劇団くじら座のレビューコレクション
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僕らのノベルゲーム谷口さんにガチ恋ヲタクの「劇団くじら座」座付き作家、東雲です。 フェスが終了しようとしている今になって、ようやくこの物語に触れることができました。今この瞬間、こうしてプレイすることができたことが感慨深いです。はじめに自分語りをしてしまい本当に申し訳ないのですが、感想を述べさせていただきます。 この作品のことが心の片隅にありつつも、数ヶ月もの間ずっとプレイすることができませんでした。 それは、ひとえにこの作品が「ノベルゲームの集団制作」を題材としていたから。 主人公・樋口くんの痛みは、ゲームを制作していた頃の私自身の痛みでした。 それでも、創作を捨てることなんてできない。その光を手放すことなんて、できるわけがないんです。圧倒的な孤独の中でしか創作は生まれない。そして、そんな孤独を共有し、一緒に作り上げていくからこそ、集団制作は他の何物にも代えがたい幸せなんだと思いました。樋口くんも、僕も、集団制作を経験した多くの方々にとってもそうであってほしいなと思います。 「ノベルゲームの集団制作」という主題から逃げることなくストーリーを描ききった本作は、同人ゲーム制作者の交流の場という側面もあるティラノゲームフェスにまさにふさわしい力作だと思いました。素晴らしい熱量の作品でした。同人ゲーム制作者ほど刺さる内容だと思いますし、そうでない人にもリーチしてほしいなと思える作品です。 本作の魅力は、先述した集団制作を描ききったことに加え、キャラクターの解像度の高さにあると感じます。特に谷口香織というキャラの解像度はすさまじく、タツくんへのリアルな詰め方は見ていて本当に怖すぎました。リアルすぎる……こういう気が強い子、中高の部活に複数人いましたよね……。そしてちょーちっちゃくてかわいい。つまりはそういうことです。谷口さんとのシーンで話題に出たキャラ付けのメソッドは本当に勉強になりました。おそらく、作者さまご自身が本作において実践しているからこその登場人物の解像度の高さなのだと推察します。 それから、これはプレイする上で非常に重要なことだと思うのですが、とにかくストレスフリーに読み進められます。文章も、演出も。とりわけ演出については細部まで調整が施され、UIもとてもユーザーフレンドリーだなぁと感じました。キャラの絶妙な表情差分がまたいいのです。とにかく谷口さんがリアルすぎていいのです。あ、美央も好きですよ! 気になった点としては、谷口さんのごたる鋭く冷たい視線を内面化させて見てみますと、いくつかあるように思います。ですが、物語の熱量の前ではさほど気になるほどでもありませんでした。二点だけ挙げますと、まず前半のフックが弱いように感じました。それから、作中作の扱いは非常に難しいところなのですが、個人的な意見としては、作中作それ自体が読み手のイメージを喚起し、また本編に伏流するイメージの媒体であると望ましいと思うのです。もちろん本編のすべての要素に繋がる必要などなく、そんな意味づけを行う理由もありません。だけど、それは本編のテーマを示唆する比喩であったり、主人公たちにパワーを与え行動の動機づけとなるような内容であったり、そしてメタ層に位置する読み手そのものにリーチする物語であったりしてほしいのです。本作の場合、作中作はあくまで作り上げられる目的、達成されるべきゴール、世に放たれるべき対象であって、作中作の物語、「世界」そのものがイメージの源泉となることは少なかったのではないかと個人的に思いました。 とはいえ、個人の意見なので聞き流していただいて構いません。むしろ、作者さまご自身の表現したいことを追及してほしいと切に思います。 つらつらと書き連ねてしまい本当に失礼いたしました。忘れられない気持ちを、それでも忘れてしまおうとした気持ちを思い出させてくれる作品でした。素晴らしい作品をありがとうございました!
