冬瓜のレビューコレクション
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カップの底に沈むもの本作の主人公である陽翔は無気力な男です。父親の遺した喫茶店を手伝ってはいるもののどこか覇気が感じられず、学校にも長い間行っていません。 そんな陽翔がなんとか絶望せずに生きているのは、タイトル画面で美しく水に浮く献身的な小夜子さんの存在が大きいようです。同じ喫茶店で働く先輩の彼女はいわゆる"できる人"。仕事はてきぱきと進め、接客に慣れない陽翔へもできそうな作業を的確に指示。事情を抱えた陽翔のメンタルケアも完璧です。ギャルゲーヒロインらしく陽翔への愛情に満ちた小夜子。しかしここまで来るともはや違和感として読者の前に君臨します。この違和感がどういう形で解消へと向かうのか、それが本作一番の見どころと言っていいでしょう。 開店前に苦いものの苦手な陽翔でも飲めるコーヒーを用意してくれた小夜子。たまたま先生が来店して動揺する陽翔を匿ってくれた小夜子。陽翔の細かな体調の変化にいち早く気付いて声を掛けてくれた小夜子。とにかく優しく美しく描かれる彼女がここまで陽翔に愛を注げる理由は何なのでしょうか。その秘密は、エンディングを全て回収すると明らかになります。逆に言うと、End3を見るまでは本作の真の魅力にたどり着いていないので、ぜひコンプまでプレイしてみてください。隠された仕掛けが明らかになったとき、違和感と真実がぴったり符合する快感を味わうことが出来るでしょう。その後またはじめから読んでみるのもまた一興です。 -
初恋VS歳の差幼馴染恋愛もので、ここまでしっかり歳の差だからこその要素を描いた作品って、なかなか無いんじゃないでしょうか。 主人公のアキラは大学2年生。初恋相手で交際中のシオリはアキラの通う大学の図書館司書で6歳年上。小学校すら被らないというのは成人したての彼にとっては大きな差です。今でもシオリに子供と思われているのではないか、ちょっとしたコンプレックスのもとなのでした。 しかしそれはシオリにとっても同じことでした。ちゃんと今のアキラが好きなのにうまく伝わらない。アキラが子供の頃の感情を引きずっているだけなら身を引こう、なんていうネガティブな考えも出てきます。こんなすれ違いを双方の視点から知ることができる構成が良いですね。 はたから見ればラブラブな2人でも、その間には葛藤あり。彼らの溝が埋まるその瞬間をぜひ見届けてあげてください。2人がいい子過ぎて素直に応援したくなる、とっても心温まる物語です。 ちなみに本作は作者さんの過去作と世界観が繋がっています。私はそうと知らずに読み始めたので、気付いたときには変な声が出そうになりました。だってブログに記事を書くほど好きな作品だったんですもの。と言うわけで「モカブレンドをブラックで。」もプレイしているとサブのキャラクターのエピソードが補完されて、アキラの後悔やシオリの初恋を深く理解できるのでおすすめですよ。 -
Lived happily, ever after童話風の世界観と、どんな逆境にあろうとも決して優しい心を忘れない2人が魅力的なファンタジー乙女ゲームです。 童話の世界において、理不尽に虐げられていた主人公の少女がその美貌や内面の美しさから立場ある人物に見初められ、幸せに暮らすというストーリーは良く見られる王道のものです。本作においてもそのエッセンスは引き継がれたままに、立ちはだかる困難を協力して乗り越える、単なる自己犠牲や容姿に頼っていては分かり合えない、といった要素がプラスされ、大人が読んでもしっかり楽しい素敵な作品になっていると言えるでしょう。 主人公のメーベルは"黒髪"の少女。魔王を連想させるその髪色ゆえに町では彼女は"呪いの子"扱い。ついには仕事もクビとなり、町外れの"吸血鬼の屋敷"の給仕へと半強制的に遣わされます。 そこで出会う屋敷の主人が"吸血鬼"シオンです。世間には悪者扱いされながらも、吸血鬼の恐ろしいイメージを微塵も感じさせない親切で正義感に溢れた彼は大変魅力的で、メーベルが恋心を抱くのも頷けます。もちろん本作のハッピーエンドは彼らが永遠の幸せを手に入れることですが、物語にはそれを妨げる障害が欠かせません。 とはいえ本作には意地悪で冷酷な継母も、嫉妬に狂った魔女も登場しません。