あいとぅーのレビューコレクション
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椿屋敷の亡霊全文にネタバレを含んだ感想なのでプレイ前には絶対に読まないでください。 @ネタバレ開始 金田一ミステリのような作風に新本格系のような叙述トリックが噛みあった作品。力作ではあるが惜しいと感じる点も多かった。 大量かつ質の高いイベントスチルはリッチなプレイ体験をくれるし、本格ミステリの気風漂う人物表や家系図、屋敷の地図などは否応なく気持ちを昂らせる。 また各章ごとに挟まれる推理パートは読者を探偵の視点に立たせて情報を整理させ、足並みをそろえることに成功している。 推理パートは「遊ぶ」ゲームとしての本作の魅力になっていると思うが、その初回が1章の後であることが惜しまれる。 最初の探偵事務所でのパートで掴みとして軽く推理パートを入れてほしかった。 フリーゲームはプレイするためのハードルが低い分、プレイをやめるハードルもまた低い。楽しい部分は少しでも先に見せるべきだと思う。 新本格ミステリらしいトリックの筋立ては見事ではあるが、トリックと伏線を見せることに躍起になっていて物語が薄い。キャラクターが記号的で魅力を表現できていないように感じた。 例えば、殺人の直後の食事描写で「食べるものも食べないものもいる」は、ない。食事を取れる者とそうでない者がそれぞれ誰なのか描写するだけでも人物に厚みが出るし、読者の推理の一助にもなると思う。 叙述の仕掛け的に描写を丁寧にするとアラが出そうなのは分かるが、こういうトリックを仕掛ける以上はそここそが腕の見せ所だろう。 これだけ数のスチルを用意しているのに重ねて言うのは忍びないが、立ち絵に表情差分が欲しかった。サウンドノベルの利点として、立ち絵で感情を表現することでその文章描写を省いてテキスト量を減らせる(=読者の負担を減らせる)点があると思う。口を開く/閉じる差分だけでは表情があるとは言えないと思う。それをしないなら、心情描写のテキストを増やすべきだ。 左右に視点を振る動きが活かせていない。屋敷内で実装されているこの動きは、大人数が集って話すシーンで多くの人物を画面に無理なく登場させられるし、演劇における上下のように人物の配置を考えれば構図の整理もしやすくなると思うのだが、本作ではあまり活かされておらず、やたらと左右に振りたがるので演出待ちの時間が長く感じる。 ストーリー上、多くのキャラクターが集まって話すシーンが何度かあるが、そういったシーンでは画面外から声を発するキャラクターがいて誰が話しているのか分かりづらかった。 サウンドノベルが単なる文面より優れている点として、話者の整理がしやすい点があると思う。 先述の画面振りと合わせて、なんとか人物を画面内に表示させて分かりやすくしてほしかった。 あと登場人物の名付けがシステムと噛み合っていない。 テキストボックスの左側の人物名表示で名前の1文字目が大きく表示される仕様があるのに、「蓉介」と「蓉一郎」という名前!親子関係にあることが分かりやすいものの、仕様的に判別しづらくなってしまっている。 なんなら芙と蓉も似ていて見分け難い。芙蓉から取るネーミングセンスは好きだが、読みやすさとは切り分けてほしかった。 後半は意見ばかりになってしまったが、口を出したくなるほど熱量を感じる作品でした。 今後の作品に期待しています。 @ネタバレ終了