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パーソナル・スペース「劇団くじら座」シナリオ担当、東雲です。 この作品をプレイしたのは昨年の9月でしたが、今の今まで感想を書き残すことができず申し訳ありませんでした。遅ればせながら、プレイ当時の感想を書いていきます。 事前情報から一番気になっていた作品であり、さらに前回のフェス優勝者様の作品ということもあり、真っ先にプレイさせていただきました。 結論から言うと、非常に面白かったです。特に演出と構成に優れた作品だと思いました。正直なところ、イラスト等を外注しているとはいえ、このクオリティの作品をおひとりで完成させたという事実に少なからず感嘆しました。 以下ネタバレを織り込んだ感想。 @ネタバレ開始 まず、シナリオの内容がとても丁寧に作り込まれていました。ボーイミーツガールにハードSFの要素を絡めていく様は、どこかジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつのさえたやり方」といった青背の古典SFを彷彿とさせる雰囲気を感じました。「ヒューマン・ファンビル」の概念など、古典SFのラインナップのひとつにしれっと紛れ込んでいてもおかしくないのではないでしょうか。ろ、浪漫……! とりわけ瞠目したのは構成の妙です。各チャプターは断片的でありながら、その実本編は断片的にならないように注意深く構成されています。そうした構成はゲームのそれというよりは、むしろ映画を観ているようにすら感じられました。それは、「語り手」が実際にデータを閲覧し、過去に何が起きたのかを解き明かしていくというストーリーの流れが存在することがもっとも大きいからではないかと思いました。訪れた宇宙船内の断片的なデータに混乱し、どうにか「点と点をつなげ」「一本の線に」しようとしていく語り手の姿勢は、そのままこのゲームを「解釈」しようとするプレイヤーの視座と重なっていきます。そして、今までプレイヤーの視点として機能してきた語り手こそが、この物語の帰結ともいうべき存在であると判明したそのとき、今までプレイヤーが依拠していた視座が揺らぎ、はじめてプレイヤーにもこの物語の全貌が見えてくるのです。こうした類い稀なる構成こそが、本作の最大の魅力であり、また通奏低音として響く「点と点をつなげて一本の線にする」というテーマにも通ずるのではないでしょうか。「パーソナル・スペース」という題名といい、作者様はこういったテーマを物語に伏流させることに非常に長けていると強く実感する次第です。 ただひとつ、あえてシナリオで私見を述べさせていただくなら、各キャラクターがストーリー内でもっと活きれば、より力強い物語になったのではないかと思います。その点ラズリは魅力あふれた素敵なキャラだと感じました。彼女なしではこの物語は成立しなかっただろうなと思ってしまうほどです。もう少しほしかったのは、やはりシロハとクロエのキャラ性と交流パートの掘り下げでしょうか。物語上の仕掛けが綺麗すぎるほど見事に決まっていたため、ストーリーの力強さそのものに直結するキャラクター性の力強さが今ひとつ足りないように感じられたのが少しばかり心残りです……とはいえ、終盤のシロハには思わず感動させられました。正直、ここまでのクオリティであればさほど気にすることでもないように思います。あくまでも管見ですので…… @ネタバレ終了 もう一点忘れてはならないのは、優れた演出です。雰囲気を醸し出すBGMと効果音、背景グラフィックは、まるで自分が本当に宇宙についての記録を閲覧しているかのように感じさせてくれるものでした。見事なシナリオ構成を可能たらしめた確かなスクリプト技術と、物語を彩る目立たないながらも雰囲気作りという重要な役目を果たす演出こそが、この作品を名作たらしめているのではないかと思います。 絵師様のかわいらしくも登場人物たちの意志や個性を感じさせるイラストもとても素敵でした。特に好きなキャラは上述のとおりラズリです。なんて侠気に溢れたアンドロイド……! しかもメイドさん。属性過多すぎやしませんか!? 非の打ちどころのない極めて優れたゲームだと率直に感じました。こんな名作がごくふつうの顔で紛れ込んでいるティラノフェスすごい。作者様の次回作も楽しみです。がんばってください!
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ろりこんものすごい疾走感でした。タイトルから予想したものよりかなり斜め上のぶっ飛んだ展開で、しかしある意味理路整然としたストーリーは謎の説得力がありました。いったいどんな人生経験を積んだらこのようなゲームが作れるのでしょうか……。めちゃめちゃ面白かったです!
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このボタンを押すとテュティパティし出す終始絶妙な不条理感にニヤニヤしていたら、意外な角度のオチに不意を打たれました。 なぜだかわからないけどプレイするととても安らかな気持ちになる作品です。またボタンを押しに来てしまうかも……。
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お前のスパチャで世界を救えすごいゲームです……。やるべきことのはっきりした王道展開の中でVTuberという要素が余すことなく生かされており、シンプルなようで意外性のある奥深いストーリーに仕上がっています。あとにあちゃんがめっちゃ動いて可愛いなんだこの技術!!! UIやデザインも洗練されていて演出のテンポもよく、ゲームとしての完成度の高さを感じました。意図してかどうかはわかりませんが、実際のVTuberさんが取り上げることで、作品の間口が広がりつつティラノゲームフェスそのものの注目度も高まる……という現象が起きているのもすごいです。素晴らしい作品でした!
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しようよ七海君!