2人の前に立ちはだかるのは、差別と言う名の無名の世間による悪意や断絶、魔王と勇者の決闘から生じた呪いなど、運命のいたずらとも言えるような皮肉的で致命的な問題たちです。ただの悪役キャラに頼らないこの練られた設定たちがひたすらにメーベルとシオンに試練を与え、そして2人の愛を強調するのです。 また、本作は音楽も良いです。オリジナルのエンディングテーマである「誓いをとわに」はなんとJOYSOUNDで配信されているため、私もカラオケで歌ってきました。 この曲の歌詞やメロディがある程度頭に入った状態でプレイすると、アレンジが巧妙にBGMに使われていることに気付いて泣けるんですよね。 そんなわけで、YouTubeに上がっている本作のテーマ曲からでも、ゲーム本編からでも良いのでぜひ触れていただきたい作品です。この物語を見届けたあなたはきっと、愛の可能性を信じてどこまでも前向きに進んで行けるでしょう。 -
きみはよばんめ不思議なタイトルと淡めの色使いのイラストが気になってプレイしました。 本作の主人公である少年シイは、ある女性が心的外傷を負って生まれた多重人格の1つ、4番目の人格です。多数の人格を抱えて身体的にも負荷が重く、早急に本来の人格のみの状態に戻さなければ肉体が耐えられないという事実に直面します。こうしてシイは他の人格と対話を行い、仮初の人格を殺すという決断を迫られるのです。 彼が出会うミズキ、ニレ、イチイの3人は性格も趣味嗜好も異なる別人。同一の肉体に宿るとは思えない魂たちです。しかも突然生まれた人格たちのため、記憶だったり自他の境界だったりが曖昧なところも。それでも対話を重ねるごとに彼女らのキャラクターが見えてくる、そんなシナリオのバランス力が本作の魅力を高める要因の1つではないかと思っています。 そしてシイは大変頭が良い。3人との対話を通じて共通要素を導き出し、真実への手掛かりを手に入れるのです。 こうして真実と本来の人格が明らかになってみると、その他の人格たちが心の内で彼女を応援していたんだと合点がいき、心温まる読後感を生んでいます。もちろん心的外傷の原因となった出来事は軽いものではありません。それでも何とか4人の人格が協力して生き延びようとしていたんだ。生命のしぶとさに勇気付けられるような思いです。 主人公が4番目の人格ならば、本来の人格は誰なのか。選択肢は2か所。真実にたどり着くのは簡単でしょう。エンディングタイトルもヒントになります。 ぜひ真相を見届けてあげてから、ラストのスチルをご覧ください。 -
アイドルと〇〇しちゃダメですか?スタイリッシュなタイトルロゴとサムネイルが目を引く作品です。 私は最初、仕事のある大人の恋愛だけどちょっぴりテンション高め、というような内容を想像していました。その期待はいい方向に裏切られ、エンディングまでの間に何度も吹き出してしまいました。 まず初っ端の、遅刻遅刻〜からの「ふっ、面白ぇ女」がベタながら私のテンションを高めてくれます。いや、後で分かるけど一颯くん、君の方がよっぽどおもしれーからな! そして畳み掛けるように現れるバグった好感度表示。メタな演出も笑いの圧でプレイヤーに飲み込ませる、そんな実力が本作には秘められています。同時にこれは私の好きなコメディ全開の作品だとこの辺りで気付かされるのです。 新人アイドルグループのマネージャーを務めるに当たって担当アイドルとの恋愛は当然ご法度。そんな事は分かっているのに彼らに近付きたい、ちょっといたずらなんかもしたくなっちゃう。こうした葛藤がコメディとしてうまく昇華され、どっちに転んでも美味しくいただけます。 週刊誌にスクープされて活動不能になろうとも、決してバッドエンドとは呼ばない懐の広さはコメディ作品の特権でしょう。あまりに一瞬でスクープされてしまうので、バッドエンドというよりはギャグっぽい風味なんですよね。 あとエンディングタイトルのセンスが良いです。 そんな味付けの本作ですが、現役アイドルのイケメンたちにフルボイスで告白されちゃったりするとドキドキするものです。タイプの違う3人からシチュエーションの違う告白シーンがあるのできっとあなたの好みもあるはず。私が好きなのは⋯⋯ @ネタバレ開始 あえての零司さんで! あなたも好感度バグってたのね! イケボで決めゼリフ言ってくれるの大変良きです。ファンサ◎ 数多のフリーゲームを通して変態好きに教育されてしまったかと思っていたのですが、アイドルは正統派が好みなのかもしれません。 @ネタバレ終了 キャストトークなどおまけも充実、操作性も良く選択肢の正解/不正解はすぐに分かる親切設計。ぜひコンプリートまで余すところなく堪能していただきたい作品です。 -
