憶を司っている海馬と、主に恐怖の感情に反応する扁桃体、そして高次脳機能の司令塔である前頭前野。擬人化されたキャッチーな彼らが実際に脳内ではたらいている様子を見ると、個々の知識がストーリーとして連帯してスムーズに理解が進みました。知識の解説のみに留まらず、ゲームとして楽しめる調整が効いています。 実用的な知識に踏み込んでいるのも本作の特長と言っていいでしょう。泣き虫扁桃体が暴走してしまったとき脳内で何が起こっているのか。意識的にできる対処はあるのか。実際に使う場面があるかは人によると思いますが、知識として持っておくと心強さが違うと思います。 ちなみに私は初見で扁桃体ちゃんは僕っ子なんだな~と思ったのですが男の娘でした。どっちでも可愛いから良し。前頭前野や海馬もきれいなのと、強いデフォルメの人間(宿主)も自然に受け入れられる軽い語り口も好調です。ちょっと変わった作品として気軽におすすめできると思います。ぜひプレイしてみてください。 @ネタバレ開始 海馬の管理するデータ内に「Hなやつ」フォルダがあるのを見逃しませんでしたよ! 基本的には真面目なお話の中でここだけ笑ってしまいました。 @ネタバレ終了

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  • 探偵助手ガリウムのろじうら探検記
    探偵助手ガリウムのろじうら探検記
    紹介文の初っ端にある「元素擬人化ゲームです!」の文。これだけでなかなか個性的なゲームなのだなと感じられます。 さて一体どんな作品なのだろうとプレイしてみたところ、予想を大きく上回る気合の入った作品でした。 こうした珍しい擬人化を謳った作品は往々にして出落ち、一発ネタとしてそのインパクトを消費しがちですが、本作は元素で物語を書いてやるんだ、化学のネタで面白い作品を作るんだという気概とそれに見合ったクオリティーを感じられました。まず本作に多数登場する元素のキャラクターがみな可愛らしいですね。背景もきれいで立ち絵にマッチし、私を元素ファンタジーの世界へと一瞬で導いてくれました。 その可愛らしいイラストの中にはそれぞれの元素の色などを反映するなどしっかり化学要素が組み込まれています。キャラクターデザインだけでなく、性格やエピソードでも元素の性質が表れており勉強になります。私は理系のくせにほとんど化学を勉強しなかったので、主人公のガリウムは名前しか知らないような元素だったのですが、読み進めていくうちにちょっとした知識が入ってきて、ガリウムちゃんの金属としての性質ゆえの悲しい過去とそれを乗り越えるアルミ先生との絆に肩入れすることができるようになりました。 これだけで終わってしまうと物語というよりは元素擬人化設定資料集といった感じになってしまうと思うのですが、本作ではここにしっかり密度のあるシナリオが組み合わさることで、化学の知識が無くても楽しいノベルゲームとして完成されているように感じます。前半では主人公のガリウムちゃんとアルミニウムの関係性や、舞台となるアスティオン大陸の穏やかで化学ネタに溢れる世界観の紹介。そして中盤以降ではタイトルにあるように事件解決に向けた調査・推理パートが始まります。化学ファンタジーの世界観を活かした事件の原因には流石と感心し、ガリウムとアルミの進展には心温まるような素敵な作品でした。 化学の知識がある方が色々な小ネタを拾えるとは思いますが、読み込み中のカットイン解説なども豊富で推理に知識は不要な設計なので、まずは可愛いキャラを眺めるつもりで気軽にプレイしてみてください。

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  • カップの底に沈むもの
    カップの底に沈むもの
    本作の主人公である陽翔は無気力な男です。父親の遺した喫茶店を手伝ってはいるもののどこか覇気が感じられず、学校にも長い間行っていません。 そんな陽翔がなんとか絶望せずに生きているのは、タイトル画面で美しく水に浮く献身的な小夜子さんの存在が大きいようです。同じ喫茶店で働く先輩の彼女はいわゆる"できる人"。仕事はてきぱきと進め、接客に慣れない陽翔へもできそうな作業を的確に指示。事情を抱えた陽翔のメンタルケアも完璧です。ギャルゲーヒロインらしく陽翔への愛情に満ちた小夜子。しかしここまで来るともはや違和感として読者の前に君臨します。この違和感がどういう形で解消へと向かうのか、それが本作一番の見どころと言っていいでしょう。 開店前に苦いものの苦手な陽翔でも飲めるコーヒーを用意してくれた小夜子。たまたま先生が来店して動揺する陽翔を匿ってくれた小夜子。陽翔の細かな体調の変化にいち早く気付いて声を掛けてくれた小夜子。とにかく優しく美しく描かれる彼女がここまで陽翔に愛を注げる理由は何なのでしょうか。その秘密は、エンディングを全て回収すると明らかになります。逆に言うと、End3を見るまでは本作の真の魅力にたどり着いていないので、ぜひコンプまでプレイしてみてください。隠された仕掛けが明らかになったとき、違和感と真実がぴったり符合する快感を味わうことが出来るでしょう。その後またはじめから読んでみるのもまた一興です。

