枯之葉のレビューコレクション
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双子の兄が四人居た。5〜10分程度の短い内容の中で翠と葵の二人の関係性や非日常的なものが日常として隣り合わせでいる奇妙さや不安定さを的確に描写しており、ラストシーンの後に引く余韻が心地良く響き続けてくる物語でした。 多重人格という様々な要素や深掘りできる部分を色々と詰め込められる広げしろが大きいテーマの中で、あくまでも「双子の兄弟の関係性」に主軸を置き、別人格とやり取りを交わす場面でもその焦点から決してズラさず簡潔に書き切ったことが、実際の文章量以上の物語の奥深さを味わえることに繋がっていたのだと感じさせられました。 @ネタバレ開始 それぞれの人格の造形も葵の身に何が起こってこのようなことになってしまったのかを程良く想像させられ、ただし確証までには至らない具合の情報量に留めており、これもまた物語の余韻や葵への考察の余地を生み出しています。その上で多重人格が起こった原因を知りたくないとプレイヤーが操作する視点の翠が断言することで、その先の深掘りはプレイヤーであっても手を出してはいけないという禁域的な神秘性も同時に形成し、知るべきではないのかもしれないに考えさせられてしまう危うい好奇心を掻き立てているように感じさせられました。 そして前述した通り、物語最終盤の締め括り方が個人的な好みに非常に刺さっています。葵が吐露した不安によって翠の本音が引き出され、互いが胸の内に抱えていた思いを露わにしたところでハッピーエンドを迎えたらしい映画のエンドロールが流れるる……という一連の流れが構図として文章的にも映像的にもあまりに完成度が高く、意識を向けていなかった映画を翠が「ハッピーエンドらしかった」と表したこの一行が、ゲーム上の物語が終わりを迎えてもこの先の二人の日常は受け入れ難いことや分かり合えないこと、分かり合いたいなどを織り交ぜながら曖昧に緩やかに続いていくんだという、主観を多分に含んだ解釈ですが自分はそのような意味合いで受け取り、快い読了感に浸れました。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をプレイさせていただき、ありがとうございます。
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SICK STREAMER MESSAGE CHECK物語全体を通しての鬼気迫る生々しさと緊張感に胸の辺りが締め付けられる感覚を覚えながらも、読む手を休ませない魅力的な文書力に引き込まれていきました。 一度歪んだしまった心の、自罰的かつ堂々巡りな思考回路と精神状態という第三者の目線からすれば悍ましく思われかねない描写へ真っ直ぐに向き合い、一つの作品として惜しみなく表現し切ったその姿勢に好感が持てました。 @ネタバレ開始 その上で救われない様を淡々と描くだけに留まらず、end6とextraで些細な救いと希望が見える形で締め括ったことに、作者様の創作者としてのある種の矜持が垣間見えたように感じられ、爽やかな心持ちでクリア後の余韻に浸ることができました。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をプレイさせていただき、ありがとうございます。
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インザキャロル水色と桜色と爽やかな色彩で描写された陰鬱とした世界に仄暗さを纏ったトーリの表情、8bitのレトロな雰囲気と曲全体からほんのりとした冷たさを漂わせているBGM、そしてストーリー。全てが作者様が表現したい物語や哲学に合致していて、短いながらも心に残るものが確実にある、読み応えが大きい一作でした。 @ネタバレ開始 エンディングはαルート含め全て通過し、その中でも個人的にはEND2の結末に惹かれるものがありました。 主人公は自分がトーリの求めているキャロルではないと打ち明けることを諦め、トーリもまた自らが求めるキャロルを蘇らせることを諦め、どうしようもない諦念の中に陥りながら「日々は続き」という終わりへと温もりと共に緩やかに描かれている様は、END1やEND3、αルートを通った後で再び読み返すと、想定した物語の結末だけでなく、それに辿り着けなかった結末も用意することのできるノベルゲームという媒体だからこそ体感が可能な味わい深さを感じられて、その後に訪れる二人の結末を想像しながらじっくりと噛み締めてしまいます。 @ネタバレ終了 素晴らしい作品をプレイさせていただき、ありがとうございます。