根古田家騒動記 CAT&BLOWノベコレのパズルゲームをハントしようと目論む者です。パズル好きから見た本作の魅力について書きたいと思います。 元ネタであるHit & Blowは非常に有名なパズルで様々なゲームで見かけますが、本作はそれらの中でかなり初心者に優しい親切仕様と言えるでしょう。ほぼルールの確認程度のレベル1〜2で始まり、対象のカードや選択肢が徐々に増えてレベル4(これが一般的にHit & Blowとして知られるルールだと思います)でストーリーが完結するというシステムのため、私のようによくパズルに親しんだ方でなくともゲーム内でルールや考え方を学び、エンディングまで行くことが出来るでしょう。ヒント機能も搭載されているため、この手の論理パズルが苦手な方でもクリアできると思います。同種のゲームで導入がここまで丁寧なのは見たことがありません。 上級者向けにはゲームのみモードやハイスコア機能が実装されており、高得点を目指したやりこみも可能です。当然ヒントを使うとスコアは下がるので、ノーヒントかつ短手数で正解するのがハイスコアへの道です。私のハイスコアは7392点(レベル4)です。これは結構運が良かった方だと思っているので、この記録を超えるにはまあまあリセマラする必要があると思います。達成された方はぜひ教えてください。 また本作にはちゃんとしたストーリーが存在しています。保護猫を迎え入れようという心温まる家族会議に始まり、譲渡の条件をクリアするというパズル要素がしっかり話の筋に馴染んでおり、短編ノベルゲームとしても自然に楽しめると思います。Hit & Blowで提示する選択肢に意味がある作品も私は初めて見たと思います。 ゲームの進行に応じて家族団欒に猫が加わっていく様子も微笑ましいですので、ぜひプレイしてみてください。 -
おつかいクライシス!~試される記憶と財布~オフラインのイベントで拝見した作品です。 気の毒な主人公のケンタロウは幼馴染のマユリに呼び出され、お使いを命じられます。行く手を阻む障害を乗り越え、正しい商品を買ってくることはできるのか? お手軽お使いシミュレーションゲームです。 依頼者のマユリは気が短いので、ちょっとでも時間を超過すると容赦なくゲームオーバー扱いになってしまいます。私は最初、普通買い物をするなら食べ物は後に回すだろうと思って書店→薬局→スーパー→ケーキ屋の順で巡ったら途中全スルーでも時間切れに。難しいな〜と思っていたのですが、まさかそんな攻略法があるなんて。道中の会話はスキップせずにちゃんと聞いておくものですね。 お使い依頼品は毎回ランダムで品数も一定ではないので、メモなし初見でのハッピーエンドは難しいでしょうか。バックログはちゃんと対策されているので商品は自力で覚えておく必要があり、ちょっとした頭の体操といった雰囲気です。 分岐はお使いの結果で発生しますが、私にはバッドエンドのコンプリートが歯応えがあるように感じました。普通そうはならんだろというところにちゃんとフラグが存在していて、回収した甲斐がありました。 @ネタバレ開始 クリスマスの時期にプレイしておけば良かった〜 @ネタバレ終了 -
One Night Dream...目が覚めたら見慣れない牢屋の中に閉じ込められていた少女が失われた記憶と自由を求めて旅立つ脱出ゲームです。 脱出のためにはいくつかの部屋や場所で順にフラグを立てて移動していき、部屋を抜けるときには必ずクイズや謎解きを成功させる必要があります。作品紹介にもありますがいわゆる謎解きゲームのようなものと少し毛色が違い、やや理屈っぽかったりアカデミア寄りの問題なのが特徴的でしょう。とはいっても同じ部屋をよく探索すればきちんとヒントを出してくれる人がいるのでご安心ください。私はググらずにエンディングまで到達できました。 この難解な雰囲気は謎解き要素だけにとどまらず、本作全体に通底する大きな柱となっています。