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  • 初恋VS
    初恋VS
    歳の差幼馴染恋愛もので、ここまでしっかり歳の差だからこその要素を描いた作品って、なかなか無いんじゃないでしょうか。 主人公のアキラは大学2年生。初恋相手で交際中のシオリはアキラの通う大学の図書館司書で6歳年上。小学校すら被らないというのは成人したての彼にとっては大きな差です。今でもシオリに子供と思われているのではないか、ちょっとしたコンプレックスのもとなのでした。 しかしそれはシオリにとっても同じことでした。ちゃんと今のアキラが好きなのにうまく伝わらない。アキラが子供の頃の感情を引きずっているだけなら身を引こう、なんていうネガティブな考えも出てきます。こんなすれ違いを双方の視点から知ることができる構成が良いですね。 はたから見ればラブラブな2人でも、その間には葛藤あり。彼らの溝が埋まるその瞬間をぜひ見届けてあげてください。2人がいい子過ぎて素直に応援したくなる、とっても心温まる物語です。 ちなみに本作は作者さんの過去作と世界観が繋がっています。私はそうと知らずに読み始めたので、気付いたときには変な声が出そうになりました。だってブログに記事を書くほど好きな作品だったんですもの。と言うわけで「モカブレンドをブラックで。」もプレイしているとサブのキャラクターのエピソードが補完されて、アキラの後悔やシオリの初恋を深く理解できるのでおすすめですよ。

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  • Lived happily, ever after
    Lived happily, ever after
    童話風の世界観と、どんな逆境にあろうとも決して優しい心を忘れない2人が魅力的なファンタジー乙女ゲームです。 童話の世界において、理不尽に虐げられていた主人公の少女がその美貌や内面の美しさから立場ある人物に見初められ、幸せに暮らすというストーリーは良く見られる王道のものです。本作においてもそのエッセンスは引き継がれたままに、立ちはだかる困難を協力して乗り越える、単なる自己犠牲や容姿に頼っていては分かり合えない、といった要素がプラスされ、大人が読んでもしっかり楽しい素敵な作品になっていると言えるでしょう。 主人公のメーベルは"黒髪"の少女。魔王を連想させるその髪色ゆえに町では彼女は"呪いの子"扱い。ついには仕事もクビとなり、町外れの"吸血鬼の屋敷"の給仕へと半強制的に遣わされます。 そこで出会う屋敷の主人が"吸血鬼"シオンです。世間には悪者扱いされながらも、吸血鬼の恐ろしいイメージを微塵も感じさせない親切で正義感に溢れた彼は大変魅力的で、メーベルが恋心を抱くのも頷けます。もちろん本作のハッピーエンドは彼らが永遠の幸せを手に入れることですが、物語にはそれを妨げる障害が欠かせません。 とはいえ本作には意地悪で冷酷な継母も、嫉妬に狂った魔女も登場しません。2人の前に立ちはだかるのは、差別と言う名の無名の世間による悪意や断絶、魔王と勇者の決闘から生じた呪いなど、運命のいたずらとも言えるような皮肉的で致命的な問題たちです。ただの悪役キャラに頼らないこの練られた設定たちがひたすらにメーベルとシオンに試練を与え、そして2人の愛を強調するのです。 また、本作は音楽も良いです。オリジナルのエンディングテーマである「誓いをとわに」はなんとJOYSOUNDで配信されているため、私もカラオケで歌ってきました。 この曲の歌詞やメロディがある程度頭に入った状態でプレイすると、アレンジが巧妙にBGMに使われていることに気付いて泣けるんですよね。 そんなわけで、YouTubeに上がっている本作のテーマ曲からでも、ゲーム本編からでも良いのでぜひ触れていただきたい作品です。この物語を見届けたあなたはきっと、愛の可能性を信じてどこまでも前向きに進んで行けるでしょう。

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  • きみはよばんめ
    きみはよばんめ
    不思議なタイトルと淡めの色使いのイラストが気になってプレイしました。 本作の主人公である少年シイは、ある女性が心的外傷を負って生まれた多重人格の1つ、4番目の人格です。多数の人格を抱えて身体的にも負荷が重く、早急に本来の人格のみの状態に戻さなければ肉体が耐えられないという事実に直面します。こうしてシイは他の人格と対話を行い、仮初の人格を殺すという決断を迫られるのです。 彼が出会うミズキ、ニレ、イチイの3人は性格も趣味嗜好も異なる別人。同一の肉体に宿るとは思えない魂たちです。しかも突然生まれた人格たちのため、記憶だったり自他の境界だったりが曖昧なところも。それでも対話を重ねるごとに彼女らのキャラクターが見えてくる、そんなシナリオのバランス力が本作の魅力を高める要因の1つではないかと思っています。 そしてシイは大変頭が良い。3人との対話を通じて共通要素を導き出し、真実への手掛かりを手に入れるのです。 こうして真実と本来の人格が明らかになってみると、その他の人格たちが心の内で彼女を応援していたんだと合点がいき、心温まる読後感を生んでいます。もちろん心的外傷の原因となった出来事は軽いものではありません。それでも何とか4人の人格が協力して生き延びようとしていたんだ。生命のしぶとさに勇気付けられるような思いです。 主人公が4番目の人格ならば、本来の人格は誰なのか。選択肢は2か所。真実にたどり着くのは簡単でしょう。エンディングタイトルもヒントになります。 ぜひ真相を見届けてあげてから、ラストのスチルをご覧ください。

