鏡も絵/空城チロルのレビューコレクション
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藹々鬼譚美麗な作画と神聖な文章で紡がれた世界観に圧倒される、極上のビジュアルノベルでした。 川のせせらぎの速度で展開されていく物語で、柔らかな日差しを浴びているように穏やかなのに、足元はいつ底なしに落ちるとも知れぬ水辺のような、そんな危うく切ない心地を味わえるストーリー。正直、泣きました。 (以下、キャラの簡素なネタバレを含みます) @ネタバレ開始 まず、キャラクター設定と、シナリオに準じたその設定の展開の仕方が素晴らしかったです! 主人公の少女「六」が出会った「縁」という鬼。彼は初登場のときから気さくで朗らかな性格で、一見とてつもなく善良なキャラクターに見えるのですが、なんとなく相手の心を考えないような、人とは相容れない不穏も垣間見えます。物語が進んでいくごとにそれは致命的なまでに浮き彫りとなりますが、けれど決して憎めない。彼にはどこまでも純粋な「人ならざる」心があるだけで、悪意は欠片もないことに気づきました。 さらに物語が進んでくると、彼や鬼の世界にまつわる秘密が明かされていきます。底の見えない主人公と一緒に、彼を愛おしく感じてくるのです。物語が後半部を迎えると、そうしたキャラクター展開と共に、話の流れが変わってゆくのが印象的でした。画面越しに見惚れていた彼や彼女が、切なく儚い二人に思えてきました。 最後、彼や彼女はどうすればよかったのだろうと思いを馳せずにはいられません。 @ネタバレ終了 分岐の2パターンのうち、わたしはED1から回収させていただきましたが、縁の独白を含めて胸を抉られるようなお話でした。 世界観の美しさにかまけていると、気づいたころには硝子片を飲みこんだような切ない痛みを覚えますが、その痛みは心地好く、わたしの胸に残りました。 他にプレイされる方へのネタバレを控えるために抽象的なコメントになってしまいましたが……本当に大好きなお話です! この物語を最後まで紡ぎ、世に生みだしてくださって、ありがとうございます!