謎を直接出してくるキャラクター以外にも多数のキャラクターが登場するのですが、彼らは古典文学とか語学、神話、東洋思想などなど幅広い分野に元ネタのある台詞の宝庫です。私はあまり詳しくないのですが、こういった分野に親しんでいる方ならより楽しめると思いますし、謎解きもスムーズに進むでしょう。 1回クリアするとイラストやBGM、台詞の解説などが解禁されるのですが、私はその分量に圧倒されました。クリアには直接かかわらない部分を含め至る所にネタが仕込まれているため、回収難易度も相当です。私はこれの回収だけで4時間ほどを要しました。そのモチベーションを担保してくれる独自のコレクション要素など、UI面でも良くできていると思います。 脱出を目指す少女は一人きりではありません。「君の味方」を自称する怪しい青年と、何を聞いても歯切れの悪い謎の少年が脱出への手ほどきをしてくれます。彼らの言うことを信じるのか、身をゆだねてよいのかは大きな分岐点。ゲームオーバーを除き3つのエンディングへと分岐します。それぞれ異なるエンドロールがありますのでぜひ回収してみてください。自分の意思を固めた少女がどの方向に歩みだすのかに注目です。 -
豆カスちゃん -豆知識とカスみたいな嘘をランダムに語る少女-バスの待ち時間の間、かわいい豆カスちゃんから真偽不明の豆知識を聞かされるという独特の作品です。会話の流れからシームレスに出題モードに移行し、特に「真偽を見破れ!」のような指示はなくとも何をしたらいいか分かるデザインが良いですね。 豆カスちゃんの語るうんちくは、それ聞いたことある!というようなものもあれば、聞いたことないけどありえそう~というもの、さすがにそれは噓でしょというものなどいろいろで、完全看破は難しいでしょう。私は満点獲得に5回のプレイを要しました。また、豆カスちゃんには落ち着いた感じのボイスが付いています。私は普段ボイス付きの作品でもスキップしてしまうことが多いのですが、本作においてはボイスを聞きながらシンキングタイムのように使えて余すところなく堪能させていただきました。選択を外してもイラっとせずにコンプリートへの挑戦が続けられたのはボイスと立ち絵のかわいらしさゆえかもしれません。 ヒロインである豆カスちゃんが、単に誰彼構わず謎の情報を押し付けるサイコパスなのではなくしっかり人間らしい部分がある点も本作のさわやかなプレイ感につながっているように思います。おまけでの会話は微笑ましく、私もこんな雑談できる相手がいたらなあという気持ちにさせてくれました。あとノートを見られそうになって恥ずかしがる豆カスちゃん好きです。 -
友達以上、成仏未満下校中に何気なく立ち寄った神社で居合わせた女の子のトモリとの優しくて切ない青春物語です。 とにかく距離感が近くて主人公のユウに対して積極的なトモリと照れて困惑しながらも息ぴったりなユウとのあま~いやり取りは大変微笑ましく、うらやましくも感じられます。しかし、本作のタイトルが「友達以上、成仏未満」であることを考えると、トモリが生身の人間ではないことは想像に難くないでしょう。 過去の出来事から逃げ、目の前に見えるトモリとの刹那的な友情に溺れそうなユウと、そんな状況にいつまでも甘えていられないことに気付いている友人たち。この友人のキョウスケとアイハラがまたいい子ですね。思うところがありながらも決してユウに対して無闇に否定の言葉を掛けたりはしません。こんないい友人を持ったユウは幸せ者ですね。 タイトル画面でこちらに向かってほほ笑むトモリは大変可愛らしく、ボイスもついています。個人的には、立ち絵のタッチと合わせるように加工された背景イラストや、バックログでこちらを見守っているようなトモリの構図なんかが気が利いているなと感じました。 果たしてユウは前を向いて歩いて行けるのでしょうか。エンディングは4種類。フラグは厳しいですがヒントはちゃんと提示されているので多少の試行錯誤で分岐条件を見極められるでしょう。エンド1が最善の結末なのかと思っていたら、エンド3の展開には驚きました。やはり友人は大事にするものですね。グレーの選択肢などちょっとした演出も嬉しい所。ぜひ皆さんの目でこの切なくもどこか安心できるような青春物語の行方を見届けてあげてください。