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  • アイドルと〇〇しちゃダメですか?
    アイドルと〇〇しちゃダメですか?
    スタイリッシュなタイトルロゴとサムネイルが目を引く作品です。 私は最初、仕事のある大人の恋愛だけどちょっぴりテンション高め、というような内容を想像していました。その期待はいい方向に裏切られ、エンディングまでの間に何度も吹き出してしまいました。 まず初っ端の、遅刻遅刻〜からの「ふっ、面白ぇ女」がベタながら私のテンションを高めてくれます。いや、後で分かるけど一颯くん、君の方がよっぽどおもしれーからな! そして畳み掛けるように現れるバグった好感度表示。メタな演出も笑いの圧でプレイヤーに飲み込ませる、そんな実力が本作には秘められています。同時にこれは私の好きなコメディ全開の作品だとこの辺りで気付かされるのです。 新人アイドルグループのマネージャーを務めるに当たって担当アイドルとの恋愛は当然ご法度。そんな事は分かっているのに彼らに近付きたい、ちょっといたずらなんかもしたくなっちゃう。こうした葛藤がコメディとしてうまく昇華され、どっちに転んでも美味しくいただけます。 週刊誌にスクープされて活動不能になろうとも、決してバッドエンドとは呼ばない懐の広さはコメディ作品の特権でしょう。あまりに一瞬でスクープされてしまうので、バッドエンドというよりはギャグっぽい風味なんですよね。 あとエンディングタイトルのセンスが良いです。 そんな味付けの本作ですが、現役アイドルのイケメンたちにフルボイスで告白されちゃったりするとドキドキするものです。タイプの違う3人からシチュエーションの違う告白シーンがあるのできっとあなたの好みもあるはず。私が好きなのは⋯⋯ @ネタバレ開始 あえての零司さんで! あなたも好感度バグってたのね! イケボで決めゼリフ言ってくれるの大変良きです。ファンサ◎ 数多のフリーゲームを通して変態好きに教育されてしまったかと思っていたのですが、アイドルは正統派が好みなのかもしれません。 @ネタバレ終了 キャストトークなどおまけも充実、操作性も良く選択肢の正解/不正解はすぐに分かる親切設計。ぜひコンプリートまで余すところなく堪能していただきたい作品です。

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  • 根古田家騒動記 CAT&BLOW
    根古田家騒動記 CAT&BLOW
    ノベコレのパズルゲームをハントしようと目論む者です。パズル好きから見た本作の魅力について書きたいと思います。 元ネタであるHit & Blowは非常に有名なパズルで様々なゲームで見かけますが、本作はそれらの中でかなり初心者に優しい親切仕様と言えるでしょう。ほぼルールの確認程度のレベル1〜2で始まり、対象のカードや選択肢が徐々に増えてレベル4(これが一般的にHit & Blowとして知られるルールだと思います)でストーリーが完結するというシステムのため、私のようによくパズルに親しんだ方でなくともゲーム内でルールや考え方を学び、エンディングまで行くことが出来るでしょう。ヒント機能も搭載されているため、この手の論理パズルが苦手な方でもクリアできると思います。同種のゲームで導入がここまで丁寧なのは見たことがありません。 上級者向けにはゲームのみモードやハイスコア機能が実装されており、高得点を目指したやりこみも可能です。当然ヒントを使うとスコアは下がるので、ノーヒントかつ短手数で正解するのがハイスコアへの道です。私のハイスコアは7392点(レベル4)です。これは結構運が良かった方だと思っているので、この記録を超えるにはまあまあリセマラする必要があると思います。達成された方はぜひ教えてください。 また本作にはちゃんとしたストーリーが存在しています。保護猫を迎え入れようという心温まる家族会議に始まり、譲渡の条件をクリアするというパズル要素がしっかり話の筋に馴染んでおり、短編ノベルゲームとしても自然に楽しめると思います。Hit & Blowで提示する選択肢に意味がある作品も私は初めて見たと思います。 ゲームの進行に応じて家族団欒に猫が加わっていく様子も微笑ましいですので、ぜひプレイしてみてください。

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